第57話 竜王の断末魔
より詳しく解析するためには、もっと近くでサーチを使う必要がある。
俺は地面を蹴り、ダンジョンを旋回するアイギスに飛びついた。
「……ッ!! なんて速さだ……ッ!!」
振り回すアイギスの竜の腕に触れると、魔力を直接流し込んでサーチを開始した。
これでより詳細に分析できる。
「……なんだ、それ? なんで攻撃をしない……? 触るだけ、だと?
て、めぇ……ッ! 何のつもりだ! このアタシを舐めてんのか!!」
激しく振り回されるアイギスの腕から離れる。
解析は完了した。
解析した情報に従って魔力を竜の腕へと飛ばす。
その瞬間、竜の腕が塵になって分解された。
「なんだ!? なにをした!?」
「弱点属性の魔力を流し込んだだけだよ」
あの竜の外殻は、俺が知ってるどの物質とも違うようだったんでな。
弱点属性も存在しなかった。
なので新しい弱点属性を作って流し込んだんだ。
属性について口で説明するのは難しいが、見ればわかるだろうか。
これがその魔力だ。
これを使えばみんなも一撃で倒せます。
>何も見えないんだがw
>バカには見えない魔力かな
>何でそれでわかると思ったのw
>わかるわけないだろw
>未知の物質の新しい弱点属性って意味わからんw
塵になった竜の腕はそのまま崩れ去っていった。
しばらくしてから、その腕に新しい外殻が生成される。
「舐めやがって! ぶっ殺してやる!!」
全身の稼働部位に取り付けられた噴射口が火を噴き、やたらめったらに加速しながら攻撃してくる。
なんていうか、ほとんど暴風雨みたいな感じだ。
「クソッ、クソっ、クソがあぁああ!! なんで1発も当たらねえんだ!?」
>ケンジくんにスピード勝負はやめろってあれほど……
>でも当たらなきゃ意味ないからスピードに頼るほかない
>詰んでるじゃん
>狭いダンジョンなら範囲攻撃でワンチャンと思ったけどな
>それも魔力壁で防がれるという
>どう考えても詰んでるなこれ
>ケンジくん倒せる方法この世に存在するの?
「……ああ。そうか。そういうことか」
暴れ回っていたアイギスが、まるで電池の切れた人形のように、急にストンとその動きを止めた。
「あんまりにもイラつくもんで、アタシがここに来た目的を忘れてたよ」
悟ったような顔でつぶやく。
「全力を出せってことだよな? そうだよな? だったらいいぜ。全力も全力。マジの120%でぶっ放してやる。
言っとくがマジの全力はアタシだって出したことがねえ。どうなるかわからねえけど……ま、しょうがねえよな。てめえが呼んだくせに、アタシの思いを避けてばっかで受け止めてくれねえんだから。
……ああ、別に避けたっていいぜ。てめえも他の奴らと同じで、その気が無いってんならしょうがねえ。
代わりに地球ごと全部ぶっ壊れるけどなあ!?」
アイギスが吠える。
「竜骸骨格・全身鎧〈竜王〉!!」
今までの倍以上はある巨大な竜が全身を包む。
その異様はまさに竜王の名にふさわしい。
竜王が咆哮を上げると、莫大な魔力が全身を包み込み、全身を一つの砲弾に変えて突撃してきた。
「これがアタシの全力だ!! 地球ごとぶっ壊れちまえっ!!」
「それは困るな」
摩擦熱で周囲を焼き尽くしながら襲い掛かるその姿は、まるで彗星だ。
突き出されたその拳に合わせるように、俺も正面から拳を打ち付ける!
──バギンッ!
俺の拳と竜王の拳が真正面からぶつかり合い、竜王の拳が塵になって砕け散った。
「なにぃ!?」
すでにサーチは済んでるから、もう弱点はわかっている。
それは大きくなったところで変わらない。
どこに魔力を流せば壊れるかは一目瞭然だ。
アイギスが怯んだ隙に、俺は一瞬で懐まで潜り込むと、そのスピードに乗せて胸部に拳を叩き込んだ!
──ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴンッッ!!!!
竜王の中心に、一瞬のうちに10回攻撃を叩き込む。
叩き込まれた魔力は竜の体を破壊し、中にいたアイギスの体の内側にまで浸透する。
まとっていた竜外殻が砕け散り、その反動で中にいた小柄な少女が宙に投げ出された。
その体にはもう一つも外殻は残っていなかった。
アイギスの体の中に残っていた竜の気配まで、念入りに壊したからな。
当分は外殻を出すことはできないだろう。
気を失っているのか、目も閉じたままだ。
ダンジョンは10階分以上も壊れている。
身を守るものもないままこの高さから落ちれば、さすがに無事とはいかないだろう。
助けに行こうかと近寄りかけた時、その目が薄く開く。
その瞳にはもう、先ほどまでの熱は残っていなかった。
何かが抜け落ちたような透明な眼差しで俺を見る。
細い腕を持ち上げ、おもちゃのような指鉄砲を形作ると、小さな声でつぶやいた。
「竜骸魔法・奥義〈竜王の断末魔〉」
キィィ……ン──
極小の光の線が指先から放たれる。
それは真っ直ぐに俺を捉え、かざした手の平で止まった。
アイギスが笑った。
「……はっ。こいつもダメなのかよ」
「すでにお前の魔法は解析完了してる。弱点属性の魔力で受け止めれば問題ない」
「簡単に言いやがって。光の速度だぞ。……なんで反応できんだよ」
つぶやきながら、そのまま宙を落ちていく。
その顔は笑みを浮かべたままだった。
「完敗だな」
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