第55話 ではゆっくりと弱点を把握していきましょう
ダンジョンの天井を突き破って女の子が降りて来た。
見た目は中学生くらいの小さな女の子だったけど、その顔に浮かんでいる笑みは、今まで見たどんな相手よりも凶悪だった。
「まずは10%だ。これくらいで死んでアタシをガッカリさせんじゃねえぞ」
少女がその小さな腕で攻撃してきた。
──ゴガァン!
かわした背後の壁が、軽々と破壊された。
思ったよりも早いし、その威力も見た目より遥かに大きい。
「なるほど、そういうタイプか」
「ちっ、すばしっこいな」
避けた俺に向かって、少女がさらに攻撃してくる。
薄い迷路の壁が次々に砕かれていった。
この程度なら当たることはないが、危ないためいったんシオリと共に距離をとる。
「うーん、この感じからすると、どうやらRTA走者ではないみたいですね」
>あたりまえだよw
>なんでその可能性があると思ったのw
>ついに幻覚まで見え始めたか
シオリが前に言っていたバトルハンターというやつだろうか。
戦うことが好きとかなんとか。
少女は逃げた俺を無理に追ってくることはなかった。
「まあこの程度でやられるわけないよな。
だけどこっちも準備運動みたいなものだ。ここからさらにギアを上げてくぜ」
少女が離れた位置から動かず、その場に立ったまま小さな手で再び攻撃してきた。
そんな遠くからどうやって……
思った直後、その腕に巨大な外殻が形成され、あっという間に俺の目の前にまで迫ってきた!
──ドオオオン!!
直撃を受けた壁が、数枚まとめて一度に吹き飛んでいった。
突然現れた外殻の腕は、無数の骨を組み合わて作られた、竜の腕のようだった。
巨大な竜の腕がそのまま横に薙ぎ払われると、ダンジョンを抉り取るように根こそぎ破壊していく。
「こんな狭いところじゃやってらんねーな。ちょっと広くするぞ」
巨大な竜の腕が床を叩き割る。
3階分ほども一度に打ち抜くと、そこに生まれた広い空間の中央で、少女が浮かんでいた。
その背には竜の骨でできた翼が生えている。
「竜骸骨格・四肢」
両手両足に巨大な外殻が形成される。
背に翼を生やしてこちらを見下ろしてくる姿は、人間というより、まるでアンデッドドラゴンみたいだった。
あれがあの子の正体だろうか?
「これでもまだ30%だ。頼むから簡単には死んでくれるなよ!」
翼を打ち鳴らした瞬間、崩落したダンジョンに着地したばかりの俺に向かって、その姿が目の前にまで迫ってきた。
速い!
さっきの攻撃よりもさらに数倍は速いスピードで突撃してくる。
かわした俺の真横を通り過ぎると、そのまま床を粉々に打ち砕きながら突き抜けていった。
まるで障害物なんてないかのように、狭いダンジョンの中を破壊しながら自由に旋回していく。
突撃するだけで周囲が砕かれ、振り回された両腕が薄い迷路の壁を次々に引き裂いていった。
その姿はまさに暴れ回る竜だった。
「ああ、せっかくのダンジョンが、迷路が壊されていく……! なんてことでしょうか! いいぞ、もっとやれ!」
>うれしそうw
>本音を隠せてないぞw
>マジで迷路嫌だったんだなw
自分でのダンジョン破壊は禁止してるけど、遭遇したモンスターなどによる破壊はもちろんOKだ。
迷宮エリアにはダンジョンを破壊するような巨大モンスターはいなかったから、こういう展開は新鮮だな。
「あの姿……まさか……」
シオリが何かに気づいたように声を上げる。
「ケンジ、そいつ【竜骸のアイギス】よ!」
>ゲェッ! やっぱ【竜骸】じゃねーか!
>なんでアイギスがここに……
>日本終わった
>イギリスの次は日本か
>島国に恨みでもあるのか?
>大丈夫、ケンジくんの配信だよ
>あ、勝ったな
>安心感やばwww
俺は知らないけど、どうやらコメントのみんなは知ってるみたいだ。
どう見てもアンデッドドラゴンだし、有名なモンスターなのかな?
竜がダンジョン内を旋回し、急降下しながら再び攻撃を繰り出してきた。
爪で引き裂き、かわされても床や壁を巻き込んで破壊しながら空中を旋回し、再び俺に突撃してくる。
その巨体に見合わない速度と身軽さだった。
ドラゴンというより、その機動力は飛竜と言った方が近いかもしれないな。
「どうした、避けてるだけか!? そんなんじゃ一生アタシに勝てないぞ!!」
「えー、そういえばイフリートの時に解説し忘れていたので、ここで初見のモンスターとの戦い方の解説を行います」
>この状況で配信続けるのwww
>ウッソだろwwww
>アイギスガン無視wwww
>メンタルやばすぎるwwww
よく誤解されますが、RTAでは毎回最高記録を出すわけではありません。
もちろん記録は狙いますが、失敗することの方が多いです。
大切なのは、諦めずに何度も行うことと、次への対策を作ってアップデートしていくこと。
特に、初見の敵と出会った時に大切なことは、もちろん早く倒すことも大切ですが、次に会った時に最速で倒せるようしっかりと解析し、攻略法を確立することです。
なのでまずはサーチを使って相手の情報をしっかりと把握します。
体の可動部分や構造、弱点なんかもわかるといいですね。
ではゆっくりと弱点を把握していきましょう。
……はい、わかりました。
>もうwww
>ゆっくりとはwww
>さすがに嘘でしょ?
その間にもアイギスが何度も猛攻を仕掛けてくるが、俺はそれを見ることもなく紙一重でかわしていった。
「ちっ、なんで当たらねえ……!!」
「モンスターの構造を把握すれば攻撃範囲や移動速度がわかります。
なので敵の行動パターンをほぼ網羅できます。
パターンさえわかってしまえばあとはチャートを組むだけですから、よけるのは簡単ですね」
>簡単な訳ないんだよなw
>一発でもかすったら即死なのにw
パターンがわかってれば、攻撃される前によけることができる。
後は弱点を突いて攻撃するだけだ。
例えばここを叩けば……
竜とすれ違いざまに腕を叩く。
外殻を繋いでいた接合部を何箇所か同時に叩くと、右腕を形成していた外殻が空中でバラバラに分解されていった。
「なに!? アタシの腕が……!?」
「……はい。腕が取れましたね」
>うそーん……素手で壊れちゃった……
>竜骸に弱点あるのかよ……
>物理最強じゃなかったのか……
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