第54話 宮殿エリアの大宝物庫
エレメンタルやアーマーナイトを倒しながらしばらく迷路を進んでいく。
そして、やがて目的地にたどり着いた。
「着きました」
そこにあったのは、見上げるほど巨大な空間と、それを全てふさぐような巨大な金の扉。
シオリの息を呑む気配が伝わってきた。
「これって……!」
>うおおおおおお! 大宝物庫だ!!!
>宮殿エリアの超ボーナスステージじゃねーか!!
>前の配信者はここで世界に一つしかないユニーク武器を見つけたんだよな
>名剣カシナートだっけ
>今度は一体何があるんだ
コメントも急に盛り上がってきた。
やっぱりみんなもここのことは知ってるみたいだな。
「やっぱり有名な場所なんですね」
>そりゃもう超有名
>ここを目的にする配信も多い
>お宝の山だからな
>ケンジくんも知ってて来たんじゃないの?
そういえばシオリも30階までなら来たことあるって言ってたっけ。
さっきも驚いてたみたいだし、シオリも知ってるのか。
「そうね。来たのは私も初めてだけど、目標の一つではあったわ。
それがケンジの配信でっていうのは、正直複雑だけど……」
そういえばシオリは自分の配信もあるんだったな。
確かにそうなると自分の配信で来たかったかもしれない。
それは悪いことをしたかもな、と思いつつも、まあ来てしまったものはしょうがない。
俺は大宝物庫の扉に近づくと、その大きな取っ手を両手でつかんだ。
>あのケンジくんがわざわざタイムを浪費してまで来る場所……
>神々の契約すら捨てるあのケンジくんが……
>絶対やばいぞ
>歴史が変わることは間違いない
>100万回切り抜かれるな
>やばい、ドキドキしてきた……
>緊張で吐きそう……
「みんなも知ってると思いますが、宝物庫の扉には必ず罠があります。
罠の種類は毎回違いますが、今回はサーチでわかっています。
なので扉を開いて発動させましょう」
>えっ
>は?
>なんで?
>どうして?
開けた瞬間、足元の床が消失した。
落とし穴だ。
一瞬の無重力感のあと、俺たちは暗い穴へと落下していく。
「10キロも歩かされるところでしたが、5キロ程度で済みました。
落とし穴があってラッキーでしたね」
>ああああああーーーー!!!
>落ちるううううう!!!!
>大宝物庫がああああああああ!!!
>消えていくううううう!!!!
>たいむうううううううううううう!!!!
>阿鼻叫喚wwww
宝物庫の落とし穴率は低くない。
だからちょうどいいショートカットになるんだ。
みんなもそれを利用したいから知ってたんだろうな。
わずかな時間暗い穴を落ち、そして再び石造りの床に着地する。
さっそくサーチを使い、迷路の構造を把握した。
どうやらちょうど次の階段へ行く道の、真ん中あたりにやってきたようだ。
大体8キロほどのショートカットになる。
ダンジョンを先に進むほど、宮殿の迷路も広大になっていく。
いい場所に降りれてラッキーだった。
迷路エリアに来た時はどうなるかと思ったけど、この調子でいけばいいタイムが出せるかもしれない。
「というわけで36階に到達です。
しばらくは迷路エリアが続くので、こうしてショートカットを利用して進んでいきたいですね」
>ああ……
>なんてこった……
>今日ほどRTAという概念を恨んだ日はない……
>中のお宝を利用してショートカットする道はなかったんですか!?
「宝物庫の中身はサーチで調べましたが、武器や防具ばかりでこれといっためぼしいものはなかったです。
神速の腕輪みたいなのがあればよかったんですけどね」
そうすれば大当たりだったんだが、まあここで見つかったことは未だに一度もないからな。
>大宝物庫の武器や防具……
>一体どれだけの未発見装備があったんだ……
>人類の功績がまた一つRTAによって消えていった……
>これが……新たな災厄……
後ろでシオリが着地する音も聞こえる。
確認すると、その顔はなぜか無表情だった。
見たことない顔だけど……疲れてるのかな?
「シオリ、大丈夫か?」
「うん……大丈夫……。自分で見つけたほうが、きっと嬉しいから……」
やや目が虚ろな気がするが、特にケガはないみたいだった。
3倍速で走ったのは初めてだろうし、やっぱり疲れたのだろうか。
休憩するかどうかで悩んだ時、突然ダンジョンの天井が崩壊した。
「おー、やっと見つけた。あんたが神藤ケンジか?」
そんな声を響かせながら、小柄な一人の少女が目の前に着地する。
>え? こいつって……
>いや、まさかな……
>ここ日本だし、こんなところにいるわけ……
やって来た天井の穴を見上げると、はるか遠くに外からの光が見えていた。
もしかして、ここまで真っ直ぐにダンジョンを壊しながら進んできたのか?
>なるほど床破壊ありだとこうなるのか
>確かにRTAにならなそうだな
>ひたすら地面掘るだけの配信になりそう
>直下掘りで最下層に到達するまでの時間を競うRTA
>それはつまらない
>やっぱなしでいいわ
>さすがケンジくんわかってて禁止にしたんだな
俺はダンジョン破壊なしで走っているが、もちろんそのルールを他人に強制するつもりはない。
楽しみ方は人それぞれだからな。
少女はニヤニヤと俺を見ていた。
「お前のダンジョン、外側はやけに硬いけど、中はそうでもないな。なにしたらこんなことになるんだ? まるで何かを守るみてーだったけど……。まあ、おかげで真っすぐここまでこれたから、どうでもいいけどな」
ダンジョン内は階層ごとに隔離されてるから、外の階はサーチでも感じ取れないんだよな。
そういえば途中でかすかに揺れを感じたけど、あれはきっとダンジョンを外から揺らしたためなんだろう。
「まさかこんなところで他の冒険者に会うとは思いませんでしたね。
えーと、神藤ケンジってのは俺のことですけど、君は?」
「お! やっぱりそうか、よかった!」
少女が満面の笑みを浮かべる。
どうやら俺に会いに来たみたいだけど、一体なんだろうか。
RTAをしてると他の冒険者に会うことも当然ある。
協力して進むのも、ルール違反ではない。
とはいえ、協力して進むのはさすがに違うのではという意見にも中にはあるだろう。
また、どこからが協力で、どこまでは協力じゃないのかの線引きも難しい。
ダンジョン攻略という目的が同じ以上、他の冒険者と進む方向が重なることは当然ある。
もしかしたら同じRTA走者同士で出会う事だってあるだろう。
俺はまだその経験はないけど……。
目の前の少女を確認すると、装備らしい装備もつけていないし、ずいぶんな軽装だった。
俺が言うのもなんだけど、ダンジョンに来るような恰好ではない。
まさか……RTA走者なのか!?
「もしかしてRTAをしに来たのか?」
「RTA? ってのはなんだかわからないけど、勝負ならいいぜ。そのために来たんだから」
少女が俺に向けて、ニヤリと笑みを浮かべる。
「じゃあさっそく殺し合おうぜ」
その小さな体が、竜の骨のようなもので覆われた。
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