第52話 七大災厄が一人【竜骸のアイギス】日本襲来
正直にいえば、全然期待してなかった。
だって、しょせんはネットの書き込みだろ?
有ること無いこと盛って書くのが普通だし、このアタシに敵うどころか、足元に及ぶ存在さえいるはずがない。
でも、なあ?
そう思ってはいたけれど、それでも、万が一、億が一の可能性だってあるだろう。
というよりは暇つぶしか。
魔人とやらには期待してたんだが……正直期待外れだったからな。
雑魚を2、3匹ほど倒し、白いイレギュラーとやらも1匹倒したが、そこまでじゃなかった。
5、6発も殴ったら逃げちまったし。
人間を超越すると言われてた割には根性なかったな。
【綺羅星】は正面から戦ってくれないし、【黄泉返り】とは違う意味で戦いにならない。
アタシと正面から闘おうなんて存在は、もういない。
退屈だった。
アタシは今でも強くなり続けてる。
まだまだ成長中の14歳だ。
全盛期はきっともっと先。
大人のレディになったら、今よりもずっと魅力的なアタシとなってるだろう。
なのに、今の時点でもうアタシに敵う相手がいなくなったら、何のために強くなればいい?
増え続けるこの力を何に使えばいい?
アタシは、何のために、生まれてきた?
アタシは飢えていた。
この「力」を使う方法に。
アタシと戦えるほどの運命の相手に。
だから、足元から感じる微かな気配に、少しだけ笑みを浮かべたんだ。
「ふうん。あれが噂の彼がいるダンジョンか」
風が強くはためく。
ここはトウキョウのはるか12000メートル上空。気温はマイナス50度。
普通の人間なら生身で来られるような場所じゃないけど、まあ「竜骸」をまとったアタシにとってみれば大した場所じゃない。
はるか真下には東京の街並みがある。
ほとんど砂粒みたいなビルが立ち並んでて何が何だかわからないけど、その中に一点だけ異様な気配を放つ場所があった。
ダンジョン特有の気配、というにはちょっと強すぎる。
この距離からでもわかるほどそれは異様だった。
理由はわからない。
だけど何かが捻じ曲がっている。
「災厄」と呼ばれる力を持つ者だけに感じられる特有の感覚。
重い物体の周囲は重力によって空間が捻じ曲がるという。
ブラックホールとか、あまりにも重すぎて時間さえ捻じ曲がってしまうらしい。
それと同じことが「力」にも言える。
強すぎる人間の周囲は因果が捻じ曲がる。
それが、アタシたちが感じる異様な気配の正体。
七人の「災厄」のどれとも違う気配。
言うなれば、八人目の「災厄」。
日本にはこういう時に使うことわざがあったはず。
確か、能力者同士は引かれ合う、だったっけ?
「ふふふ。いいな。面白くなってきたじゃないか」
口元が笑みの形に歪むのを感じる。
アタシは「翼」を打ち鳴らすと、真下に向かって急降下した。
翼を打ち鳴らすたびに速度は加速度的に増していき、空気を切り裂く甲高い音が鳴り響く。
それはまるで竜の咆哮のようにも聞こえた。
空気摩擦による発熱が尾のように空を灼き、外から見れば赤い流星が一直線に落ちてくるように見えるだろう。
高高度からの竜骸による垂直落下攻撃。
竜墜一閃。
故郷のウェールズ島を地図から消した一撃を、アタシはトウキョウの片隅にある小さなダンジョンに叩き込んだ。
まあ、あいさつ代わりだ。
ドアをちょっと強めにノックするようなもの。
だって地下にいたらアタシが来たことにも気づかないだろう?
もちろん手加減はした。
これで相手を消し飛ばしたら意味ないからな。
なのに。
地面に叩きつけた拳は、大地をわずかに陥没させただけだった。
かすかに周囲が揺れたようだけど、それだけ。
地面が砕けることも、ましてやダンジョンにヒビを入れることさえできなかった。
「……無傷? どういうことだ?」
確かに手加減はした。
だけど手を抜いたわけじゃない。
少なくともトウキョウを壊滅させるくらいのつもりだった。
「……『竜骸骨格・右腕』」
振り上げたアタシの右腕を「竜骸」が覆う。
そのまま全力で地面に叩きつけた。
さっきよりも激しく地面が揺れる。
大地が陥没し、周囲の建物が傾き、ガラスや壁の砕ける音が次々に聞こえてきた。
避難警報も鳴ってる気がする。
けど。
やっぱり目の前のそれは無傷だった。
「硬い、だけじゃない……。アタシの一撃が、吸収された……?
まさか、ダンジョンが育ってるのか?」
ダンジョンが生きてることは、一定以上の実力がある冒険者の間では常識だ。
それは《《中にいる冒険者に合わせて成長する》》。
アタシの一撃を耐えるほど成長したということは、中にいる冒険者はアタシと同じか、あるいはそれ以上の実力者……。
だけど、ダンジョンだっていきなり成長するわけじゃない。
ダンジョンを育成するには長い年月が必要だ。
アタシだってアタシ専用のダンジョンを持っている。
アタシが入っても多少は耐えられる程度のをな。
それでも何十回も挑戦してようやくそこまで育った、といった程度だ。
だけど今アタシの足元にあるものは、そんなレベルじゃない。
叩きつけた時に感じたあれは、アリの手足で山を押すような、途方もないスケール差だった。
それほどの巨大な力を感じたんだ。
きっと一度や二度なんかじゃない。何十回、あるいは何百回……もしかしたら数千回。
あるいはそれすらも超える回数。
ダンジョンを鍛え続けたのだろう。
アタシの一撃を耐えるほどに……。
アタシの一撃すら「餌」にできるほどに……。
何のために、なんて考えるだけ無駄だよな。
理屈じゃないからな、アタシたちは。
「面白くなってきたじゃないか。
わざわざ日本まで来たかいがあったな」
アタシは「力」を持って生まれた。
生まれた時から誰よりも強く、成長するほどに力は増していく。
自分自身でも限界が見えない。
そしてある時思ったんだ。
アタシの全力はどれくらいなんだろう、と。
一度思ってしまうと、もう止められなかった。
理由なんてない。
この「力」を使いたい。
思うがままに暴れたい。
その衝動はもう理屈じゃないんだ。
だから、自分の力がどれだけあるか試したいというただそれだけの理由で、アタシはウェールズ島を粉砕した。
そのせいでイギリスが無くなっちゃったけど、小さい島国だったし、まあ大した問題じゃないよな?
それでも全力の半分程度だった。
もし地球まで割れてしまったら、いくらアタシでも生きていられないだろうからな。
まあ、試したことはないが。
だが、そうだ。
その時にわかってしまったんだ。
地球にいる限り、アタシは全力を出すことはできないって。
魔人ですらアタシの一撃には耐えられなかった。
だとすればもうこの地球上にアタシの全力を受け止められるものは存在しない。
だからその夢は諦めたのに。
「けど……あんたなら、アタシの全力を受け止めてくれるのか?」
翼を出したままではダンジョンに入れない。
アタシは翼と腕を元に戻すと、地下へ続く階段に足を踏み入れた。
もちろんダンジョンの周囲全部を破壊して、ダンジョンごと引っこ抜くことはできる。
でもそれじゃあつまらないだろう。
「ふふ……ふふふ……。せっかく我慢していたのに、こんなの見せられたら期待しちゃうだろうが。
ああ、アタシをこんなに昂らせたのはお前だからな?
ちゃんと責任、取ってもらうからな、神藤ケンジさんよ」
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