第50話 貴様は危険だ。ここで確実に倒させてもらう。
イフリートを倒したため、改めて部屋の中を調べてみたが、結論から言うと何もなかった。
この部屋には扉のようなものもなく、他のどこにも繋がってる様子はない。
イフリートの残した何やら馬鹿でかい、赤い炎を形どった大剣が転がっているだけだ。
「うーん、タイム短縮につながりそうなものはないですね。
この剣も使い道はなさそうですし、置いていきましょう」
>イレギュラー魔人のドロップ武器……
>装備すると呪われるかもしれないしね?
>不用意に持ち帰っていいものじゃないことだけは確か
>だからって一切躊躇ないのはすごい
>あんなに大きかったらタイムも10秒は落ちそうだし多少はね?
その時、後ろに何かの気配を感じた。
振り返ると、空間が歪み、そこからイフリートが現れた。
「貴様が連絡のあった人間の上位種か」
「人間一匹ごときに我ら全員を呼ぶとは」
「いつの時代にもイレギュラーはいる。油断はするな」
>え?
>え?
>え?
>嘘……
その後も次々とイフリートがワープしてくる。
俺たちの周囲を囲むように現れ、最終的にその数は30体になった。
「人間如きに我らの全力を出すなどあってはならぬ醜態だが……」
「獅子は兎を狩るにも全力を尽くす、と人間の言葉では言うのだったか」
「貴様は危険だ。例え臆病者と馬鹿にされようとも、我らの全力を以ってここで確実に消させてもらう」
30体のイフリートが一斉に魔力を解放する。
その全員が、白いイフリートに変貌した。
>嘘だろ……
>終わった……
>こいつら全部が、イレギュラーってこと……?
>こんな数、10年前にもいなかったぞ……
>まさか、人類を滅ぼすために、準備してたのか……?
>それが今、ここに集まってきたってこと……?
なるほど。
白いイフリートは倒れると仲間を呼ぶタイプのモンスターだったのか。
となるとこいつらも同じ可能性がある。
より確実に倒さないといけないな。
「ケンジ……、こいつらは本当にやばい。私も手伝うわ」
背後にいたシオリがそう言ってきた。
「私なんかじゃ役に立たないかもしれないけど……1匹くらいなら、差し違えることができるかもしれないから……」
「ありがとう。でも大丈夫だ」
俺を心配してそう言ってくれたんだろう。
もちろんシオリの力を借りれば、その分だけ楽に倒せる。
だけどその必要はない。
「今日は運がいいですね。白いイフリートは仲間を呼ぶということを知ることができました。
さっき確立した討伐方法ではうまくいかなかったので、さっそく修正することができそうです。
おかげで次のRTA時にタイムロスをしなくてすみそうですね」
俺は再び魔力の剣を生み出した。
想定するモンスターの力を少しだけ上方修正し、それに合わせて手に込める魔力も調整した。
それを戦闘態勢と思ったのか、イフリートたちも魔力を生み出し、一斉に襲いかかってきた。
「「「ここで死ね人間!!!」」」
「100倍加速・初級剣スキルLv1〈スラッシュ〉・30連」
──ズザザザザザザザザザンッッッ!!!!!!
30の斬線が同時に飛び交う。
白いイフリートの群れはことごとく真っ二つにされ、言葉ひとつ残す暇さえなく、真っ白な灰になって散っていった。
「……よし。計算通りですね。仲間を呼ばせることなくイフリートを倒せるだけの、最小の力を使って最速で倒すことができました」
>30体の魔人を……一瞬で……?
>これがケンジくんの本気……
>ケンジくんがスキルを使ったらやばいだろうなとは思ってたけど……
>まさかここまでなんて……
「とはいえ、今の俺の実力での最速というだけで、実際はもっと早く倒せるはずです」
俺は戒めるように首を振る。
「コメントのみんなが優しいから、自分は強いと勘違いしそうになってました。
スキルを使わなければ倒せないなんて、やはりまだまだ未熟ですね。
スキルを使わずにもっと早く倒せるよう、これからも練習していきます」
>あれだけ暴れてなんでそう思えるのw
>常に記録更新を目指すのがRTA走者
>まだ伸び代があるってこと……?
>どんだけ強くなるんだ……
「というわけで、白いイフリートと出会ったら、〈スラッシュ〉で魂の核を切りましょう。
切る瞬間に、核に魔力を浸透させることで、崩壊を早めて仲間を呼ばせないようにすることができます。
出会ったら皆さんも真似してみてください」
>あのさぁ……
>だからさぁ……
>いつも言ってるけどさぁ……
>できるわけないだろそんなこと!!
>この一体感久しぶり
まあ確かに俺もまだまだだからな。
コメントのみんなと一緒に成長していこう。
その後、念のためにもう一度部屋の中を軽くサーチしたが、特にこれといったものは見つからなかった。
「やっぱりこの隠し部屋は入る意味がなかったようですね。
まあ仕方ありません。ショートカットは必ず成功するわけではありませんからね。
タイム短縮を狙ってリスクを取るか取らないか。その辺りの駆け引きもRTAの醍醐味と言えるでしょう。
みんなも溶岩湖の隠し部屋を見つけても入らない方がいいかもしれないですね」
>頼まれたって絶対入らない……w
>タイム短縮には繋がらなかったかー
>世界救ったことに気づいてなさそう
「そういえばシオリ、何か言ってなかったか?」
「え?」
「最初にあの白いイフリートに襲われた時、確か俺のことを……」
「……何も言ってない」
「え?」
「何も言ってないから」
「でも確か……」
「な に も 言 っ て な い か ら」
「あ、はい……」
そんなに顔を真っ赤にして怒らなくてもいいのに……
そんな話をしていたら、イフリートを倒したからか、隠し部屋が崩れ始めた。
あー、ボスを倒したら崩れるタイプだったか。
よくあるよな。これもトラップの一種になるんだろうか。
この部屋にはもう用はなさそうだし、さっさと出ることにした。
対溶岩用の結界を張ると、入ってきた時に壊した穴から再び溶岩湖へと飛び込む。
そのまま潜っていったら、すぐに湖の底が見えてきた。
湖の底にはデーモンコアと呼ばれるモンスターがいる。
巨大な岩みたいなモンスターで、デコボコした見た目はいかにも自爆しそうだ。
ちなみにでかいだけで、特に攻撃はしてこない。
「時間をかけると自爆されるので、サクッと倒しましょう」
結界の中から拳を突き出し、空気弾でデーモンコアを破砕した。
>今ちょっと溶岩の中に手が出てたよなw
>なんかもうそれくらいなんとも思わなくなったわw
>溶岩程度で火傷するといつから錯覚していた?
>おれたちの じょうしきが みだれる!
壊してどかすと、ちょうど真下に階段ができていた。
栓を抜かれたお風呂のように、周囲の溶岩が階段の中に吸い込まれていく。
その流れに巻き込まれる泡のように、俺たちも結界ごと吸い込まれていった。
「これで溶岩湖もクリアです。
ちょっと色々なトラブルもありましたが、結果的にはこれまでとは違ったRTAの面白さを紹介できたのではないでしょうか。
見てるみんなも楽しんでくれてたら嬉しいですね」
狭い階段の中を、吸い込まれる溶岩と共にものすごいスピードで流れていく。
いつものことなので俺は事前に魔力制御を施して姿勢を維持していたが、シオリは必死に俺にしがみついていた。
「ほ、ほ、他に方法はなかったの!?」
「でもこれが一番早いぞ」
「でも絶対一番危険な方法よね!?」
「危険度でいったら、あえて爆発させてより大きな穴を開ける方法があるけど、爆発の方向によっては上に飛ばされてタイムをロスする危険が……」
「次からはもっと安全な方法にしてええええ!!」
なるほど。
シオリはリスクを減らして安全をとるタイプなんだな。
その方がタイムも安定するし、そういうRTA走者もきっと多いだろう。
そのかわり上振れた時のタイムの最大値は落ちてしまうが……まあスタイルは人ぞれぞれだ。
「さて、この深さだとたぶん35階あたりに出ると思います。
火山エリアも抜けるはずなので、次はどんなエリアになるのか楽しみですね。
ではみんな次の階で会いましょう」
>この状況でなんでそんな冷静なのw
>生きる喜びを味わえる配信
>うおおおおお視界がアアアアアアア
>目が回るw
>今回は特に内容が濃かったな……
>信じられるか、これでまだ1時間経ってないんだぜ……?
>人生3回分くらいは体験した気がする……
>仕事とか、もういいや……一生ケンジくん見てる……
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