第49話 悪いが弱者をいたぶる趣味はない
俺の手には、魔力で作った剣が握られていた。
魔力を伸ばし、剣の形にしただけのものだが、形も自在に変更できるし、なにより重さが0なところがいい。
最速で攻撃できる。
>こんな時でもタイムを気にするのがケンジくん
「生きてるんだろう。隠れてないで出てこい」
「さすがにわかるか」
空中に再び白い炎が現れる。
それは瞬く間に燃え広がり、元の天井にまで届く巨大な巨人となった。
「我が獄炎を一太刀で斬るとは……見たことない魔法だ。それが貴様の奥の手というわけか」
「そんな大層な物じゃないけどな」
いつもは盾として展開している魔力を、手の中で剣の形に展開しただけだ。
光ってるように見えるのは、凝縮した魔力が干渉しあっているだけ。
魔法でもないし、スキルでもない。
誰にでもできる簡単な応用だ。
さすがにパンチじゃ倒せそうになかった。
だからこれを使わざるを得なかっただけだ。
「ダンジョンは生きていて、常に進化し続ける。RTA走者としてそれを誰よりもわかっているつもりだったのに、いつの間にか忘れていた。
慣れってのは本当に恐ろしいな。だから俺はまだまだなんだろうな。
悪いがもう油断はしない。確実に倒させてもらう」
向けた魔力の剣の先で、白いイフリートが笑った。
「いいだろう。本気の貴様を倒してこそ、我も強さを証明できる」
俺は魔力の剣を振り下ろす。
同時に刀身の長さを、イフリートに届くほどに伸ばした。
──ギィン!!
白炎のイフリートの前に現れた魔力の盾が、俺の攻撃を防いだ。
>防いだ!?
>ケンジくんの攻撃を防いだ奴なんて初めてじゃないか
>さすが魔人のイレギュラー
>防がれたらやばくない? どうやって倒すんだ……
「どうやら我が奥義『完全結界』には手も足も出な……
──バギィン!
先ほどよりもより強く振り下ろした魔力の剣がイフリートの盾を砕き、そのまま相手の体を両断した。
「なるほど。この程度か」
ふむ。
少しずつわかってきたな。
「おのれっ……!」
イフリートが揺らめく白い炎となり、元の姿に再生する。
「これで我が本気と思うなよ! 出でよ! 『二重・完全結界』!」
白いイフリートの前に二枚重ねの魔力の盾が現れた。
「2枚だから2倍などと思うなよ。その防御力は相乗効果で2乗!
これでもう貴様には破れまい!」
──バギギィン!
「2枚重ねになったら、2回切ればいいだけだろ? 簡単じゃないか」
>簡単な算数だな
>魔人くんが可哀想になってきた
「……おのれ……おのれおのれおのれええええええっ!!」
──バギギィン!
再び現れた盾は瞬く間に砕け散った。
「貴様っ、これほどの威力のスキルを、なぜ連発できるっ!?」
んん? 何をいってるんだ?
「スキルなんて使ってない。ただの通常攻撃だけど」
「ば、馬鹿な……っ!? これがただの通常攻撃だとっ!?
くっ……! 『秘奥義・四重・完全結界』!!」
──バギギギギィン!
「貴様……っ!」
──バギギギギィン!
「なぜ、こん……」
──バギギギギィン!
「……」
──バギギギギィン!
──べギギギギィン!
──ゴギギギギィン!
──ビギギィィィ……ン。
「なるほど。大体わかったな」
振り下ろし続けていた手を止める。
モンスターを最速で倒すには、相手の正確な強さを知った上で、それをギリギリで上回る最小の力で攻撃しなくてはいけない。
だから何度か条件を変えて攻撃していたのだが、おかげでそれもわかった。
もう大丈夫だろう。
いつのまにか白いイフリートは沈黙してて、結界も現れなくなった。
人型の炎は薄い陽炎のように揺らめいていて、今にも消えそうなほど弱々しくなっている。
>ひでえwww
>容赦なしwww
>ぼっこぼこじゃんwww
>なんだ、我が軍が圧倒的ではないか
>これが人間の力よ
>本当に人間かは要審議
>なんだかんだで勝っちゃうところがケンジくん
>さすが人類の最終兵器
>よかった……! これで世界は救われた……!
「今ので倒し方はわかりました。
白いイフリートを倒すだけなら簡単ですが、重要なのは、次のRTAに向けて最速で倒す方法を見つけることです。
なので色々試してたのですが……もうわかりましたので、次からは一撃で倒します」
>さすがケンジくん
>マジ頼りになりすぎ
>こんなんシオリちゃんじゃなくても惚れちゃう
「では最後に実戦で試しましょう」
俺はショートカットから回復魔法を呼び出すと、それを目の前の弱々しい炎に使った。
癒しの光が消えかけた炎に降りそそぎ、白いイフリートが再び現れる。
>はえ?
>why?
>え?
>どうして?
蘇ったイフリートが、呆然と自分の体を見下ろした。
「治した……? 我が傷を、治したのか……?」
「弱ったモンスターを倒しても意味ありません。完全の状態を最速で倒してこそ、次に生かせます」
「は……?」
ぽかんとした後、やがてその口から笑い声が漏れてきた。
「く、くくく……。
弱者をいたぶるつもりはないと……?
種の限界を超越した、この我に向かって……?」
感情に呼応するように、弱々しかった白き炎が猛り盛っていく。
「ククククク……ハーッハハハハハハハハッ!!!!」
響き渡る笑い声が、一転して憤怒の炎に変わった。
「ふざけるなッッ!!
どこまで愚弄すれば気が済むのだ人間如きがぁっっ!!!!」
全身を包む炎は、今や爆発する火山のように膨張し、燃えたぎっている。
「ならば望み通り殺してやる!!
魂よ唸れ、魔よ渦巻け! 滅びよこの手に集い給え!!」
これまでで最も膨大な炎の魔力が、その手に凝縮されていく。
「喰らえ我が究極奥義! 超級獄炎魔法!!」
赤黒く染まった地獄の炎が、咆哮する竜となって襲い掛かってきた!
その額を割るように、一本の線が縦に走る。
「初級剣スキルLv1〈スラッシュ〉」
地獄の竜が二つに切り裂かれた。
頭から両断された竜は、爆発すらすることなく剣圧に吹き消され、静寂の中に消え失せた。
あとにはただ、魂の核ごと両断されたイフリートが残されているだけ。
「……なんだ、今のは……?」
その顔は、何が起こったのか分からないかのように、キョトンとしていた。
「スラッシュ……?
スラッシュと言ったのか……?
Lv1の初級剣スキル如きで、我が奥義を砕いたというのか……!!??」
魂を切られたイフリートは再生することなく、そのまま灰になって崩れ落ちていく。
「こいつは、危険すぎる……っ。
RTA……覚えたぞ、その名前……! 貴様らは必ず滅ぼしてやる!!」
崩れ落ちていきながらも、憎悪に燃えるような瞳が俺を睨みつけた。
「魔人王様、こいつだけは、必ず──」
やがて完全に灰となり、消え去った。
>本当に一撃で倒しちゃった……
>人間にそんなこと可能なのか……
>ケンジくんのスキル、初めて見た……
>ケンジ様……救世主……
読んでいただきありがとうございます!
この作品はなろうコンに応募してます!
面白い、続きが読みたいと思っていただけたら、ブクマや評価、コメントなどで応援していただけるととっても嬉しいです!
どちらも大変モチベーションアップになりますので、ぜひよろしくお願いします!