第48話 貴様は本当に人の子か?
イフリートは倒れると、そのまま動かなくなった。
この部屋には他にモンスターはいないようだ。
ショートカットがないか早速調べるとしようか。
>まずはアイテムじゃないんだw
>こんな時でもタイム優先のケンジくんw
>RTA走者の鑑だなあ……
>こんな最高難易度の部屋なんだから、相当レアなアイテムがありそう
>ショートカットというか、そもそもここどこなんだ
>窓の外は変な光になってるよな
>溶岩湖にあったのになんで窓があるんだ
>ケンジくんが入ってきた穴の外も、溶岩じゃなくて変な光なんだよな
>意味不明すぎだよこの部屋
城のような部屋だったけど、構造自体はシンプルだった。
サーチで調べた限りでは、今の所ショートカットのようなものは見当たらない。
部屋の真ん中には今もイフリートが倒れてる。
……そういえば、モンスターを倒したのに、なんで光になって消えないんだ?
もしかして……
そう思った瞬間、倒れていたイフリートの体が燃え上がった。
爆発するようにひときわ大きく燃え上がり、天井にまで達した瞬間に炎がふつりと消えた。
そして、無傷のイフリートが立っていた。
>うそ、復活した!?
>これが魔人……
「なるほど。こういうこともあるんですね。知りませんでした」
復活するとわかってたら、もっとちゃんと倒したんだけど。
起き上がったイフリートは俺を見ると、笑みのようなものを浮かべた。
「この我を素手で倒すとはな……貴様本当に人の子か?」
>それは俺たちにもわからない
>マジで本当に人間なの?
>最終人型決戦兵器
>じゃあ一応人間か
それよく聞かれるんだけどさ……
見ての通りただの人間なんだけどな……
「クククッ。貴様がただの人間だと? 力があっても嘘は苦手なようだな。
このようなところに偶然入りこむなど、よほどの阿呆か酔狂かと思ったが……。なるほど。どうやって見つけたのかはわからぬが、我らを討つために送られた刺客だったというわけか」
「ん? 俺はモンスター狩りには興味ないぞ。ただのRTA走者だよ」
「RTA? 先ほどからその機械で外の人間とコンタクトを取ってるようだが……それが新たな人間の精鋭組織の名か?」
組織というか、界隈というか……
「いかに早くダンジョンをクリアできるを競う競技のことだ。それに俺はまだまだ未熟だよ。俺より上なんていくらでもいる」
「ふっ……。貴様より上、か。とても信じられぬが……」
>いないよ
>いないよ
>いないよ
「まずは貴様の実力を試させてもらおう」
そう言って、イフリートの周りに魔力が集まり始める。
「いつの時代もイレギュラーは現れる。脆弱な人間といえども油断はできない。それを我らは10年前に思い知った。
しかし……傷も癒え、新たな力も手に入れた。今一度教えてやろう。生物の頂点が誰であるのかを。この世界を統べる存在が誰であるのかを。
そして、知るといい。
いつの時代もイレギュラーは現れる。それは人間だけではないということを!」
イフリートから莫大な魔力があふれ出す。
体にまとう赤い炎が、青く染まり、やがて白く変色を始めた。
>は!?
>なんだあれ!?
>まさか、魔人のイレギュラー化!?
>自分でイレギュラー化できるのかよ!
>いやいやいやこれは今までとはわけが違うって
>やばい、これはマジでやばいって!!
>こんなのが増えたら、マジで人類絶滅するぞ
広い部屋の中に、莫大な白い炎の魔力が溢れかえる。
2倍以上もあった体はさらに膨れ上がり、その背は天井に届こうとしていた。
何もせずともただそこに立つだけで、ビリビリと空間が歪み、肌が刺すように痛む。
「怯えるがいい、人間どもよ!
ここで人類の精鋭であるこいつを殺し、人間など取るに足らない存在であるということを今一度証明してやろう!」
咆哮と共に魔力はさらに膨れ上がる。
もはや部屋全体が燃えるような炎の魔力で満たされているにも関わらず、今も際限なく増え続けていた。
>なんだよ、これ……
>終わった……
>人類終了のお知らせ……
>白い巨躯の魔人……まさか、魔人の長か……?
>嘘だろ、長は倒したって……
>生きてたって事だろ……傷を癒したって言ってたし……
>ここに逃げ込んでたのか……
>てことはここは……魔人の隠れ家……?
「うそ、うそよ……こんなこと……」
シオリの震える声が聞こえる。
完全に気圧されていた。
「あいつは死んだはずでしょ……っ! どうしてまだ生きてるのよ!!」
「ふはははは! いい悲鳴だ人間よ! 貴様等はここでごぱぁっ!」
哄笑を上げるイフリートの頭が消し飛んだ。
まったく同時に、胸と胴体に合計4か所の穴が開く。
俺は突き出していた拳をゆっくりと戻した。
「台詞が長くて隙だらけだったので倒しました」
>wwwww
>ちょwwwww
>変身させてあげてwwwww
>ええーw
>変身中に倒すとは外道な!w
>それでも正義の味方か!
>正義の味方ではないだろうな
>ケンジ君はタイムの味方だよ
>相変わらず攻撃する瞬間まったく見えないな
>人類救済RTAさえ世界最速の男
>10年前は3か月くらい魔人と戦争してたんだっけ?
>今回は10秒くらいかな?
>記録大幅更新過ぎて草
「初めてのモンスターは正体を見極めるためになるべく様子を見ることにしていますが、まあその必要もなさそうだったので」
モンスターによっては特別な倒し方が必要になることもある。
仲間を呼んだり、特定の方法でないと倒せなかったり、あるいは弱点があったりな。
だからそれを見極めようとサーチで様子を見ていたんだ。
けどこいつに関しては、そういうのもなさそうだったので、さっさと倒すことにした。
それにシオリが怖がっていたしな。
あまり時間をかけるわけにはいかなかったんだ。
「……貴様ぁっ!!!!」
「あれ? 確実に倒したと思ったんだけど」
頭は元に戻り、体に空いた穴も完全に塞がっていた。
……ああ、そうか。そういうことか。
「すみません。俺のミスです。
そんなつもりはなかったんですが、今までと同じだと決めつけて、慢心してたようですね。
モンスターの弱点を見誤って一撃で倒せませんでした」
>いや謝らなくていいよw
>一撃どころか、そもそも倒せることがおかしいんだからw
>1人で倒せるだけでチートすぎだからね?
>コメント読んでないで目の前の敵に集中して!
「貴様は危険だ。たとえ我が命燃え尽きようとも、ここで確実に殺す!!」
イフリートの全身が白い炎に包まれ、肉体を失い、一つの巨大な炎の塊になる。
それは部屋全体を埋め尽くすほどの大きさになっていた。
「ダメ、ケンジ、よけて! あれを食らったら、いくらケンジでも……!」
シオリが叫ぶ。
それは俺にもわかった。
あれに触れれば、恐らく肉体ではなく、魂が燃えてしまう。
>おいおいおいおい!
>やばいやばいやばい!
>アメリカ西部を焼き払った、あの魔法か……!
>広大な大地を一度で焼き払う魔法だぞ! こんな狭い部屋で使ったら……!!
>威力が、増幅されて……
「我が魂を薪に爆ぜよ! 獄炎魔法!!」
濃密な炎の魔力が、巨大な奔流となって襲いかかってきた。
なるほど。
これは無理だ。
俺は固く握りしめていた拳から、ゆるやかに力を抜いた。
空になった手の平がだらりと下がる。
「すまないな、シオリ」
「……え?」
「こんなことに巻き込んで」
「なんで、謝るの……? やめてよこんな時にそんな……!!」
俺がシオリに配信の手伝いを頼まなければ、こんな怖い目にあうこともなかったはずだ。
……いや、それはただの言い訳か。
俺がもっと強ければ……
「ケンジは私のヒーローでしょ!
あの時みたいに、また助けてよぉ!!」
──ザンッッッ!!!
迫り来る巨大な獄炎が、その奥にいた人型の炎ごと真っ二つに切り裂かれた。
「……え?」
>え?
>え?
>え?
切り裂かれた獄炎が霧散して消える。
俺は振り下ろした手を元に戻した。
手には一振りの輝きが握られている。
>なに、それ……
>光の、剣……?
「もちろんだシオリ。次はちゃんと一撃で倒す」
読んでいただきありがとうございます!
この作品はなろうコンに応募してます!
面白い、続きが読みたいと思っていただけたら、ブクマや評価、コメントなどで応援していただけるととっても嬉しいです!
どちらも大変モチベーションアップになりますので、ぜひよろしくお願いします!