第43話 初級ダンジョンRTA走者だけど何か質問ある?
階段を降りて27階にやってきた。
やはり洞窟の幅が広くなってきている。
多分ショートカットの場所までもうすぐだろう。
ショートカットできると思うと、つい気持ちがはやって歩くスピードがいつもより早くなってしまう。
やっぱりタイムが縮むって思うと、それだけでウキウキしてしまうものだよな?
>ちょっとわからないかなあw
>RTAを見る楽しさはよくわかるんだけどな
>やってみる楽しさはわからないかな
>多分一生わからない気がするw
>わからないというか、一生真似できる気がしないというかw
えー。
まだダメかあ。
結構配信頑張ってるつもりだったんだけどなあ。
まあでも見て楽しんでもらえてるってことはいいことだよな。
このまま続けていけばきっとRTA面白そうって人も増えるはずだ。
少しずつでも前進してるって考えたら、悪いことではないよな。
「まあきっとこれから面白いものをみんなに見せられると思うので、そこでRTAの面白さをガツンと伝えようと思います!」
>いいね! 楽しみ!
>十分楽しんでるのは間違いないからこれからも頑張って!
>てか歩きながらでも次々とリザードが砕け散ってくの面白すぎるなw
>向こうから飛び込んで砕け散っていくから余計に哀れw
確かにショートカットからのオートスキル使用で、ファイアリザードは全部自動で処理してる。
魔力での氷生成はスキルじゃないからショートカットに登録はできないんだけど、そもそもサラマンダーはたくさん出るタイプのモンスターじゃないからな。
溶岩洞窟も、基本的には石の洞窟と溶岩が流れてるだけで、見栄えが変わるようなことはない。
なのでしばらくは似たような画面ばかりの時間が続いていた。
こうやって時々配信的に盛り上がらない時間を作ってしまうのが、RTAが盛り上がらない原因だったりするのだろうか。
まだまだ俺は配信者として未熟なんだろうな。
とはいえサーチでこの辺りの構造は把握してるけど、この階はもう見所はなさそうなんだよなあ。
だからこそ何か配信的に盛り上げた方がいいんだろうけど。
そうだ。
こういう時こそ、プロの先輩にアドバイスをもらえばいいじゃないか。
「シオリ、なんかいい方法ないかな?」
「質問ないか聞いてみたら?」
即座に答えが返ってきた。
俺が何に悩んでるか見抜いてたのかも知れない。
さすが幼馴染だな。俺がシオリの表情を見れば何を考えてるかわかるように、向こうも俺の表情を見ればわかるのかも知れないな。
「というわけで、この階はしばらく見どころもなさそうなので、今のうちに質問コーナーをしてみたいと思います。
何か質問とかありますか?」
>ケンジくんって普段は何してるの?
>その強さの秘密を知りたい
>魔力感知の方法はよ!!!!
>何か特別な修行とかあれば知りたいです!
>なんでRTAしようと思ったの?
>貯金いくらあるの??
>武器とか持った本気のケンジくんを見たいです!
>そのダンジョンは東京ですか?
>今までで一番やばかった敵を教えて!
>RTA以外で趣味とかないの?
急にたくさんのコメントが流れてきた。
さすがシオリだな。こんな急に盛り上がるなんて。
やはりわからないことは経験者に聞くに限るな。
「ええと。答えられるところから答えていきますね。
まずRTAを始めたきっかけですが……あれ、そういえばなんでだっけ。
理由は忘れたんですけど、でも子供の頃は普通にダンジョンに憧れてたんですよ。でも危険だからって入らせてもらえなくて……。ダンジョンに初めて入ったのは高校を卒業してからでした。
あの時はとにかくダンジョンに入れることが嬉しくて仕方なかったんですよね」
>その気持ちはわかる
>ダンジョンって憧れるよな
>一攫千金の夢もあるし、冒険ってやっぱ男にとっては夢なんだよな
>まあめちゃくちゃ危険なので、大抵は憧れだけで終わるんだけど
>実際に潜れてそこまで強くなれるのはマジですげーよ
「そうみたいですね。そういう意味では俺は運が良かったみたいですね」
>どうしてそんな強くなれたの?
そういえばそんな質問も多かった気がする。
「俺自身はまだ全然できてないことも多いし、自分がそんなに強いって自覚はないんですが……」
>いやめちゃくちゃ強いよw
>いろんな配信見てきたけど間違いなくダントツだよw
>ランキングスレとか今頃盛り上がってるだろうな
>むしろ強すぎてお通夜状態なんじゃないの
>1位は満場一致なので2位以下を決める醜い争いになってそう
「ダンジョンに入れるようになるまで、毎日部屋で特訓してたんですよね。でも剣とか危なくて振れないし……。
なので魔力の操作をしてました。魔力で鉛筆とノートを操って勉強したりとか……。それは子供の頃からできたので」
>魔力操作の才能は生まれつきか
>じゃあ真似するのは難しいかな……
「魔力自体は誰にでもあるものなので、その感知方法さえわかれば、多分誰でもできるようになると思います」
>だといいけどな
>実際魔法は普通に使えてるわけだからな
>マジで頼むよケンジくん。いや、ケンジ様!
「初めてダンジョンに入ったときは、もうとにかく色々試したくて、練習した魔法使ったり、モンスターを倒したり、やりたいことが多すぎたんです。だからいかに早くダンジョンを楽しむかばかり考えてて……
なんか気がついたらRTAにはまってました」
>そんな理由だったのかw
>はしゃぐ子供を想像したらちょっと和んだ
>ケンジくんもちゃんと人間だった頃があって良かった
>てかコメントに答えながらこの入り組んだ洞窟を平然と歩いてるの普通にすごいな
>溶岩洞窟とか普通は迷子になるんだけどな
>迷って帰れなくなって熱で衰弱死するまでがセット
>サーチマジ便利すぎ
>そう考えるとケンジくんの魔力量半端ないよな
>あれだけ1人で暴れ回ってて、魔法もオートで使いまくってるのに、全然枯渇する気配ないしな
>それも長年の努力の成果なんだろうな
>才能チートに見せかけて努力チートだったか
コメントを見ながら歩いていく。いい感じに賑わってるようで何よりだ。
視界の片隅では相変わらずリザードたちが砕け散っていく。
それ自体は特に気にすることなく歩いていたのだが、その一瞬、光るものが見えた。
今までならそれ自体は特に気にすることではない。
だけど、ふと思い立ったことがあって、足を止めた。
>ん?
>急に立ち止まってどうした?
>なんかあったの?
「今一瞬リザードのドロップアイテムがあったので。
通常のRTAなら不要なんですが、配信にはもしかしたらあった方がいいかもと思いまして」
答えながらさっき一瞬見えたところまで急いで戻ると、すでに沈んでいたアイテムを拾うため溶岩の中に手を突っ込んだ。
>wwwww
>あっっっっつwwww
>溶岩に素手を突っ込んでるんだけどwwwww
>やっぱおかしいってこの人wwww
>努力でどうにかなるところじゃないよこれはwwwww
溶岩の中はさすがにサーチの精度が低くなる。
溶岩をかき混ぜながらアイテムを見つけ出すと、すぐに取り出した。
「見つかりました。沈み切ってしまう前に拾えて良かったです」
拾い上げたのはファイアリザードの鱗だ。
>おお、結構レアアイテムだな
>確か、装備したり、武具の素材にすると、火属性耐性が上がるんだよな
>シンプルに便利そう
>属性耐性が上がって困ることはないからな
>でもケンジくんにいるかな?
>素手で溶岩に手を突っ込んでる人には要らないだろうなあw
「確かに自分には必要ないんですが、配信機材にはもしかしたらいるかも知れないと思いまして。今はいいですが、将来もっと温度が上がったら、機械は壊れるんじゃないかと心配なんですよね」
配信中にカメラが壊れてしまうと配信が止まってしまう。
バッテリーの予備はあるけど、さすがにカメラの予備は買わなかったから、壊れないように気をつけないといけないんだ。
なのでさっそくカメラに装備させようか。
「……カメラに装備ってどうやればいいんでしょうか?」
>こっちが聞きたいw
>カメラに火属性耐性付与は聞いたことないなw
>まずは自分の装備優先だからな
>ファイアリザードの鱗って売ればいい値段するぞ
>カメラ強化するよりも、売った金でカメラ複数買った方が絶対お得
確かに予備のカメラを買うのも検討した方がいいのかも知れないけど、今はそういうわけにはいかないからな。
うーん、装備のさせ方はみんなもよくわからないみたいだ。
しょうがない。とりあえずカメラの横にでも貼り付けておけばいいか。
>火属性耐性素材を直接貼り付ける人は初めて見たw
>おじいちゃんかな
>パソコンにお守りつけるタイプのおじいちゃん
>「こうすると壊れないんじゃよ」
>ケンジくんRTA以外ポンコツだからしょうがない
>まあないよりはマシだよきっと
>機械に属性耐性を付与すること自体普通しないからな
>それでも……それでもシオリちゃんならなんとかしてくれる……!
確かにシオリならなんとかできるかも知れない。
俺にはよくわからないけど、シオリならそういうことも詳しいだろうからな。
と思って振り返ってみたけど、無言の視線が返ってくるだけだった。
さすがに無理みたいだな。
そんなことをしてたら次の階段にまで辿り着いた。
なんだかんだで見所を作ることは出来たと言っていいだろうか?
ともかく、これで次の階に行ける。
目的の場所までもうすぐな予感がするんだよな。
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