第42話 火の精霊サラマンダー
次の階段を見つけたので、27階にやってきた。
この辺りから急激に気温も上がってきたようだ。
体感だけど100度はとっくに超えてそうだな。
魔力で覆ってるから問題ないとは思うけど、念のためシオリに確認してみようか。
「大丈夫かシオリ」
「うん、平気。心配してくれてありがとう」
よかった、問題はなさそうだな。
30階くらいまでは来たことあると言ってた気がするし、これくらいなら慣れてるんだろう。
でもなんとなく肌を気にしてるような気がする。
……ああ、空気がからっからに乾いてるから、乾燥してるのかもな。
ショートカットに水魔法を入れておいて、適当に湿度を保つようにしておこうか。
むしろカメラの方が心配だな。
何しろ配信なんて初めてだからな。
精密機械だから、ちょっとの不調があるだけでも壊れるだろうし。
どこまでが大丈夫なのかとか、わからないんだよな。
まあ、気にしすぎてもしょうがないんだけど。
なるべく壊れないように進むしかないか。
>けどすごい環境だよな
>噴火してる火山の洞窟を進むって、控えめにいっても自殺行為だからな
>そもそもマグマって1000度くらいらしい
>その横を歩いてたらそりゃ暑いよな
>流れてくる段階で冷えるから5、600度くらいにはなってると思うが
「ダンジョンの溶岩って普通の溶岩とは違うんですよね。簡単にいうと、中に魔力が混じってます。なので温度とか冷え方とかが、普通とは違うみたいなんです。でなければ、こんなところまで流れてきた時点で冷えて固まってるはずですからね」
すぐそばを流れる溶岩はオレンジ色の灼熱に輝いているし、ちょっとドロっとした水のように流れている。
冷えて固まったりだとか、そういう気配は感じられない。
>相変わらずダンジョンについては詳しいな
>下手なダンジョン学者より詳しそう
>机で研究してるやつにダンジョンはわからんよ
>ケンジくんの配信だけでダンジョン研究が100年は進みそう
>今頃教科書とか書き換えまくってるんだろうな
コメントと会話しながら、サーチした道順に従って洞窟を進んでいく。
時折奇襲してくるファイアリザードを自動で倒しつつ歩いていくと、やがて分厚い扉に行き当たった。
>洞窟内にも扉なんてあるのか
>絶対やばい部屋
>セーブしなきゃ
>早く逃げてー!
>モンスターに言ってる?
扉を開けると、中にいたのは5体のファイアリザードと、ひと回り大きなファイアリザード。
そして、炎に包まれた妖精だった。
>大きいのはキングファイアリザートかな
>知らないけど多分そうなんだろうな
>けどあの炎の妖精はなんだ
「ギギャアアアアアアアアアッ……
「グルアアアアアアアアアアッ……
5体と1体のファイアリザートたちは俺が部屋に入ると同時に武器を振り上げたが、その次の瞬間には凍りつき、粉々に砕け散った。
しかし炎の妖精は凍りついたものの、氷が瞬く間に溶けてしまった。
>氷魔法が無効化された?
>魔法抵抗やば
>ケンジくんの魔法が効かないって相当だぞ
>もしかして精霊じゃない?
「あれはサラマンダーですね。火の精霊です」
火の精霊はくるくると踊りながら俺の方を見ている。
まあ全身が火に包まれてて顔もわからないから、こっちを見てるかどうかもよくわからないんだけど。
>あれがサラマンダーか……
>俺初めて見た……
>ケンジくんの魔法で無傷ってやばいよな
>しかも火だから氷が弱点だろ? それで無傷って……
>精霊ってそんなに強いのか……
「サラマンダーは水や氷が弱点なのはそうなのですが、物理攻撃は効果が無いように、通常の水や氷も効きません。サラマンダーは通常の生物ではなく、精霊世界からこの世界に投影された魔力が炎の形に見えてるだけなので。
だから今見えてるのも魔力の火であって、普通の火ではありません」
>どういうこと?
「普通の火は酸素とかを燃やしてますが、魔力の火は魔力を燃やしてるんですよね。なので普通に水をかけても消えないですし、効果もないんです。そういう意味ではあれは火ではないです」
>へえ、そうだったんだ
>知らなかった
>物理攻撃は全部素通りするから、まともな存在じゃないとは思ってたけど
>幽霊に近いよな
「ウンディーネやシルフも本質的には同じ存在です。色違いの精霊みたいなものですね」
「キャハハハハハ!!」
笑いながらサラマンダーが俺の方に向かって来た。
なんとなく楽しそうにも見えるから、子供が無邪気に遊ぼうとしてる感じなのかもしれない。
けど、中身は火の精霊だ。じゃれつかれるだけで人間は消し炭になってしまう。
何より……
「悪いけど今は解説とはいえRTA中でな。こういう時でも手を抜かない主義なんだよ。だから遊んでタイムを増やすようなことはできないんだ」
魔力で氷の槍を作り出し、それをサラマンダーに打ち込む。
貫かれたサラマンダーはその場で凍りつくと、笑いながら砕け散って光の粒に変わった。
>氷魔法では倒せません(氷魔法で倒しながら)
>結局倒せるんかーいw
「効かないのは普通の水や氷です。
魔力を直接氷に変えれば効果を発揮します。氷の魔法というよりは、魔力に氷の属性を与えた魔法といった方が近いかもしれないですね」
>はえー
>そんな方法で倒せるのか
>なおやり方
>まず魔力に属性を付与するところから解説してもらってもいいですか?
>魔力操作の方法まだ解説してくれてないからね?
>俺たち誰もそれできないからね?
>使える前提で話されてもw
そういえばそうだっけ。
俺は魔力を普通に扱えるから気にしてないんだけど、みんなはそうでもないみたいなんだよな。
RTA解説が終わったら、そっちもやらないとなあ。
そんなことを考えながら部屋を抜けて洞窟を進む。
次にたどり着いた部屋には、今度は3匹のサラマンダーがいた。
俺は魔力で作った氷を撃てば倒せるけど、みんなはそれができないらしい。
「ああ、そうですね。
実は他にも精霊の倒し方があるのでそれを紹介しましょう」
>マジ!?
>上級氷魔法連発はなしな
「大丈夫です、もっと簡単です」
>それは聞きたい!
>精霊はマジでほとんどの攻撃が効かないから困る
>待て、落ち着け
>ケンジくんの「簡単」かあw
>この流れ知ってる……
>大丈夫、ケンジくんの攻略だよ
俺は3匹で遊ぶサラマンダーに近づくと、拳をぎゅっと握りしめた。
「せいっ!」
氷の魔力を拳に纏わせ、サラマンダーを殴りつける。
凍り付きながら壁際に吹き飛ばされ、ぶつかると同時に粉々に砕け散った。
>知 っ て たw
>やっぱり殴るんじゃんw
>どう考えてもそっちの方が難しい件w
「素手で殴る方が魔力を直接モンスターに流し込めるので、凍らせるのが早くなります。
それからもう一つ方法がありまして……」
残った2匹のサラマンダーの体内に、それぞれ右手と左手を突っ込む。
そのまま中にあるモノを掴むと、それを引っこ抜いた。
「キャハハハハ……
「キャハハハハ……
笑い声を残してサラマンダーたちが消えていく。
俺の手には赤々と燃える炎の塊が握られていた。
「精霊は生物ではなく魔力の投影体なので、体内に魔力の核があります。それを引っこ抜くことでも倒せます」
>いやいやいやいやw
>何で魔力の炎を素手で掴めるのw
>明らかに今までで一番難しいでしょw
>核の場所なんてわからないし、素手で掴めるのも意味わからないし、そもそもなんでケンジくんの手は無傷なのかw
>もうどこから突っ込めばいいかわからないなw
核は手の中でやがて消えていった。
いい感じにRTAのことも伝えられてるし、この調子で先に進むとしようか。
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