第35話 神話級ドロップアイテム
無事神々の試練のボスを倒した。
ボスを倒したら即次の階に行きたいところだけど、今回だけは少しだけ待つことにした。
ボスが光になって消えると、手にしていた剣と盾を落とす。
そして光が消えたあとには、宝箱が残された。
黄金の虹色に輝く宝箱だ。
この間約1秒。
こればっかりは加速できない。
ダンジョンRTAでは大きすぎるタイムロスだが、それだけのリターンがここにはあるかもしれないんだ。
>武器の落ちる音がむなしく響く……
>出番なかったからな……
>最速で股間を打ち抜かれたからなw
>あれ多分ミスリル製でしょ?持って帰ったら100年は遊んで暮らせるよね?
「値段はわかりませんが、武器はRTAには不要なので拾いません。重さの分だけ移動速度が落ちてしまうので、全100階の初級ダンジョンRTAでは数秒のロスにつながります」
>知ってた
>やっぱりな
>どうしてだよ!
>そういうのを持ち帰って鑑定するのがダンジョン配信者の義務だろ!
>正論
>でもケンジくんだからな
>そこが逆に面白い
>マジで持ち帰らないの……?
>世界遺産に指定すべきアイテムだぞ……
>ドロップしたアイテム持ち帰らないってマジだったのかよ……
>さすがに盛ってると思ってたのに……
>反応が新鮮で面白いな
>俺たちも最初はそうだったよ
>たかが1,2時間で古参面してるの草
コメントも盛り上がってることだし、さっそく宝箱を開けよう。
>ケンジくんが1秒を犠牲にしてまで欲しいアイテムとは……
>ミスリル製武器より上ってことでしょ……?
>存在するのかそんなの……?
>ドキドキ……
宝箱を開ける。
俺も少しだけ緊張するのを感じた。
そこに入っていたのは、小さな指輪ひとつだけだった。
「どうやら『神々の契約』のようですね」
>えっ!?
>まさかあの神話級アイテム!?
>装備してれば死なないんだっけ?
>なにそれヤバすぎwww
>ぶっ壊れアイテムきたーーー!
ふぅ……。
俺は宝箱の中身に目を向けると、少しだけため息をついた。
「残念ながらこれは外れですね……。役には立たないのでここに置いていきましょう」
>うっそだろwwwww
>コメント読んでないのかwwwww
>装備するだけで無敵になれるアイテムだぞwwww
>役に立ちまくるわwwww
「欲しいのはこれじゃなかったんです。稀に移動速度が上がる『神速の腕輪』が手に入るので、それが目当てだったんですが……。
まあ仕方ありません。宝箱の中身ばっかりは運ですからね」
>さすがに神速の腕輪だと拾うのか
「もちろんです。装備してるだけで全ての行動速度が2倍になりますからね。大幅なタイム短縮につながります」
だからこそ1秒も待つというリスクを負ったんだ。
目的の物が手に入れば、短縮できるタイムで十分おつりが来るからな。
>神話級アイテムって世界で3つしか確認されてないんだよな
>神々の契約はその中の1つだな
>ケンジくんはその腕輪を拾ったことがあるって事?
何回かありますよ。
持ち込み禁止のルールでやってるので、クリアしたあとは家に置いとくだけですけどね。
「神速の腕輪」なら家に5個あります。
>世界で8個になっちゃったwww
>なんか他にもヤバいのいっぱいありそうだよな
>少なくとも一度は装備しないと効果もわからないからな
>てことは神々の契約もケンジくんの家にあるって事?
そのはずですね。
ちょっと昔のことなので覚えてないですが……
……あーいや。
そういえば食費に困って何度か売りに出したことがあったっけ。
1万円で売れたので助かりました。
>神話級アイテムを……1万円で……?
>金銭感覚バグりすぎ
>1兆円の間違いかな?
さすがに1兆円は冗談だと思うけど……
みんなのコメントを見る限りだと、どうやらちょっと安すぎたみたいだ。
次からは2万円くらいで売ってみようかな。
>お金に困ってるならいくらでもスパチャするよw
>スポンサー登録早く解禁してください
>途中の素材適当に拾うだけで一生食ってける件について
どうやらそうみたいだな。
そういうのは今まで全然気にしてなかったから知らなかったけど……
「でもRTA中はタイムこそが至上なので、不要な素材は拾いませんけどね」
>なんなのそのこだわりw
>まあそのほうがケンジくんらしくていいけど
>大丈夫、俺達にはシオリちゃんがいる
といっても最近はアイテムを売ったりとかはしてないんだけど。
お金にはそこまで困ってないし。
さすがにお金の重要さはわかってきてるし、最近はシオリがご飯を作りに来てくれることも多いからな。
>は?
>ふざけるな
>きいてないぞそんなリア充設定
>美少女幼馴染に毎日ご飯を作ってもらってるだあ……?
>どうやら俺たちを敵に回したようだな
>食費なんていらんだろ一生シオリちゃんに養われてろ
さすがに男としてそれはちょっとな。
自分の生活くらい自分の金でできるようになりたいだろう。
ちなみに当のシオリはというと、なぜだか無言で俺をにらみつけていた。
あれは「余計なこと言うんじゃないわよこのバカ」と思ってる目だ。
どうやら人には知られたくないみたいなので、この話題はここで終わりにすることにしよう。
そういう意味でも、お金に困ることがあったら、金策のためにダンジョン潜るのもいいかもしれないな。
>金策配信いいね!
>天文学的な金額になりそうw
>歴史を塗り替えるアイテムが山のように出るんだろうな
>もうすでに山のように出てるからなw
というわけなので、今回のドロップアイテムは見送ることになった。
必要ない物はギリギリまで捨ててタイムを削る。
それがダンジョンRTAの基本だからな。
なので去ろうとしたんだけど、その時俺は足を止めた。
確かにあれは、俺には必要ないアイテムだ。
だけど……
こればっかりは言葉にすることは難しいが、勘のようなものがそれを拾っておくべきだと告げたんだ。
こういうことは稀に良くある。
ダンジョンは何が起こるかわからない。
一見不要なアイテムも、他の要素と組み合わさって神アイテムになることがあるんだ。
RTA走者の勘というべきだろうか。
その予感が俺に頭に閃いたんだ。
あれはこの先絶対に必要になる。
そしてそういう予感は、たいていの場合当たる。
「やっぱりこのアイテムは拾うことにします」
>お!?
>ケンジ君が動いた!
>やっぱり惜しくなったのか!?
「確かにこのアイテムは便利ではありますが、俺のものじゃないです」
拾い上げた「神々の契約」をシオリに渡す。
「この指輪をシオリにプレゼントしたいんだ」
「……え?」
>え?
>え?
>え?
>え?
>え?
「シオリにはいつも世話になってるしな。
それに、自分でも理由はわからないんだけど、この指輪を見た瞬間に、シオリにあげたくなったんだ。
急かもしれないけど、俺の気持ちだと思って、受け取ってくれないか?」
シオリは動かなかった。
なぜだか顔を真っ赤にして、目をぐるぐる回している。
「………………はえぇ??」
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