第27話 神話系モンスターの簡単な討伐方法
大理石の階段を下りて地下11階に降りる。
そこは今までのダンジョンとは大きく違っていて、白い高級感がある石で作られた神殿のような場所だった。
どこか静謐な空気も感じられる。
なんていうか、パルテノン神殿とか、ああいうローマ感がある場所だ。
「どうやら今回は神殿ステージのようですね」
>今回はってことは、いつもは違うのか?
>何回か来たことあるんじゃないの?
「試練に来るのは何度かありましたが、どのダンジョンにつながるかはランダムなんですよね。今回は神殿なので当たりです。火山とかだとしんどいですね。最悪なのは海ステージです」
>海ステージなんてあるの?w
>凶悪過ぎない?w
>水中ステージとか呼吸できなくて詰んでるじゃん
>水中呼吸の魔法が使えないと終わりだよな
>水中の敵とかマジ終わってるよな。避けようがないし。
>ほとんどの魔法も無効だしな。
>初級ダンジョンでも稀に50階あたりで水中ステージになるらしいな
「そうなんですよ。水の中だと移動が遅くなってタイムが伸びるのが最悪ですよね」
>一番問題なさそうな理由だったw
>ケンジ君には死活問題だなw
>生死には関係ないやん
>いや脚を取られると攻撃を当てるのも避けるのも難しくなるぞ
「そうなんですよ、だからちょっと大変です」
>ちょっとじゃ済まないんだよな
>水中ステージは見かけたら即引き返すのが基本だからな
>人間は水の中で活動するようにはできてないので
そんな感じでコメントと会話をしながらダンジョンを進みはじめた。
入った瞬間にサーチでダンジョンの構造は把握してるので、道順はわかってる。
神殿ステージは構造が簡単なのも特徴だ。
基本的には広い部屋と、それを繋ぐ廊下で構成されている。
分かれ道も少ないし、部屋の数自体も10前後が多い。
場合によってはほぼ一直線になっていることもある。
探索する場合にはわかりやすくていいんだろうけど、RTA的には工夫の余地がないのでちょっと物足りない感じだ。
ただ直線に最速で駆け抜けるだけだからな。
>そんな理由で文句言うのケンジくんくらいだろうな
廊下を渡り、最初の部屋の扉の前にやってきた。
「さて、神々の試練はくるたびにダンジョンの内容が違うため、モンスターもそれに合わせて変化します。
神殿ステージでも固有の敵がいます。実はここが当たりと言ったのはそれが理由でもあるんですね」
>なんだ? 弱いってこと?
>ケンジくん相手で弱くないモンスターなんているのか?
>子供とはいえドラゴンもワンパンするくらいだしな
>ていうかマジでここどこなの……
>なんかもう感覚麻痺してるけど、ダンジョン内にこんな人工物っぽい建物があるの、どう考えてもおかしいよな
>明らかに適当なランダム生成じゃない、何かの意思を感じるよな
>そもそもダンジョンがなんなのか全くわかってないからな
>これ何気に世界の真理に近づいてる?
>ケンジくんの配信は最初から世界の真理に近づいてるよ
世界の真理か……
そういうのは考えたことないけど、確かにここのモンスターを見ると、何かを感じずにはいられなくなることはあるかな。
俺は神殿の扉を開く。
部屋はかなり広く、内部は調度品も何もない空間になっていた。
その中央に、そいつはいた。
ぱっと見は美しい女性に見える。
着ている服は、白い布を巻きつけたような、古代ローマの人とかが着てそうなものだ。
武器のようなものは何も持っていない。
一見すると普通の人だ。
だけど一点だけ明らかに違うところがある。
>え?
>何あれ……
女性の頭から伸びているのは髪の毛ではなく、無数の蛇だった。
そう。あれはいわゆる「メデューサ」と呼ばれるモンスターだ。
>メデューサ!?
>それってあれだろ、何かの神話で出てくるっていう……
>まさか神話級モンスターってこと!?
>何でそんなのが初級ダンジョンにいるんだよ……
>いや、初級じゃないぞ……
>神話級のモンスターが出るってことは……
>ここ、中級ダンジョンじゃないか!?
えっ? そうなの?
>何で初級ダンジョンが中級ダンジョンに繋がってるの!?
>そんなのマジで聞いたことないが……
>ていうか本物のメデューサならケンジくんやばいよ!
>確かメデューサの視線って……
「ああ、そうですね。なので途中で拾ったこれが役に立ちます」
俺が話してる途中でメデューサが俺に気付き、頭の蛇が一斉に俺の方を向いた。
うーん、何度見てもちょっとゾワッとしてきもいなあ。
同じ気持ちなのか、後ろのシオリも体を硬くする気配があった。
メデューサの口元が笑みの形に曲がり、そしてカッと目を見開いた。
真っ赤な瞳が俺を射抜く。
メデューサで最も有名なのは、その視線だろう。
相手が誰であれ、見ただけで相手を石化させてしまうという、どう考えてもチートすぎる呪われた瞳だ。
神話の時代からそんなチート能力があったなんて、昔の人はすごいよなあ。
そこで俺はとある物を取り出した。
「ここで前回拾ったエーテル鋼が役に立ちます。
メデューサの視線は鏡で跳ね返せると神話だと言われてますが、実際には普通の鏡では無理です。
ですがこの表面がツルツルなエーテル鋼だと、メデューサの視線も跳ね返せるんですね」
メデューサの方を見てみると、こっちに向かって目を見開いた体勢のまま石になっていた。
>え?もう終わったの?
>メデューサ石化してる……
>神話級モンスターさえ瞬殺……
>ていうかケンジくんいつ鏡出した?
>早すぎて何も見えなかったが……
>そもそもそのエーテル鋼、手の平ほどのサイズしかないんだけど、そんなサイズで大丈夫なのか?
「メデューサは見ただけで相手を石化すると言われてますが、実際には見えない魔力の線を瞳から飛ばしてるだけです。なのでその魔力線の先にエーテル鋼を置ければ、サイズは関係ないですよ」
>見えない魔力にピンポイントで合わせろとかいう無茶振り
>そもそも目を開いた瞬間に飛んでくるんだろ?
>一瞬で相手が石化してたから、時間だと1秒以下だよな
「この距離だと魔力線が届くまで大体0.1秒くらいですね」
>相手が目を開いてから0.1秒で鏡を取り出して視線の先を感知してそこに正確に鏡を置く??
>ちょっと何言ってるかわかりませんね……
>なおミスったら即死の模様
>これが中級ダンジョン……
「ちなみにエーテル鋼がないと、目を開かれる前に倒さなければならないので難度が上がります。
今回はたまたま途中でドロップしたので拾っておいたのですが、運良く役に立ったのでラッキーでしたね。いつもなら神殿内に落ちてる物なんですけど」
まあこうやってリスクを取りつつタイム短縮を図っていくのもRTAの楽しさのひとつだ。
失敗したら単にタイムが伸びるだけに終わるけど、こうやってうまくいくこともあるので、やめられないですよね。
>ですよね、とか言われても誰も真似できないんだよなあw
>同意を求められても困る
>ケンジくんの価値観「命<<<0.001秒」
>私もRTAやりたいのでまず魔力感知の方法から教えてください
それよく聞かれるんだよなあ……
「こう、周囲にあるもやーんとした気配を、ぎゅっと掴むようなイメージです。それで感知できると思います」
>相変わらずなにひとつわっかんないんだよなあw
>天才には俺たち凡人の気持ちがわからないんだ
>たいていの天才は教えるのが下手だからな
>速く走るためには速く足を動かせばいい(名言)
「まあそれについては、いずれシオリにアドバイスをもらいながらやろうと思ってます」
>シオリちゃんも魔力感知できるの?
「いえ、できないそうです。
なので俺が教えて、その時の覚え方を参考にみんなに伝えられたらなと」
>おお、いいね!
>シオリちゃん配信デビューきた!
>絶対美少女だから楽しみ
>チャンネル登録しました!
「あ、シオリは配信NGなので、声のみです」
>チャンネル登録解除しました!
>お前にはガッカリだよ
>男だけのむさい配信が伸びるとでも?
>そうだぞ、今の同接が何人だと思ってるんだ?
>150万人だな
>ダントツ世界一で草
>いやこの内容なら1億狙えるだろ
>登録者数1億ならわかるけど、同時接続人数1億は聞いたことないんだよな
「登録者数1億って……そんな人存在するんですか……」
>ケンジくんですら引いてるじゃんw
>その人は10年以上も配信してるし、全人類の頂点と言ってもいい人だから
「俺も登録者数10万超えててすごいって思ってたんですけど、やっぱり俺なんかまだまだなんですね」
>初配信から数時間でそれは普通に頭おかしいからね?
>このペースなら明日の今頃には100万は超えてるからね?
>もっと常識を学ぼうね?
コメントのみんなは優しいからそう言ってくれるけど、やっぱり俺なんかまだまだってことなんだろうな。
ダンジョンRTAを広めるためにも、もっともっと上を目指して頑張らないと!
>これより上あるかなあ?w
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