第26話 10階に待ち受ける神々の試練
階段を降りて俺は10階にやってきた。
なんとなく、少しだけダンジョンの雰囲気が変わったように感じられる。
といってもダンジョンに変化があるわけじゃない。
理由はサーチを使うことですぐにわかった。
「やっぱり今回もあるようですね」
>なんだなんだ
>一体何があるっていうんだ
「ボスからドロップした鍵を持っていると、鍵を使うための扉が確定でダンジョン内に現れるんです。それが今回もあるようですね」
サーチを使うまでもないくらい強大な魔力を感じる。
ダンジョン内の魔力に乱れが生じていて、配信カメラを繋いでいる魔力紐にもちょっと乱れが生じたほどだ。
少し魔力を強化して先に進む。
>そういや映像もちょっと乱れてるな
>下層とか深層に行くと配信できないって話もあるよな
>それも魔力の影響だったのか
おっと、どうやら配信にも影響が出てしまってるみたいだ。
俺は魔力を操作し、カメラを繋いでる魔力紐を大きくした。
これでカメラ自体を包み込めたはずだ。
「これでどうですかね」
>見やすくなった!
>ありがとう!
>魔力操れるってマジだったのか
>これで今まで映像に残せなかったところも残せるようになるってこと?
>俺も配信してるんだけど、たまに映像乱れることあったんだよな。理由がわかってありがたい
>あとは魔力操作を覚えるだけだな
>1番の難関が残ってるんですがそれは
コメントもいつも通りに流れ始めた。
よかった、うまくいったみたいだ。
じゃあ先に進もうか。
感じる魔力に従ってダンジョンの中を進んでいく。
途中にモンスターは1匹もいない。
おかげでサクサク進んでいった。
そうしてやがてそれが見えてきた。
「どうやら到着したみたいですね」
「うそ……こんなの……」
シオリが絶句したように小さくつぶやく。
>なんだよこれ……
>マジでこんなの存在するのか……
コメントも混乱してるみたいだった。
俺の目の前に巨大な扉がある。
高さは10メートルはありそうなほど巨大で、眩いほど真っ白に輝いている。
それは、巨大な一つのダイヤモンドだった。
もはや何カラットなのかを考えるのも馬鹿らしいほど巨大なダイヤモンドを削り出して作られたような、とてつもない扉だ。
世界最大のダイヤは、たしか握り拳ほどの大きさだって聞いたことがある。
なのでそれを超えることだけは間違いない。
それにしても、何度見ても壮観だなあ。
これだけは何回見ても慣れるってことがない。
シオリも呆けたように見とれていた。
女の子はダイヤとか宝石が好きだっていうもんな。
これだけ巨大なダイヤモンドなんだ、見惚れるのも当然だろう。
そういえばシオリも女の子なんだしな。
「………………」
シオリがこっちを睨んでくる。
おかしい……
何も言ってないのになんで考えてることがバレたんだ……
扉の前には、牛の頭を持つ人型のモンスター、ミノタウロスが門番のように立っていた。
一般的なミノタウロスの二倍の体長があり、さらに4本の腕を持っている。
いわゆる「イレギュラー」のミノタウロスだ。
七色の黄金に輝く2本のハルバードを持ち、もう2本の腕を胸の前で威圧するように組んでいる。
>なんだあのモンスター……
>あんなの見たことないぞ……
>あの武器も、なんだかわからないけど、絶対やばいことだけはわかる……
>ここ本当に10階か……?
>地獄かなんかじゃないのか……
どうやらコメントのみんなは見たことなかったみたいだ。
まあ俺もミノタウロスのイレギュラーなんて、ここの門番以外で見たことないからな。
その門番のミノタウロスは、近づく俺をギロリと睨みつけた。
2本の武器を俺に向けて構える。
後ろにいるシオリの息を飲む音が聞こえた。
ミノタウロスは俺が武器を構えたままその口を開いた。
『神の鍵を手にし人の子よ。神の試練に挑むか』
「えっ、しゃべった……!?」
シオリが驚いたように声を漏らす。
>しゃべるモンスター!?
>そんなの存在しないだろ!?
えっ、そうなの?
他にも見たことある気がしたけど……
『ここより先は神の試練。
試練を越えし者には莫大な恩恵を与えるが、失敗すれば死より恐ろしい罰が待っているだろう。
迷いし者は引き返すがいい。それは恥ずべきことではない。蛮勇とは死に急ぐことでは……』
門番のミノタウロスがいつもの言葉を言い始める横で、俺は扉に近づき、手にした鍵を鍵穴に差し込んだ。
>ちょwwwイベントすらスルーするのかwww
>話聞いてあげてwww
>モンスターくん涙目w
>何か重要そうなこと言ってるのにw
「あ、この言葉は最後まで聞くと五分くらいかかるので無視推奨です」
ガチャリと音が響き、見上げるほど巨大な扉が音を立てて開き始めた。
「あの台詞はいつも同じなので聞く必要はないです。
要はこの扉の先は難しいけど、ショートカットになるボーナスステージだよってことです。
失敗したら死ぬとか言ってるけど、それは普通のダンジョンでも同じなので、ただの脅し文句ですね。それに何度もクリアしてるので大丈夫です」
扉が人一人分の隙間を開いたところで止まった。
そこをすり抜けて中に入る。
シオリも少し緊張しながらも、俺の後についてきた。
>門番は襲ってこないのかw
「あの門番は立ってるだけです。襲われたことはないですね」
扉の先は、まるで神殿のような柱が立つ、広い空間になっていた。
全体的に神々しい光に満ちており、部屋の中央に下に降りる大理石の階段がある。
>ていうか、マジでここなんなんだ……
>ダンジョン内に神殿があるなんて聞いたことないんだが
>神々の試練って言ってたよな……
>神ってなんだ? どの宗教の神?
>ダンジョンの神だろうな
>あの階段の先に行けばわかるんじゃないか
よしよし、コメントもいい感じに盛り上がってるみたいだな。
俺自身もここに入るのは久しぶりだから楽しみだ。
「ではさっそく「神々の試練」に挑みたいと思います!」
>うおおおおおマジか!!
>ケンジくんついに神の領域に!?!?
>やばすg!!
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