第23話 規格外の化け物
>そりゃそうだよなあw
>あんなこと言われたらなんなのか気になるし!
>たまには寄り道も、ね?
そういうことらしい。
RTAよりもモンスターの方が人気というのはちょっと寂しい気もするけど、まあみんなが求めているのなら仕方がない。
確かにずっと同じことばっかりだと飽きるだろうから、たまにはこうやって違うことをやって視聴者の興味を引くことも大事だよな。
「まあせっかくですしね。そんな滅多に見られるものでもないので、みんなに見てもらうのもいいかもしれません。
なので階段への最短ルートからは外れますけど、ちょっと我慢してください」
さっそくサーチで感じたモンスターの場所に向かことにした。
何度か通路を曲がり、部屋を通り抜けて目的の場所に向けて走る。
>相変わらず早いなあ
>人間が走ってるスピードとは思えない
>しかもモンスターを倒しながらだもんな
「到着しました。あの通路の先にいるのがそうです。みんなはあれが何かわかりますか?」
そう言って配信用カメラを廊下の奥に向ける。
目の前の狭い通路を塞ぐように、人型の存在が立ちはだかっていた。
ぱっと見は、人の形に削られた石のように見える。
そいつは俺に気がつくと、暗かった目に光が灯った。
起動の合図だ。
ゆっくりと動き始める。
重鈍な見た目通りに、一歩歩くごとにダンジョンの床がかすかに振動する。
>ん? ゴーレムか?
>これのどこが珍しいんだ?
>イレギュラーってこと?
>そうは見えないけど
>いや待て、色がおかしい
>は? まさかアイアンゴーレム!?
「おっ、気がついたみたいですね」
>いやいやいや! この階のゴーレムならストーンゴーレムだろ!?
>ストーンゴーレムどころか、ブロンズゴーレムさえすっ飛ばして、なんで中層のモンスターが!?
「なんでって言われると、なんででしょうね?」
俺が出現するモンスターを選んだわけじゃないので、理由まではわからないけど。
「たまにこうやって下の階のモンスターが現れることがあるんですよね。まあ滅多にないことですけど」
>軽くて草
>あるんですよね☆ ですむ話じゃないんだわ
>どんな即死トラップよりも酷いぞ
>実際に出会ったら絶望でしかない
>でもたかが鉄でしょ? ドラゴンの鱗の方が固くない?
>アイアンゴーレムは金属ってだけで、鉄じゃないぞ。
>そうなの?
>鉄製の武器じゃ逆にこっちが折れる。人類には未知の金属でできてる。
>なんなら金属なのかどうかすら分かってない
>じゃあなんでアイアンゴーレムなんて名付けたんですかね
>マジで名前つけた奴誰だよ
>政府の役人だよ
>金属=アイアンとか思ってたんだろうな
>英語力小学生かな?
「アイアンゴーレムは確かにめちゃくちゃ硬いですけど、動きは遅いので戦闘を避けるのは簡単です。別ルートを選びましょう。
でも逆に、こうして通路を埋めてしまうほどでかいので、脇を通り抜けるとかはできません。最短ルートにこいつがいると面倒ですね。
今回は倒す必要はありませんが、せっかくなので、アイアンゴーレムの倒し方を解説したいと思います」
俺はゴーレムの前で一度足を止める。
アイアンゴーレムが、地面を激しく揺らしながら俺に向けて駆け出した。
>音やべー
>迫力ありすぎ
>鉄の塊が猛スピードで走ってくる絵面やばすぎ
>ゴーレムの動きが遅いとは
>ゴーレムの動きが遅い(100倍加速時
>出会ったらマジで絶望だし、倒し方は知っておきたいな
「アイアンゴーレムの倒し方ですが、まず拳を強く握ります」
>ん?
>ん?
>あれ?
>嫌な予感……
「固く握るほど力も増すので、全力で握りましょう。魔力も込められるとなおいいですね。
それから足で地面を強く踏みしめます。コツとしては、ギュッと力を込めることです。こっちも魔力を込めておくと確実性が増すのでいいでしょう。
これで準備完了です」
拳を固め、地面を踏み締める俺に向けて、アイアンゴーレムが迫ってくる。
その相手に向けて、俺は溜めていた力を解放する。
「──はっ!!!!」
足と腕を同時に伸ばす。
固く握った拳がアイアンゴーレムの胴体に命中した。
──ッギイィィィン!!
金属の胴体が砕け散る。
ガラス片のように粉々になって、ダンジョンの廊下に散らばっていった。
「……という感じで殴れば、アイアンゴーレムでも壊すことができます。コツは、ギュッとしてどーん、です」
>いやいやいやwww
>んなわけないwww
>どーん(核爆発
>誰が真似できるんですかねそれw
「……あ、そうそう」
俺は思い出したことがあって、もう一度ゴーレムの方を向き直った。
胴体を破壊されたアイアンゴーレムだが、それでもまだ立ちはだかっていた。
流石に動きは遅くなっているが、それでも俺に向けて巨大な腕を持ち上げる。
>え? なんでまだ動いて……
>やばいやばいやばい!
>ケンジくん避けて!
「ゴーレムは命を持たない人形です。なので胴体を破壊したくらいでは止まりません」
アイアンゴーレムが、俺に向けて腕を振り下ろす!
俺はそれを手で受け止めた。
>……は?
>素手、で……?
「ゴーレムを破壊するには、コアを破壊する必要があります。ですがコアの場所は毎回違うので、どこにあるかわからないです。とはいえたいていは頭か胸ですね」
俺は受け止めたゴーレムの腕を引きちぎってわきに棄てると、貫いた胴体から胸に向けて手を突き刺した。
そのままゴーレムの内部を探る。
「……はい、ありました。これですね」
引き抜いたそれをカメラに向ける。
赤い宝石のような鉱石が、心臓のように鼓動していた。
>ゴーレムコアを……素手で引き抜いた……
>鉄より硬い体を、まるで粘土みたいに……
>腕も簡単に引きちぎってたんだけど……
手にしたゴーレムコアを握りつぶす。
そのとたん、ゴーレムの目から光が消え、その場に崩れ落ちた。
「このように、コアを破壊することでゴーレムは活動を停止します。普通の生物とは違うので注意しましょう」
>マジで、なんなのこいつ……
>規格外すぎる……
なんかコメントが静かだな。
やっぱりゴーレム退治なんてありきたりでつまらなかったかな?
ただパンチして倒すだけだもんなあ。
崩れたゴーレムが光の粒子となってダンジョンの中に溶けて消えていく。
やがていくつかの金属片が残された。
多分アイアンゴーレムの材料になっている金属だろう。
かなりの魔力を含んでいる金属なので色々と使い道はあるんだけど、今回は……
いや、そういえば今回は使い道があるんだった。
なので俺はその中のひとつを手に取った。
磨き抜かれた表面は鏡よりもツルツルに磨かれている。
あまりにもキレイに反射していて、まるでそこに写ってるのが本物のように感じてしまうほどだ。
>え!?
>嘘だろ!?
>そんなことある!?
なんか急にコメントが騒ぎ出した。
今度はいったい何が……
>あのケンジくんが素材を拾っただと!?
>一億円落ちてても拾わないあのケンジさんが!?
>小さな欠片ひとつでも100分の1秒遅れるからいらないとか言い出すのに!
ええー……。
いくら俺でもそんなことは言わないよ。
この大きさならせいぜい1000分の1秒くらいだと思うし。
>やっぱり言うんじゃないか
>命より重いタイムを削ってでも拾うなんて……
>いったいどんなヤバい素材なんだ!?
これは「エーテル鋼」ですね。
アイアンゴーレムのコアを破壊したときにドロップする、ゴーレムの体の一部ですね。
素材自体は普通だと思うんですけど、あとで必要になるんですよね。
なので一欠片だけ拾っておきます。
>アイアンゴーレムって未知の素材だったはずなんですがそれは
>判明しちゃったw
>まーた歴史に名前残しちゃったよ
>軽率に教科書書き換えないでくれますかねえ
>普通の素材(未知の物質
>ていうかなんでわかるんだ
なんでというか、サーチでアイテムの詳細を調べれば、細かい情報もわかりますよね?
そうすれば名前もわかりますよ。
>だからさあ
>何度も言ってるけどさあ
>そのサーチのやり方がわからないんだよ!!
>一体感好き
そういえばそうだったっけ。
意外とみんな魔力制御のやり方を知らないみたいなんだよな。
今度そのやり方の解説動画もやらないといけないな。
>今でもいいんだよ?
今日はRTA解説動画なので。
スキルなんかの解説動画なんかは、また今度改めて出しますね。
>待ってる
>マジで頼むぞ
>人類史が変わるといってもいいくらいの内容だからなそれ
またまたみんな大げさだなあ。
でも、嘘でもいいからそうやって褒めてくれると、やる気が出るから助かるな。
よーし、この調子で張り切って進んでいこうか。
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