第18話 初めてのスパチャ
「グギャアアアアアアアアアアア!!!!!」
キングトロールの咆哮が室内に響き渡る。
空気が震え、ダンジョンの床や天井がビリビリと震える。
その声は怒りに満ちているようにも、それ以上の何かに駆り立てられているようにも聞こえた。
キングトロールはその名の通り、トロールたちのボスだ。
その体は通常のトロールの2倍近くもある。
人間と比べたら4倍近い。
この部屋だけやけに天井が高かったのは、こいつがいたからだろう。
キングトロールはただトロールがデカくなっただけじゃない。
あらゆるステータスも数倍になっているし、元のトロールにないスキルもあったりする。
例えば耐性なんかもそうだ。
キングトロールの足元の床は凍りついていたが、その足にはちょっと霜が付いてるくらいで、全く凍りついてる気配はない。
まあ入り口からも離れてたからな。
効果も減少したせいはあると思う。
とはいえ大部分は、奴が持つ魔法耐性のせいだろう。
>これがキングトロール……
>初めて見た……
>存在するとは言われてたけど
>トロールの巣の奥にいたのかそりゃ見つからないわけだ
>そんなところ入るわけないからな
コメントもちょっとざわついている。
どうやらみんな見たことがなかったらしいな。
まあRTAやってないと見ないものなのかもしれない。
「どうやらみんなキングトロールは珍しいみたいなので、倒し方も知らないですよね。では軽く解説しながら倒したいと思います」
>おおマジか!
>さっきも見たなこの流れ
>ということは……
「ボスとはいってもトロールであることは変わりません。弱点も基本的には同じですね。まあ魔法耐性があるので効きが悪いですが……その代わりにより明確な弱点があります」
怒りの咆哮を上げるキングトロールに近づく。
素早く背後に回ると、その足に手を当てた。
「でかいので動きが遅いです。なので直接触れた状態で魔法を使いましょう。これで多少の魔法耐性も貫通できます」
氷の魔法を使う。
ゼロ距離からの氷魔法で、キングトロールの足が凍りついた。
>いや早すぎ
>そもそもそんなに早く動けないんだが
>何で氷初級魔法のフリーズでそんなに凍るんですか
動きを止めてしまえば、あとはただデカくてタフになっただけのトロールだ。
足を凍らせた後は、背中に手を当てて氷魔法を発動する。
その次は頭部。
これでろくに抵抗させることもなく、全身を凍らせることができた。
後は簡単だ。さっきまでと同じように頭部を破壊すればいい。
頭を失ったキングトロールは、声ひとつ上げることなく光となって消えていった。
「というわけで、キングトロールの倒し方でした」
>瞬殺……
>凍らせて殴るだけなんて簡単だなあ
>簡単すぎて凄さがわからないw
>わからないのわかるw
>実際めちゃくちゃすごいんだろうな
>いや、マジでやばいよ……なんだよあの動き……
>人間じゃない……
>【10000円】いいもの見れた記念
ん? なんだあの数字?
>お、スパチャ解禁されたのか
「スパちゃ……?」
>なんでスパちゃ知らない配信者がいるんだw
>【100円】解禁記念スパチャ
>【300円】お疲れ様!
>【500円】面白い配信ありがとう!
なんか急に数字のついたコメントがたくさん流れてくるんだけど……
ここに書かれた金額がそのまま俺に送られてるってこと?
なんか、今までカメラの向こうにしかいなかったけど、急に現実感が出てきたというか……
>【10000円】スパチャ解禁されたと聞いて
>【20000円】もう収益化通ったってこと?
>【10000円】収益化条件って登録者1000人、視聴時間10万時間とかだっけ?
>【50000円】お前らスパチャで会話するなw
>【50000円】お前もなw
えええええ!?
なんかすごい金額が書かれてるんだけど……
これ本当に送られてくるの?
自分で適当に書いてるんじゃなくて?
「ちょ、ちょっとみんな、落ち着いてくれ……。お金は大事なんだぞ? そんなポンポン送っていいものじゃないぞ?」
>狼狽えてて草
>主ならすぐ慣れるよ
>数千万するアイテムスルーしてるくせにw
それとこれとは違うというか……
こうやって直接見せられるとなんかリアルに感じるというか……
いや違うな。
誰かにこれだけのお金を使わせてるという罪悪感みたいなものかな。
>【100000円】推しに貢げて幸せです
>10万スパチャ初めて見たw
えええ、10万円……?
こんな簡単にこんな大金振り込まれたら、金銭感覚狂いそうで怖いな……
シオリに目を向けると、なにやら小さくうなずいた。
>あれ、スパチャできなくなった
>制限されたか
>スパチャも知らないケンジくんにそんな芸当出来るわけない
>シオリちゃんだろうなあ
>アイコンタクトだけでそこまでやってくれるのマジ有能
>有能な美少女幼馴染みマネージャーなんてマジで勝ち組じゃん
どうやら俺の思いをわかってくれたようだ。さすが幼馴染み。
キングトロールが光となって消えた後には、いつも通りにドロップアイテムが残されていた。
「えーと、落ちたのはキングトロール用の巨大な斧と素材アイテムですね。
斧は重すぎて走る速度が落ちてしまうので拾えません。素材も特に使い道はないので要らないですね」
>未確認ボスのユニークアイテムドロップしてるじゃんw
>それひとつでスパチャ何百回分なんだよw
>金銭感覚狂ってるのはどっちなんだかw
どれもRTAには必要ないからな。
タイムは金より重い。優先順位の話だ。
しかし、キングトロールは稀に有用なアイテムをドロップする。
俺はドロップしたアイテムを調べていき、そしてそれを見つけた。
「おおっ! これはラッキーですね!」
>お、どうした
>ユニークアイテムでも喜ばないケンジくんがここまで喜ぶとは
俺は拾い上げたそれをカメラの前に持ってくる。
それは、金色の小さな鍵だった。
「これは10階で使用できるレアアイテムです。これがあると……いや、せっかくなので10階までのお楽しみにしましょうか」
>気になるw
>うーんこれはやりて配信者の手口
>ていうかボスが鍵ドロップするとか初耳なんだが
>隠し部屋ですら知らなかったのに、まだ何かあるのか
>ダンジョンって知らないことばっかりなんだな……
>まだ全然解明されてないからな
その後、トロールの巣を抜けて少し進むと、すぐに次の階段が見えてきた。
その時、シオリがこちらに目を向けてきた。
カメラのバッテリーあたりに視線を向けている。
「えー、どうやらカメラのバッテリーが切れそうなようです」
>え
>え
>まさか
>うそだろ
>ここで終わるなんていわないよな?
>もちろん予備のバッテリーはあるんだよな?
「すみません、配信初めてだったのでそこまで気が回らなくて、予備のバッテリーは用意してなかったんです。なのでいったん戻ろうと思います」
>嘘だろ
>ここで終わりかよ
>続きが気になるのに!
みんなのコメントに俺も心苦しくなる。
そうだよな。こんないいところでいったん終わるなんて、みんなもがっかりだよな。
「本当に申し訳ありません。すぐに戻ってくるので、待っててもらえれば嬉しいです」
>了解
>急ぐのは得意だしな
>配信再開RTA始まる?
>新しいジャンル生まれてて草
みんなコメントに心が温かくなる。
ここは優しいインターネットですね。
「すぐに戻るのでみんな待っててください!」
>おけ
>お疲れ!
>続きを待ってるからな!
俺はショートカットから登録していたスキル『ワープゲート』を起動する。
目の前の空間に丸い穴が現れた。
その先には地上の景色が写っている。
>は?
>は?
>は?
>は?
>は?
「それじゃあ一度地上に戻るので、一時間後くらいに戻ってきますね!」
>ちょちょちょっと待て!
>説明を!
>説明を頼む!
>それはなんだ!
>それはなんだ!!
>それはなんだああああああああ!!!!
《読者様にお願い》
ここまで読んでくれてありがとうございます! 感想もいつもすごく嬉しいです!
もしよければブックマークやおすすめポイントをつけてくれると本当に励みになります。
読者の皆さんから評価をもらえると、これからも楽しい作品を書く活力にもなります。
ブックマークは簡単な作業だけど、私にとってはすごく価値のあるものなんです。
もちろん、つけたくなければ無理に頼むつもりはありません。ただ、もし可能であれば、本当に嬉しいです。
これからも頑張って書いていくので、ぜひよろしくお願いします!