第17話 モンスターハウスの簡単な攻略法
扉を開けた途端、トロールたちが一斉に俺たちを見た。
数百もの目がまとめて俺たちをみるのは、たかがトロールといえさすがにちょっと気持ち悪い。
そのせいなのかシオリも俺の背中に隠れるようにしていた。
トロールの巣。
いわゆる「モンスターハウス」だ。
部屋が広いため、ここを通るだけで結果的にかなりのショートカットができる。
もちろんバトルがあるからその分時間がかかるが、それを差し引いてもここを通り抜ければかなりの時間短縮につながる。
なのでここを進むことにしたんだ。
トロールは分類でいえばゴブリン、オークに次ぐ3番目のモンスターだ。
オーク以上の攻撃力と、スライム並みの耐久性をもつ、順当に強化されたモンスターとも言える。
そして何よりもトロールが厄介なのはその再生能力だ。
ちょっと切っただけならすぐに傷口が再生するし、気絶させても元に戻るのが早い。
腕を切っても断面を合わせればくっつくし、放っておいても1時間程度で新しい腕が生えてくる。
とにかくタフなんだ。
なので倒すのに時間がかかる。
ゴブリンのように群れを作ることが少ないのが救いではあるが、それでもRTAにとっては天敵ともいえるかな。
特に今回みたいにモンスターハウスにこれだけいるとな。
「トロールは1体倒すだけでも時間がかかる。なのでRTAの時にはできれば避けたい敵です」
>RTAじゃなくても避けたいけどなw
>とにかく倒すのが面倒なんだよな
>戦ったことは何度もあるけど、倒したことは一度もないわ
>再生するからな
「とはいえ今回のように戦わなければならない時もあります」
>戦わなければならないというか自分から入ったけどなw
>トロールの巣に突っ込む奴初めて見たw
>普通死ぬぞ
>普通は、な
「なので今回は簡単に倒せるコツを紹介したいと思います」
>おお!
>マジか!
>ありがたい
部屋の出口の場所はわかってる。
ちょうど真正面にある壁に、外に出るために壁があるのをサーチで確認していた。
だらかまっすぐに進むだけだ。
だけなのだが、今回は少しだけ手間がかかる。
いつもなら道を邪魔する分だけを倒して先に進むが、今回はシオリがいるからな。
俺1人だけ通れればいいってわけにもいかない。
なので全滅させることにした。
「まずは氷魔法で足を凍らせて足止めします」
そういって俺は魔力を練り上げ、魔法詠唱を開始する。
「詠唱速度100倍・多重発動・<氷河地帯>・10連」
俺の足元から氷の津波が現れる。
それが部屋の奥に向かって一斉にあふれ出していった。
床一面をあっという間に埋め尽くし、トロールたちの下半身を一斉に凍らせる。
>は?
>は?
>今の何……?
>氷魔法、なのか……?
>氷の津波……? そんなことありえるのか……?
とはいえ一回の詠唱じゃ部屋全体を埋めるには足りないから、加速魔法を併用して10回分を一度に発動させた。
といっても難しいことはしてないんだけどな。
詠唱速度を上げて、10回連続で唱えただけだ。
簡単にいえば、めちゃくちゃ早口になったってこと。
実際には口で詠唱してるわけじゃないから正確には違うけど……まあそれはいいだろう。
10回分の氷の波を生み出すことで重なり合い、大きく膨れ上がった魔法が部屋一帯を押し流す。
全身を凍らせられて、押し寄せようとしていたトロールたちが一斉に動きを止めた。
よし。
これでもう動けない。
近くにいた何匹かは心臓も凍らせたはずだ。
「いくらモンスターハウスでも、こうやってまとめて動きを止めれば楽勝です。凍らせることで壊れやすくもなるので、簡単に倒せるようにもなって一石二鳥ですね」
とはいっても氷だからいつかは溶けるし、奴らの脚力なら氷を砕く奴もいるだろう。
ゆっくりはしてられない。
ショートカットから加速魔法を呼び出し自分にかける。
そして部屋の中に飛び込んだ。
目の前のトロールの頭めがけて拳を叩き込む。
巨大な緑の頭部が粉々に砕け散った。
いくら再生能力があるといっても、頭まではさすがに治らないからな。
それでも復活するのはアンデッドだけだ。
目の前のトロールを倒すと、すぐさま隣のトロールの頭も破砕する。
そのまま流れでさらに目の前の敵も次々に破壊していく。
殴って、近づき、殴って、近づき……
そんなことを繰り返してると、部屋の中央あたりまでやってきた。
ざっくりした計算だと、これで半分ほどは倒したことになるな。
時間だと10秒くらいか?
まあまあってところだな。
>今の……なんだよ……
>早すぎる……
>10秒足らずでトロール50体が全滅……
>化け物……
「ぐううウゥゥゥゥ……!」
おっと。
この辺りのトロールは上半身は凍ってないらしいな。
まだ動けないながらも意識はあるようで、俺のことを敵意のこもった目で睨みつけてくる。
まあ目の前で仲間が倒されたんだから怒るのも無理はないか。
巨大な棍棒を振り上げて威嚇したり、俺に向けて投げつけてくる奴もいる。
それらを難なくかわしながら、俺は少しだけ考え事をしていた。
正直、このまま頭部を殴って破壊することはできる。
けど、そうすると、なんというかその、血飛沫がさ……
普段はそこまで気にしないけど、配信的にはやっぱり良くないよなあ。
俺だって別に見たいわけでもないしな。
なので腕に加速魔法を重ねがけした。
これで拳だけさらに加速することになる。
それによって空気摩擦が生まれ、拳の周囲の空気は高温になる。それで傷口を焼くんだ。
そうすれば血飛沫も上がらなくなるだろう。
これで安心して本気を出せるな。
次々にトロールたちを粉砕していく。
加速してるおかげで倒すのも早い。
とはいえ、同じような場面が続くとやっぱり見てる方は飽きるよなあ。
リズムよく倒してさっさと終わらそうか。
「……よし。こんなもんか」
そして約3秒後。
俺は足を止めた。
ざっと周囲を見渡したが、残っているトロールは1匹もいなかった。
>ちょっと待って……
>なんで……さらに加速してるの……
>何が起こった……
>わからん……何もわからん……
>これがケンジくんの本気……?
「というわけで、これがトロールの倒し方のコツです。凍らせて倒しましょう」
>無理で草
>もうコツとかじゃないんだよなあ
倒れたトロールたちが一斉に光の粒子となって浮かび上がり、宙に溶けて消えていく。
ちょっと幻想的とも言える光景に見惚れていると、その奥に巨大な影が見えてきた。
>おい、あれ……
>なんかすごいのが見えてるんだけど……
>まさか……
見えてきた影を追って、俺は部屋の出口にあたる扉に目を向ける。
そこにいたのは1匹の巨大なモンスター。
キングトロールが待ち構えていた。
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