第16話 ダンジョンといえば、そうあれです
落とし穴を飛び降りて地面に着地する。
そのあと、降りてきたシオリを受け止めると、改めてダンジョン内に意識を向けた。
ダンジョンは階層ごとに分かれていて、サーチを使っても他の階までは確認できない。
だからこうして毎回サーチしないといけないんだ。
まあ最初から解っちゃうよりも、こうして毎回確認する方がワクワクできて俺は好きだけどな。
そうしてるうちに、この階に面白いものがあるのを発見した。
ちょうど最短ルートとも重なっている。
今回は乱数調整してないから完全に偶然だったが、結果的には配信的にも美味しい場面になりそうだ。
「どうやら今回も面白いものがありそうですね。さっそく向かいたいと思うので、楽しみにしててください」
>今度はなんだよ……
>そう言われて実際に面白かったためしがないだが……
>何でだよドラゴンに会えただろ
>普通は恐怖でしかないんだわ
>ドラゴン=死だからな
>でもドラゴンはもういないはずだろ
>てことはあれかな
>あーそうっぽいな
>ダンジョンといえばあれだもんな
>やっぱ会いたくないやつじゃないかw
>あーあれか。場合によってはメチャクチャうまいけどさ
>わかる、うまいよな
>俺は塩派だな
>何人かわかってないやついて草
やっぱり何人かは気づいてるみたいだった。
まあそりゃそうだよな。ここまでくれば、一度くらいは見つかるものだし。
ダンジョンの廊下を走りながら目的の場所に向かう。
途中何匹かモンスターもいたけど、それはあっさりと倒しておいた。
もう一度見た敵だから、配信的にも美味しい場面でもない。
サクサク進んでしまった方がいいだろう。
>気持ちいいくらいに無双してるな
>まあこのレベルなら7階なんて雑魚でしかないだろ
>ダンジョンなんて簡単じゃんとか勘違いする奴出てきそう
>それはやばいな
>ダンジョンはマジで危険だからな
>おい今トロールいなかったかw
>ちょwマジかよw瞬殺じゃないかwww
>ていうか倒されたトロールなんで再生しないんだ……?
>確かに……
>何か倒し方があるとか?
>コツとかあるんだろうけど一瞬すぎてわからないw
>ケンジくんも解説する気ないみたいだしなw
>弱すぎて解説する必要もないんだろうなw
>嘘だろ……俺この間フルパーティでトロール1匹倒すのに2時間かかったんだが……
>いやトロール倒せるだけですごいよ
>多分お前のパーティ日本で上位10%に入るぞ
>ケンジくんがおかしいだけだから気にするな
どうやら気が付かなかったけど、トロールを倒していたらしいな。
走りながら目につくモンスターを片っ端から倒してるせいで、いちいち相手が誰なのか確認してなかった。
まあ、ゴブリンもオークもトロールも、大体一緒だしな。
とはいえ、こんな場面を見せられてもつまらないよな。
さっさと急ぐとしようか。
「この辺は見どころないと思うので、ちょっとペースを上げますね」
サーチでモンスターの位置は全部把握してるから、素早く近づいて倒すか、離れてるようなら石を投げて倒していく。
>えええ、さらに速度が上がってる……
>今のところ見所しかないんですが……
>もう何をどうやって倒してるのかもよくわからねえ……
>やばいちょっと酔ってきた
>早すぎるんだよなあ
おっと、画面が揺れすぎたかな。
少しペースを落として振り返ってみると、魔力紐でつないでる配信用カメラがかなり揺れていた。
シオリも急いで追いついてくる。
流石に高レベル冒険者だけあって遅れるということはないみたいだったけど、走るのに気を取られて、カメラの揺れにまでは気が回ってないようだった。
「シオリ、ちょっと止まってくれ」
「どうしたの?」
「いや、走りながら配信するのは大変だろうと思ってな。バフ魔法をかける」
俺はショートカットに登録した魔法を呼び出す。
シオリの体が淡い光に包まれた。
「加速魔法をかけた。これで2倍速で動けるはずだ」
「え、ありがとう……?」
>シオリちゃん戸惑ってるじゃんw
>いきなり知らないバフかけられたらなあ
>シオリちゃんミンチになっちゃうの?( ; ; )
>声かわいい
「シオリなら大丈夫だと思うけど、ちょっと歩いてみてくれ」
「えっと……」
シオリが戸惑いながら足を一歩踏み出す。
その瞬間、ものすごい勢いで俺の方に向かって突っ込んできた。
「おっと」
その体を受け止める。
最初は勝手がわからないからな。
多分そうなるだろうと思ってちゃんと身構えていた。
シオリは俺にぶつかる寸前でなんとか止まっていた。
顔が目の前にある。
もう少しで頭突きを喰らうところだったな。
危ない危ない。
シオリも顔が赤くなっている。
動きを制御できなかったので恥ずかしがっているんだろう。
>近い近い
>男の顔なんかアップで写すんじゃない
>どうせならシオリちゃんを映せ
なんだかひどい言われようだ。
シオリを抱き止めた衝撃で、魔力紐でつながっていたカメラが俺の目の前に来てしまったみたいだ。
まあ俺の顔なんかドアップで映されても見たくないのはわかるけどな。
シオリは顔出しNGらしいので、すまないが俺の顔で我慢しててくれ。
>ウホッ、よく見たらいい男
>や ら な い か
>だんだんリスナーも調教されてきてるな
とはいえ、シオリも今ので勘はつかんだようだった。
そのあとは俺に激突することなく、2倍速に慣れた動きでついてくる。
おかげで配信を調整する余裕も生まれたみたいで、画面の揺れもおさまってきたようだった。
>すごい、ちゃんとケンジくんの動きについていけるようになったな
>加速魔法いいな
>俺も覚えたい
>まあ時魔法なんて聞いたことないけどな
>早く覚え方教えてくれませんかねえ
>じゃあ次やりますね!
>今教えろ定期
>てか今のところ加速のバフにしか使ってないけど、多分もっとやばいのがいくらでもあるんだろ
「ああ、敵の動きを遅くしたり、さらに上級になると、敵の時間を停止させる魔法もあるみたいだな」
>何それ強すぎw
>撃たれたら実質即死じゃんw
>最強魔法きたw
「まあ俺には必要ないんで覚えていないけどさ」
>何でだよw
>絶対いるでしょw
「いや殴った方が早いから」
>出たよ脳筋理論
>そもそもモンスターを殴って倒せることがおかしいんだけどな
>やはり最強はレベルを上げて物理で殴るだな
>やはりな
>証明されてしまったか
「まあ俺ももっと下まで行けば殴る以外でも倒すけど……おっと、いつの間にかついたみたいだな」
俺が止まった目の前には、壁に造られた金属製の扉があった。
今まで部屋には扉なんてないか、あっても木製だった。
いかにも何かありそうな部屋だ。
俺は取っ手に手をかけ、ゆっくりと押し開く。
>何があるというんだ
>どきどき
扉を開けた先にあったのは、大きな広い部屋。
パッと見ただけでは部屋の奥が見通せないほど広く、天井は2階分もある。
そしてその部屋を埋め尽くす緑の魔物。
「ひぃっ……!」
シオリの息を呑む声が聞こえる。
>え
>嘘だろ
>マジかよ
>おいおい、ざっと見ても100体はいるぞ……
>これ全部……トロールなのか……?
そう。ここはトロールの巣。
いわゆる「モンスターハウス」だ。
そして最大のショートカットコースでもあるんだ。
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