第13話 誰もが一度はあこがれるモンスター
階段を降りて5階層にやってきた。
今までは岩をくり抜いて作ったような「ザ・洞窟」って感じだったんだが、ここからは石のブロックを積んで作ったような床と壁が続いており、ダンジョンというか、迷宮って感じになってくる。
いかにも人工的に作られた場所って感じだ。
ここまでは準備運動って感じだから、5階に入ってこの光景を見ると、ダンジョンにやってきたなーって感じがしてテンション上がってくる。
>ついに5階か
>ここから急激に難易度上がるんだよな
>死亡率も跳ね上がるからな
「いやあダンジョンに来たって感じがしてテンション上がりますね!」
>めちゃ喜んでて草
>死ぬのが怖くないのかな
>死ぬのが怖いやつはダンジョンなんて潜らないぞ
>ハイリスクハイリターンだからな
確かにここからダンジョンとしての難易度は上がる。
俺も初心者の頃はこの辺で帰ったり、上の階で修行したりしたからな。
その理由のひとつが、ここから出てくる新しいモンスターだ。
「どうやら、みんなが大好きなアイツが出てきたようですね」
目の前にある曲がり角を見ながらカメラに向かって言う。
俺はサーチで何がいるかわかってるけど、配信を見てるみんなはわからないはず。
とはいえ、5階といえばアイツだから、すぐに反応があった。
>お、きたのか
>初回から会うなんて運がいいのか悪いのか
>やつはマジでやばい、すぐに逃げろ。って普通なら言うんだけどな
>まあ瞬殺だろう
>ちょっと経験積んでれば、中級パーティーでも勝てるからな
>何秒で倒せるか賭けようぜ
>ソロなのに誰も心配してないの流石に草
>オークもワンパンだからな
>やつなら3パンくらいだろう
コメントもいい感じに盛り上がってきている。
やっぱあれは燃えるもんなあ。
カメラの方を見てみると、シオリの表情もなんとなく緊張してるように見えた。
シオリほどの経験があれば勝てるはずだけど……まあ弱い相手じゃないからな。油断はできない。
確かに俺も初めての配信でちょっと舞い上がってたかもしれない。
どんなに上層でも、ダンジョンは危険な場所だ。油断していいところじゃない。
気を引き締めないとな。
少しだけ警戒を強めながら曲がり角を曲がる。
その先は広い部屋になっていて、そこにやつはいた。
>おお、マジでいた
>見えないけどわかるのいいな
>俺もサーチ覚えたい
>いつ見てもカッコいいなあ
部屋の中央に寝そべるようにして、そいつは侵入者の到着を待っていた。
巨大な手足と、太い尻尾。
全身は緑色の鱗で覆われていて、鋭い牙がのぞく口からは、赤い炎が吐息のように漏れている。
のっそりと起き上がる、その動作には威厳さえ感じられた。
そう。
それは生物界の頂点。
ドラゴンだ。
……と言っても、小型だけどな。
国がつけた正式識別名はジャイアントリザードだが、誰もそんな名前では呼ばない。
コドモドラゴンとか、ドラゴンベビーとか言われている。
やっぱドラゴンこそ王道のモンスターだし、小型とはいえその迫力は、こうして何度見ても感動ものだ。
「うーん、やっぱ何度見てもドラゴンはかっこいいなあ」
>わかる
>配信でもすごいけど、生で見ると全然違うんだろうな
>俺は一度だけ見たことあるけどやばいよ
>やっぱ初めて見た時は感動するよな
>その直後に恐怖でビビるんだけどな
>ドラゴンだからな
>しょせんトカゲだろ
>エアプは黙って配信見ようね
>5階探索できる冒険者ってだけで、全体の2割にも満たないからな
もちろん、名前こそジャイアントリザードだが、分類的にはドラゴンと同じだ。
腕力はオークの10倍はあるし、鋭い牙は鉄を紙のように噛み砕く。
何より鱗が硬い。
並の武器じゃ歯が立たないし、全属性耐性も持っているから魔法の効きも悪い。
もちろん体力は化け物だ。
ゴブリンやオークで調子に乗った冒険者を返り討ちにする、初心者の番人でもあるんだ。
本来なら20階あたりで遭遇するようなモンスターなんだけど、なぜか5~10階の間で1匹は配置されている。
ダンジョンが何を思ってこんなことをするのかわからないが……
実際にいるんだから仕方がない。
「まあその代わり、ドラゴンと戦うことはメリットもある。周囲に他のモンスターがいないんだ。ルートにもよるけど、結果的にタイムを短縮できることが多い。あと、階段が近くにあることも多いかな。避けて通ることももちろんできるけど、まあ倒した方が早いな」
>そんな理由で戦うのはお前だけだw
>普通はドロップ目的だよな
>見返りもないのにあんなのと戦えるわけないだろw
そんなことをしてるうちに、ドラゴンが俺を敵と認定したようで、その瞳で真っ直ぐに俺を見据えた。
そうして、凶悪な牙が並ぶ口を大きく開いた。その奥に赤い炎がちらついて見える。
炎のドラゴンブレスだろう。
当たればちょっと熱いが、当たらなければどうということもない。
俺は回避しようと脚に力を込め……
「……あっ、やべ」
俺の後ろにいるシオリのことを思い出した。
まあシオリなら平気だろうけど、配信機材の方はダメだろう。
鉄さえ溶かすドラゴンの炎だ。機械類なんて一瞬で蒸発しそうだ。
直後に炎が放たれて、俺と、その後ろにいるシオリをまとめて包み込んだ。
「きゃあああっ!!」
>うおおおおおおおおお!
>やべえええええええええええ!
>画面が炎に筒亜mれてる!!
>思いっきりブレス浴びてるじゃん……
>てかこれ死んだんじゃね?
>ドラゴンベビーだからって舐めプするから……
>いやだとしたら何でまだ配信してるんだ?
>え、まさか……
>おい……炎の奥に……
>嘘だろ……
「シオリ、大丈夫か?」
俺は魔力障壁で炎を防ぎながら後ろを振り返った。
そこには半ば放心状態のシオリがいた。
驚いた目で俺を見ている。
「なんで……生きて……?」
「ああ、これか? 魔力障壁だよ。いつもは1人だからシオリのことを忘れててな、シールド魔法を使う暇がなかったから魔力障壁で防いだんだ。なのでちょっと熱いけど……無事か?」
「あ、うん。大丈夫だけど……」
「本当か? ちょっと良く見せてくれ」
「……え?」
俺は近づいて手を伸ばす。
「せっかく綺麗なのに、傷が付いたら困るだろ」
「あ……」
シオリはなぜか顔を赤くして体を硬直させた。
俺の伸ばした手はシオリの顔の横を通り過ぎ、そばで浮遊していた配信機材に触れた。
「……よかった。どこにも傷はないようだな。せっかく買ったばかりで綺麗な機械なんだから、もう壊れたりしたら勿体無いもんな」
「………………」
あれっ、シオリがめちゃくちゃ剣呑な目で俺をにらみつけていた。
幼馴染みの俺にはわかる。
これは怒ってる目だ。
……なんでだろう?
>うーんこれは0点
>爆発して死ね
>シオリちゃんも大変だな
>冒険者なんてみんな頭のねじないからな
>こんな奴より一般人の俺にしよ
なぜかコメントも否定的だった。
あれえ?
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