第一章
ゴォォォォォン…。
ゴォォォォォン…。
梵鐘が鳴る音が聞こえてくる。
この島で こんな真夜中に鳴り響いているなんて なんて不吉な…。
鳴らしている奴は誰なんだ…。
……………。
9回で止まった…。
「おっそいよー、愁君。」
学校帰りなのか、学生カバンを肩にかけて俺の名前を呼んでいるのは原村和。
“和”と書いて“のどか”と呼ぶ。
ここは瀬戸内海に浮かぶ小さな島 長沖島だ。ここに俺が通っている学校がある。
そしてこの長沖島には古くから言い伝えられている習わしがある。
その習わしとは、原村神社の梵鐘を9回 15秒間隔で鳴らせば魂が現世に蘇り、自身はただの肉片と化してしまう。という恐ろしい話しだ。
戦後まもなくその習わしは事実上崩壊し、当時の住民の人はもういないが、原村源蔵という老人がその事実を知っているみたいだ。
しかし源蔵さんは誰1人とも公言した光景を見たことがないし、本人さえも否定して疑わない。
そもそもその習わしは現代でいう都市伝説のようなもので、魂が肉体から抜かれるような現象を誰か確認したわけではない。
その昔、次々と村人が原因不明の病に倒れそのような現象が起こったような話しを聞いたことがあるが、それは結核というれっきとした病名があり、すでに科学的に証明されている。
原村源蔵さんとは和の祖父に当たる人だ。島の人口も減少し島民は高齢化が進み寂びれてしまった足長神社の巫女で 小中合同の学校に通っている生徒だ。
全校生徒の数は小中合わせても十数人余りで授業もほとんど体育ばかりだ。
原村和は俺がこの島に引っ越して初めての友達だ。詳しい風習はこの子から教えられた。
学校の先生は昼夜問わず居間でゆっくりお茶を飲んでいるような老夫婦が交代で務めている。
こんな青空学校の代名詞たる場所にわざわざ転校する理由がない。とも言えるだろうが、のどかな自然豊かな島で悠悠自適な生活を送れることは願ってもないことだ。
ちなみに俺は上条家のお手伝いとしてホームステイさせてもらっている。
「誰が石段の頂上に着けるか競争だよ!」
学校が終わり、和と そして小学生の上条当麻君と原村神社への石段造りの階段を走っている。
「体力がないですよ兄さん これくらい朝飯前じゃないと運動会で一等賞を取れません。」
遠堂というのは俺の苗字だ。遠藤ではなく遠堂。そして当麻とは同じ屋根の下で暮らしている従兄だ。
「うるさい 都会者にはきついんだよ。」
ぜぇぜぇ息切れをしながら石段をせっせと登る。先の2人にはかなりの距離が出てしまった。
文句たらたらだがこうやって友達と外で遊ぶことは新鮮で気持ちがいい。
俺は長沖島にやってくる前は東京に住んでいた。
気が弱く、その上運動音痴のため それが高じてクラスメイトに集団で苛められ後々不登校になってしまった黒歴史がある。
「はーい 私が一番だね。うーん… じゃぁ帰りに当麻君のランドセルを背負って帰るように」
「死ぬ…」
息切れ中の俺になんて過酷な命令だ。
原村神社に到着した俺は神主さんにお茶を出してもらい それを飲んだとはすぐに掃除だ。
今日は原西神社に掃除の手伝いに来ている。これは任意ではなく学校の中でのルールだ。
「さぁ 今日は早く帰って今度は僕とランニングですよ。」
黒ぶちメガネをくいっとあげて階段の下へ口笛を吹きながら竹ぼうきを持って降りていく。
すぐに和が俺の肩に手を置いてスキンシップをとってきた。
「さ、私たちは鐘の方をやらないとね。いくよ」
和は誰それ構わず話しかけるときは体をべたべた触る癖がある。
掃除をさぼり気味に適当に板を拭いている
和と二人で梵鐘を雑巾で雑巾で拭いていると昨日の鐘の音を思い出した。
なぁ和、昨日この鐘を夜に鳴らしていたか? なんて聞くと
んー? 鳴らしてないよ。 なんでー? と言い返されるに決まっている。
聞こえたから なんて言えない。もしかして夢の中で鳴っていたのかもしれない。
そもそもそれが夢の中の話しならここでぶっちゃけたら恥ずかしいことこの上ない。
「やぁやぁ 元気に掃除しているか諸君。」
いきなり声をかけてきたこの少女は宮永咲。
この真冬日に薄着の姿で髪型をショートカットしている。
俺と同じように転校してきてそうは日が絶たない島民だ。
転校してきた理由は俺の場合親戚という間柄で住ませてもらっている反面、咲の場合は父親がこの島にある土木工業の社長なので仕事の関係上止む無く引っ越しをしたというわけだ。
土木工業がこの島に建設され発展途上中なので、引っ越しの家族連れの方々を結構見かけるようになった。
「あ、咲ちゃん。うん、しっかりやらないと正月に参拝するお客さんに失礼だよ。」
「そうなんだ それはそうと愁君の方はあまり誠意を出してないみたいだねぇ。次の週は私が当番だからきっちりするんだよ。」
きっちりするんだよ という言葉にむかっぱらが起った俺は舌を出してからかう。
「やっぱり懸命にするのやめた。適当にする。」
「なぁにぃ! せっかく応援に来たのにそれはないよ愁君!」
こいつはすぐに本気にする奴だ からかいようがある。
「じゃぁ… どれだけきれいに磨けたか勝負だ。神主さんに褒められた方がジュースをおごるってことにしよう。」
「臨むところだよ!」
そんなやりとりをしていると階段の方から当麻がこちらに駆け足で向かってくる。とても青白い顔で だ。
体力に自信がある奴なのにさっきの俺みたいに息切れをしている。なにか変だ。
「どうした当麻、変なもんでも食ったか。」
「はい さっきのお茶が当たったみたいです…。 僕はこのあたりで失敬させていただきますよ。」
その姿はとても苦しそうだった。何か嫌なものでも見たかのような表情だ。
咲が口を開く。
「あらら ランドセル持って行ってしまったねぇー、じゃぁ私をおぶって階段を下りて。」
俺は即座にこう返した。
「却下」
はじめまして。茶太です。
文章力も独創性もまったくない素人ですがこれから自分の作品を作り上げていきたいと思います。良ろしければどうぞ応援してください。