ハーレム男を振るだけの簡単なお仕事 6
青白い顔をしていたレティシアは気丈にも一人で歩きだそうとしたようだった。しかし、一歩目からもうふらつき二歩目にはふらりと揺れた。側に立っていたイルクは彼女を抱えその軽さに眉をひそめる。
道場を運営する家であるせいか彼女も多少は体を鍛えていたはずだ。その分普通のご令嬢よりは重たくてもおかしくない。しかし、今はその普通のご令嬢よりも軽いように思える。
痩せたとは思っていたがここまでとは思っていなかった。
あの婚約が彼女にとって重いものであったことを改めて知るようだった。こんなになってしまう前に誰かに言えば良かったのだ。
あんな浮気者と婚約などしたくないと。
「レティ」
「ん」
レティシアは返事をしようとしていたのだろうが不明瞭だった。そのままくたりと力が抜ける。
「がんばったね」
イルクは小さく声をかける。
それに反応したようにレティシアは微笑んだ。昔に、褒めてくださいますか? と問われたときのように。
あの時に戻れれば、もう二度とこのようなことを許しはしないのにと悔いても遅い。イルクにできるのはこの先を支えることくらいだ。
「……ふむ。これは儂が運ぶので小僧たちはすっこんでろ」
良い笑顔でそう言ったのはレティシアの父だ。イルクに取っては師であり、伯父でもあり、いつか超える壁である。この婚約を後悔しているのは彼女の父とて同様で、次の婚約者へ要求するものが増加していることは想像に難くない。
ひっそり、儂より強くないとダメと事実上もう嫁にやらない宣言をするかもしれないのだ。
「いいえ、ぎっくり腰とか気をつけたほうがいいんじゃないですか」
「なにを。わが娘に不埒な手で触るでない」
「支えることのどこが不埒だと」
「みっともない。ルード、運んで」
にらみ合いに発展したそれを止めたのはレティシアの姉であった。慣れたような振る舞いで自分の婚約者へと命じる。彼は忠実に命令をこなす。
「それではごきげんよう」
はっと我に返ったときには彼女たちは立ち去った後だった。