ハーレム男を振るだけの簡単なお仕事 4
無駄に白い壁に投影すること30分。
最初は何が始まったのかと騒がしかった聴衆だったけど、今は別な意味で騒がしい。
さて、今日の婚約式兼お披露目パーティーはほかのパーティとは違う。婚約を祝って、今後もお付き合いしたいという意向を伝えるような会なので、家の代表が参加するものだ。
年若い娘が家の代表として出るというようなパーティではないのだ。かなり舐められた対応である。まあ、さすがにご令嬢一人の参加は認められず婚約者がいるものは婚約者同伴、もしくは親族のエスコート付きとなっている。
という会場から、泣き崩れるご令嬢と呆然とする婚約者、引いているその他の方々をぼんやりと眺めていた。あたしはと言えば周囲が騒いでいるうちに座り心地のいいソファが運び込まれ、優雅に座ってお茶すら用意されている。
これ、別な意味で今後に影響でまくりになりそう。
婚約破棄の嵐が吹き荒れそうだが、知らない。
婚約者が取り巻きのご令嬢に言われるままにご招待したので自業自得でしょう。レティシアに嘗めた態度取ってるからだ。
なお、アルテイシア様はお一人でのご参加。お付きの人はいるけど、この場ではカウントしないものなので。そちらも青ざめて卒倒しそうな顔してた。
「これはあとどのくらいあるのかな」
さすがに正気を取り戻したのか、婚約者の父親が引きつった顔で尋ねてきた。
これまで披露したもの。
1,アルテイシア様、10歳。婚約者を取られたとレティシアをなじる。そして、この子と仲良くしたらダメと言い放つ。
2,レティシア、10歳。小さな階段から突き落とされる。上からくすくす笑う少女たち。婚約者に訴えるもどうして着地できないのと逆に不思議がられる。
3,レティシア、11歳。子供たちのお茶会で悪意を向けられ悪口と嫌味を言われる。
こんなのまだまだ、序の口だよ?
にこりと笑って返答しなかった。階級的に言えば、礼儀がなっていないがそんなものポイ捨てだ。
「レティシア嬢。お怒りはごもっともだ。我々も反省しよう。まずは、貴方の怪我の手当をしなければ」
中断させて退場してもらいたいらしい。
なお、あたしは一応、手当て済みである。見てたはずだし、今も包帯を巻かれているっていうのに、察しろと言わんばかりの態度は小娘と侮っている。
「兄様が手配いたしましたのでお気遣いなく。義父さま。ああ、もうこうお呼びすることはございませんね」
優雅に微笑んでおこう。許すわけないじゃないですか、もちろん婚約破棄ですよというニュアンスは伝わったかもしれない。なかったことでもみ消そうだなんて許さない。
婚約者の父、表情が引きつっている。気弱そうに見えた娘がいきなりの強気に出るなんて思ってもなかっただろう。
実は座ってるのもちょいときついが、そう言うと強制退場なので黙っている。
幸い神(仮)の修理は効いたようで新たな出血はない。頭痛も収まってきている。多少貧血があるが座っている分には問題なさそうではあるのだけど。
医者を待っているのも本当で従兄が最初の段階で医者を手配している。その上、応急処置もしてくれていた。ほかの誰かに触らせることはしていない。安心安全である。
ただ、頭に包帯を巻かれると重病人のような気がしてくる。他の部分の怪我がなかったのは幸いだった。
本来なら祖父の家のかかりつけの医師がくるのだが、全く別系統の軍医を呼んでいる。
侯爵家とは言え、常駐の医師はいないそうだ。
他の貴族も使っている医者ではなにをされるかわからないからと家の影響が強い軍から呼んでくると判断したと。
この状況から考えるにあり得る話ではある。
既にアルテイシア様のお家である公爵家に知らせは届いているだろう。
その威光は結構侮れない。
「これまでのことは謝罪しよう。先ほどの話は撤回……」
「お断りします。ご存じでしたよね?」
この伯爵様が知らないとは思えない。
これまでのことは隠蔽も完璧にこなすようなものでは決してなかった。初期にあったものは、伯爵家が舞台となったことが多い。
子供の小競り合いとして認識していたにしては、きっちりと治療できるものを用意していたことがおかしい。
いつも綺麗にして返されたから両親もそこまでの事があったとは理解してなかったようだ。楽しくはなさそうなので、行かなくてもよいとは言われていた。しかし、義務と立場を考えてかレティシアは断れなかった。
無言が返事というのは、それなりに誠意があるように思う。
個人間、というものではない、何かの意図があったみたいだ。
それもこれもあの目立つハーレム男に気取られていたからかと思うと自分に失望する。現地情報じゃないとわからなかった。
元々階級社会に生まれついていないから、というのはいい訳かなぁ。いいわけだろうなぁ。
ふがいない私でゴメンよ。レティシア。
今後はもっと考えるよ。
これまでのことはなにかしら後ろに陰謀がありそうな気がする。
アルテイシア様も利用されていたりして。
……まあ、とりあえずはお隣の物騒な気配を消していただきたい。従兄に実はずっと隣に張り付かれている。誰も近づくなよと威嚇するような雰囲気怖い。
レティシアの家族も寄せたくないと言わんばかりでそのちょっとね?
「兄様、大丈夫だから」
甘えるように従兄を上目遣いで見れば、眉を寄せられた。
彼はいつの間にか帯剣し、剣の柄に手は乗っけたままでいる。
宥めるようにその手を軽く撫でた。
ねぇ、レティ、彼では何故ダメだったの?
遠い魂に問いかけてみるも当たり前だが答えはない。
やっぱり、ヤンデレとか監禁とか溺愛とかそんな何かの気配がしたんだろうか。今後、超過保護になるのは目に見えている。
「……これはあとどのくらいあるのだね?」
伯爵に再び聞かれる。
こういうの聞かずに出来れば、どこか遠くに退避していただきたいんですがね。立場的に難しいか。ぴくっと反応している従兄を刺激しないでほしいんだけどな。
でも、まあ聞かれたので答えましょう。
「明日の朝くらいまででしょうか?」
それでもダイジェスト。伯爵は表情を引きつらせたまま、レティシアの家族を見る。
なにかしらの援護を期待したのかもしれないが、それはムリってものだ。黙っているのは呆れているからではない。
レティシアの父親はもちろん、悪鬼羅刹、みたい。可愛がっていた娘ですものねぇ。こんな目にあって黙っていられた日にはそんな顔になりますわねぇ。
ふらっと倒れた母親も復帰後は以下略みたいな感じで般若みたい。美人だから恐い系。
姉は一歩引いて見ているものの口元がにやりとしている。ちょっとすれ違いの多い姉妹でもこれにはお怒りの様子。
正直、本気を出したこの3人でこの場を制圧できると思う。当主である父親はもちろん、母親も姉も強い。父もそうなんだけど、姉なんて後継者だから……。嫋やか淑女な母もあれはあれで。
……実は、レティシアもそこそこ鍛えられていた。ただ、ここ数年は鍛錬も許されてはいなかったけど。
ちなみに母方の祖父は荒事には向かない。体を動かす才能がないと言われたほどの人からなぜ、母が生まれたのか不思議でならない。
この場を貸してくれた祖父は笑顔だが、これは怒り心頭しすぎて笑えてくるたぐい。
これは息子の失態として処分するだけでは済まされないことを理解できるだろう。
彼らが黙っているのは、状況を確認したのち、叩きのめすためであって、傍観しているわけではない。暴れてくれた方がおしまいに出来てましであっただろう。
「例えば、ご子息が私以外のかたと手をつないでお出かけしたり、髪を撫でることもあったとか。これはご自慢されておりましたし」
まあ、あたしもちょっと飽きてきたからさっさと終わらせてもよいんだけど。
ちょっと飛ばすことになるが、15歳、婚約者、自称お友達と仲良くする、の動画も出しておこう。
これはアルテイシア様だな。ランダムに選んだけど、すごいの引いた。
そんな彼女は真っ青を通り越して白い顔だ。誘惑したのは彼女の方としか見えないし、甘えた態度は恋人に対するそれだ。先ほどまでの態度の方がマシという。
ただ、婚約者の態度はどの令嬢に対しても一律であり彼女だけが特別ではないところが泣けてくる。平等に女にだらしない男と言う他ない。
外装が美形で、そこそこの有能さとマメさ、優しさを振りまけば地位もあってお嬢様ホイホイである。断じて、年頃の娘を近づけてはいけない類の男。
もっとも一線を越えるようなことは一切していない。
実のところ人妻も相手にしてたりするのが罪深い。そっちは色々あったようだが今は関係ない。
「バカにされたものですね」
ほんと、こんな男さっさとぽいすれば良かったよ。
レティシア。