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ハーレム男を振るだけの簡単なお仕事 3


 ああ、清々した。

 視界の端でレティシアの母がぱったり倒れたり、あの男の父親が青ざめたりしていたのを見たがそれ以外はため息をついた身内ということが実態を表している。


「レティ、どうして? 君は喜んでいたじゃないか」


 レティシアじゃないあたしは断固として断る。不良債権どころか負の遺産でしかない。


 頑固で生真面目で家族を大切にしていたレティシア。

 婚約を破棄すればみんなが困ると黙っていた彼女。

 なんというかめんどくさい女だろうなぁと思ってはいるが、何をチョイスしてもひどい死に方をしなければならないほどの悪女ではない。


 そもそもそんな男さっさと捨てろと何度夢枕で言いまくったことかっ!

 夢だからってあっさり処理されている日々にどんだけ涙を流しまくったことかっ!

 からの友達になりたいとか泣かせるつもりかと。


 よぉし、あたしが幸せにしてやると決意して幾星霜。未だに叶ってないんだけどね!


 ……まあ、死ぬまででも世界は大変になるけど、死んだ後も大変でね。才能があって磨いちゃったのがいけなかったというか……。

 彼女をなんとかしないと最終的に世界が壊れる。その因子を持って生まれてしまった。

 通常はもっと曖昧で雰囲気的なものが対象らしい。独立運動とか、建国とか、魔物の大量発生とか。そういう規模のものを一人で背負わされているのだから、大変な才能をお持ちです。

 悪用したら半端じゃないくらいのヤツを。無意識でやってもちょっとやめて欲しい感じだったりする。


 だから、この程度じゃ運命は変えられないかもしれない。けどまあ、宣戦布告にはなるんじゃないかな。


 まずは、人生を狂わせる男を捨てることから。


「あなたのような素晴らしい方の隣にはたてません。いつぞや言われましたように取り柄もない、美人でもない、役にも立たない娘には荷が重いのです」


 これには続きがあって、そんな子でも俺は見捨てないし、大事にするからねと言われたわけだが。

 素で、言っているところが恐ろしい。本人的にはプロポーズだそうだ。レティシアが泣いて喜ぶと思ったが、ただ、さようでございますかと返されてしょげていたという。

 当たり前だバカが。


「だから、そんなの気にしなくて良いよ。家のことを何とかしてくれればいいのだし。難しいことじゃないだろ?」


 仮にも歴史ある伯爵家の当主の妻はそれほど気楽な役割ではない。夫人になれば内向きのことを全て采配するのだ。配下はつくとは言え、最終判断は自分で行い、その結果が家の評価に結びつくという。責任重大で難しくない仕事とは言えない。

 それよりも、彼は己の母親の役目を軽んじていることに気がついているのだろうか。


 ちらりと視線を向ければあの男の母親が額に手を当てている。

 育て損なったのはそちらの責任ですからお忘れなく。


「まあ、ディレア様のお役目をそのように言われてはなりませんよ」


 やんわりと嫌味を返しておき、次の段階へとうつる。


「ですが、そのような事も出来ませんので、常々、ワタクシよりも優れていると言われておりましたお友達と婚約なされば問題ないかと思います」


 ぎょっとしたような視線にさらされる取り巻きのお嬢様がた。ええ、常々、言ってましたものね? 自分の方がふさわしいと。

 貴族のご令嬢として、婚約者のある男に言い寄るというのはいささかはしたない。あこがれならば良いのだが、自分が婚約者に成り代わりたいと願うのは問題がありすぎる。


 それらは暴露されるなんて思ってもいなかったのだとしたら、とてもバカにした話だ。


「レティシア様より、ふさわしい方などいらっしゃいませんわ」


 いち早く逃亡をしたのは公爵のご令嬢アルテイシア様。慌てたように距離を離すあたり、動揺しているらしい。

 いつでも優雅で、微笑みを絶やさない様とは違う。

 本気で、婚約から降りるとは思っていなかったのだ。


 レティシアに突っかかってたのは自分が婚約すると思い込んでいた相手を取られた嫌がらせだ。嫌味を言うくらいの可愛い態度ではあったが、彼女が疎んじるということはレティシアの立場が悪化するということだ。


 公爵家に連なる家のご令嬢から冷たくあしらわれたり、嫌味を言われるということになる。まあ、実際はそれ以上のこともあったが、レティシアだからこそ回避していたのであって普通なら何回も死んでいる。

 それさえもわかっていて、ある程度コントロールしていたのだからたちが悪い。


「いいえ、アルテイシア様のような素晴らしい方が、隣に立っていただけるならばワタクシも安心です。婚約者という立場を奪ってしまい申しわけございませんでした」


 きっちり、頭を下げてやったわ。

 青ざめた顔が目に浮かぶようである。

 彼女には家が決めた婚約者がいる。

 現公爵は王弟殿下であるので、王家の血を引く娘が嫁ぐには家格が低いのは気になるところだが。

 今は三人目の婚約者だ。嫁ぐ予定の家で長男、次男と立て続けに亡くなり現在は三男が相手だ。これが破談になると別の相手が名乗り出る可能性は低い。婚約者が二人もなくなるなんて呪われているではと噂されてそれとなく避けられているのだ。


 それでも今までの繰り返しでは婚約者と仲良くやっていくし、不幸なことも起こらない。レティシアへの干渉もこの日を最後にやめようと思っていたはずである。何回繰り返してもその態度は覆らないのだから潔いとも言える。


 しかし、ちゃんと孫の顔まで見て大往生というのが解せぬ。改心した悪役令嬢のごとき更正っぷりに神(仮)に中身が異世界人とか転生かと聞いたが、素のままらしい。

 だから、一回くらい痛い目くらいあっていただきましょう?


「アルテイシアはそれは素晴らしい人だけど、婚約者がいるよ」


「ですが、取られたと何度も言われておりましたし、アルテイシア様のほうが似合っているのにと他の方もいってらっしゃいました」


 これには取り巻きの令嬢もざわついた。それはそうだろう。

 レティシアが、死んだり、自分から婚約者をやめてほとぼりが冷めてからならともかく、このような簒奪が許されるとは彼女たちも思っていない。


 だからこそ、いっそ死んでも良いと思って色々なことをしでかしたのだから。


 レティシアがひっそりと婚約の解消をしていたら、喜んで空いた席の奪い合いをしていただろう。

 しかし、婚約式で、婚約しないと宣言し、他の令嬢に婚約を進めるなど正気ではない。


 それを喜んで受ければ、本人が恥さらしなだけでなく、家さえも笑われ相手にされなくなる。たとえ、それが王家との血縁だとしても。あるいは王家の血を継いでるならなおさら悪手だ。

 どうあってもアルテイシア様は、この男を手に入れることはできない。今生では絶対に。


「少し羨ましかっただけの冗談ですのに」


 アルテイシア様が仰りましたが、扇が震えています。怒っているのか怯えているのか。

 彼女としてはなんとしてもなかったことにして、レティシアを祝福しなければならない。でなければ、不名誉な噂が一生つきまとう。


 今でも結構あやしいとは思うけど、彼女の婚約者は公爵家には逆らえないから。一蓮托生的な。


「ほら、レティは思い込みが激しいなぁ」


 無言で無性に殴りたい。

 この婚約者とかいうバカを殴りたい。


 代わりに、使わずに済めば良かった爆弾を投げることにした。


 残念ながら、レティシアという少女はとてつもなく規格外だったんだ。だぁれも気がつかなかったけど。本人すら気がついていなかった。


 この男に人生を狂わされるレティシアは、この世代で一番の魔女だったのです。


 魔法使いではなく、魔女。畏敬と恐れを込めて呼ばれる称号。

 個人で使う魔法も衰退し、別の形で魔法が使われてきたこの世界で。


 息をするように魔法を使い、新たに構築し、巧妙に世界を軋ませる。

 本物の魔女。


 本人が死んだ後の被害が甚大だった原因だ。

 レティシアが死ぬまでの色々が、一部の例外を除き数カ国くらいの被害だとすれば、死後は世界規模だ。

 魔女と自覚のない彼女の日記や走り書きは大量に残され、管理もされずに離散した。その大変危険なブツをお気軽に試しては、大量殺人が起こり、都市が滅び、毒の荒野が作られましたとさ。


 恐すぎる。


 そんな彼女が日常的に使っている魔法。

 単純に記録魔法と世間では言われている。主に記録を残したい冠婚葬祭で使われたりする便利な魔法である。これは今の時代用に改良されたものだ。

 基本的に編集などは不可能であり、失敗もそのまま残るので、いい思い出になる。普通なら。


 私は胸元からネックレスを取り出す。赤黒い宝石のようなそれは、自らの血から作り出した魔石だ。

 作ったのが怪我して流れる血がもったいないという発想なのだから、その意味では正しく魔女だった。


 こっち方面は箍が外れていたのだから誰かわかりそうなものなんだけど。

 実家は脳筋の巣窟だったので魔女と気がつくのがムリでもさ。

 どこかの欠落くらい、気がついて欲しかった。


「こちらに、証拠が」


 真っ白な壁に衝撃映像流してやろうじゃないの。

 レティシアが、借りた神の目からの世界を。

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