内乱フラグを折るだけの簡単なお仕事 0
それは、ある日、彼が手紙を受け取ったことから始まった。
「契約破棄だと?」
今まで特に問題なく雇用関係があった相手からいきなり言い出したりしたら怒るだろう。
しかも自分よりも相当低いと見積もっていた相手に居室に押し入られば、なおさらだ。
青年はちらっと連れの男を見た。
傭兵団の団長、という肩書きに似合うような厳つさはない。表面上は笑ってご機嫌な顔に見えるが、それは見てくれだけだと知っている。
邪魔するヤツを物理的に黙らせてこの部屋まで来ていた。そうすることが効率的と判断した結果というよりは、八つ当たりだろうと思っている。
彼をこの行動に駆り立てたあの手紙には何が書いてあったのだろうか。
契約を全て打ち切って拠点に戻す、というのは暴挙以外のなにものでもない。違約金を叩きつけてまでのそれは、異常事態だ。
「そうだよ。違約金はこれね、じゃ、ばいばい」
彼は床に袋を放りなげる。ちゃりんと良い音がした。
貴族家の当主相手にこの所業。まさに喧嘩を売っている。それなりに雇用関係を築いていた相手への対応とは思えない。
比較的傭兵としては付き合いやすいほうに分類されていた信用を全力でぶん投げている。
これから先の仕事が少し心配になるが、言って聞くようなら既にここまで来ていない。
当の相手はと言えば、真っ青な顔で絶句している。
「理由は、わかるよね?」
こくこくと肯いているが本当にわかっているのだろうか。
だだ漏れの殺気にやられているだけでは?
「いくよ」
男が部屋を出たので慌ててついて行った。
それにしても殺気がだだ漏れすぎる。皆殺しでもするおつもりで? と思わず聞きたくなった。
貴族家を敵に回しても全然堪えないが、この団長だけは敵に回したくない。
「帰るよ」
この家で雇われていた傭兵を引き連れて外に出る。彼の怒りを感じてか大分大人しくしていた。
「次はどこだっけ?」
鼻歌でも歌い出しそうな声が不穏すぎる。
「我々がやりますので団長は本拠地にお帰りください」
本気で懇願するが、聞き耳を持たない。
「やだよ」
青年の懇願を無視して、全ての家から団員を引き上げさせるまでやめなかった。
その理由を後で聞いて、青年は笑うしかなかった。
なるほど、黙ってやるはずだ、と。
うっかりすると内乱が起こりそうとは、彼女も思ってはいないだろう。




