いのちだいじに。
応接室を出てきたレティシアはひどく落ち込んでいるようだった。イルクはそのあとを追った。部屋には戻らず、庭へ出てきたのは人目が少ないところを選んだからだろう。意外と彼女の部屋は人がいる。
「もーやーだー」
そうつぶやいて彼女は垣根に隠れるようにしゃがんだ。
イルクの前では素の姿を見せることも多いが、今回は取り繕うところもない。見ないでくれといったところだろうが、イルクは役目上そうすることはできない。
「どうしたんです?」
「あのね。あたしの前世、親より早く死んだの。事故でね。
すぐに成仏しないで、自分の死んだあとも見ちゃって。葬式のことを思い出しちゃって。尋問どころじゃなかった。
こんなことじゃダメなんだよぉ」
早口にまくしたてて頭を抱えている。
それどころか、異界の言葉交じりに暗い言葉をこぼしていた。
どう見てもおかしい。
「レティシアで、それをしないでほしい」
「うっ。すみませんでした」
イルクの指摘に素直に反省したようだった。彼を見上げて、手を差し出した。引っ張ってくれと言ったところだろうか。
少し硬くなってきた手は令嬢らしからぬものだが、イルクが良く知っていたものに似てきた。
立ち上がっても彼女はうなだれていた。
「別に死にたくて死んだわけでもないだろう」
「そうだけどね。ローラの親の嘆きようは想像できる。辛い」
憂鬱そうに言う彼女にどういうべきかイルクはわからない。
「だから、下に降りたくなかったんだよ……。もう、レティシアの死ですら、見たくないのに」
ぼそぼそと呟いて。
彼女ははっとしたようにイルクを見た。
「なんです?」
「……なんでもない。ああ、嫌だ。記号のままでいてくれないから」
はぁとため息をついて。
「どうか、命を大事にしてもらいたい。あたしが泣く」
そうイルクに告げる。




