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ハーレム男を振るだけの簡単なお仕事。あるいは、彼女を救い出すための手段を考える一回。  作者: あかね


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謝罪を断るだけの簡単ではないお仕事 3

 善は急げということだったのかはわからないが、祖父に呼び出された二日後には商人がやってきた。

 それは、まあ、良かった。買い物、買い物とうきうきはしていたんだが……。


 それが商人を呼んで買い物といったら、ざっと20畳くらいありそうな部屋に商品が並べられるとか。

 張り付いたような笑顔の商人が、どのようなものをお探しですかとあたしのご機嫌を伺う、とか。

 祖父、最初に好きなように買い物させよと言ってあたしを置き去りにっ!

 とか、は想定していなかった。


 貴族の買い物などわからん。冷や汗をかいてなんとか文房具とか買って終わりにしようとしていたら、勝手に服が買われていた。

 本人は買わぬだろうと祖父が侍女たちに予算を先に伝えていたらしい。そこをもとに白熱したお買い物バトルが。

 ……あたしは終始、観客だった。いやぁ。最近の流行りとかわからないし。この世界的コーデもわからんし。


 レティシアお嬢様には、可憐でいていただかなくては、とか。

 いえいえ、清楚、清楚がウリですのよ、とか。

 可愛いが最強では! とか。


 ……たのしそーだった。あたしも別人として参加したい。なお、妖艶とか元気とかは排除されていたのはそうでしょーねーという感じ。

 そんな経緯を経て購入することになった服は一度、サイズ直しをされて納品されることになった。

 これからの季節に合わせた服も必要とはいえ、一気に20着は買いすぎなのでは……。それにあわせた靴とか、帽子とか、手袋とかその他もろもろもある。総額は知らないが、結構な金額を使ったというのはわかる。

 侯爵家、お金持ち。

 なお、今回宝飾品は見送った。家に使ってないものが色々あるそうで、そちらを手直しして使う予定だとか。


 これでお呼ばれしても大丈夫ですねとほっとしたように言われて、気がつく。

 もしや、嵌められたのでは?

 あたしに夜会やお茶会用の服を買うように言ってもあれこれごねると思われていたのかも。ごねるけど。そういうの行く気ないからと拒否する。

 今、ものすっごい自然にお買い物した。好きな色とか聞かれて普通に答えてた。結果、そこそこ好みのお出かけ服が一杯!


 ……祖父。なかなかやりおる……。


 そんな楽しいお買い物を終えた午後のことだった。

 急に祖父に呼び出された。


 二日前に引き続き、今日も? と首をかしげても仕方ない。なにか不測の事態でも起きたのだろう。ついでに、買い物の件で一言言ってやろうと思っていた。


 そして、たどり着いた応接室でみたものは。


 少年の土下座だった。


「……既視感のあるなんかですが、こちらどなたですか?」


 二回目ともなると冷静になるらしい。

 これの扱いに困った顔の祖父も二回目。内心はドン引きといったところだろうか。


「ルーグ家の長子ロンと名乗った」


「まあ、ローラさんの」


 と言えたのはあたしにしてはマシな反応だったかもしれない。

 少年の前に膝をついて、その姿を観察する。


「姉が、罪を犯したと遺書がありました。

 申し訳ございません」


 少年が怯えたように体を震わせるところがかわいそうに見える。

 かつてはきれいであった服も汚れていた。


「それで?」


「え?」


「謝って、どうするの?」


 絶句する少年にあたしは微笑んだ。

 あたしは放っておこうと思ったんだけどあちらからやってきたなら仕方ない。


「お祖父さま。この子、きれいにしてからお話していいかしら」


「構わぬよ」


 執事に任せて、お風呂でもいれてもらう。

 イルクには一時的に護衛を外れて同行してもらった。

 そうなると室内にはあたしと祖父だけになる。祖父に侍女やメイドなどが付くことはほとんどない。代わりに執事か秘書の人がついている。今は執事がいないから二人だけだというわけだ。


「武装はしておらんぞ」


「そうは言っても針の一つでも傷ついちゃいますからね。毒とか塗ってあったら最悪ですし」


「ふむ。暗殺されると」


「姉が失敗したんだから、やり直しを要求するかもしれません。

 あるいは逆恨み」


 謝罪に来るには彼は汚れすぎている。なにかあった後と考えたほうがしっくりくる。


「馬車に乗ってきたんですか?」


「いや、門番相手に押し問答をしていたそうだ。あの汚れは門番が暴力を振るったからではないぞ」


「そのあたりはわかってます。きちんとした人たちですからね」


 お行儀よくしていないとすぐに失職である。紹介状もなしに外に出されると再就職も難しい世の中なので、調子に乗ってうっかりやると被害が甚大である。


「花は贈ったんですか?」


「色々な兼ね合いで遅くはなったが、先週に贈った。ご両親は、レティシアへの冷遇は知っていたようでその件での許しと思ったようだな。感謝をしていたようだ」


「そういうことになっちゃいましたか。

 そうなるとご両親はあの件はご存じなかった、ということでしょうね」


「そうであろうな。もし知っていれば、そうと知れるほどに取り乱しているであろう。花を届けたものによれば急に娘を失って憔悴しきっていたように見受けられると。

 そう見えるように上手く取り繕えるならば没落寸前までいくものではない」


 貴族としてうまく振舞えないことが、彼らの潔白を証明する。彼らはちょっと裕福な一般人のほうが幸せだっただろう。

 陰謀に巻き込まれて命を落とすこともなかったのだろうから。


「ということは彼の独断、ですかね?」


「そこは聞いてみればよかろう。聞き方もいろいろある」


「穏便にしてくださいね」


「話の内容による。尻尾切りなどさせぬ」


 祖父は軽く言うけど中身は軽くない。

 もし、セグルが関与しているなら捕まえて、贖いをさせる。そういう宣言だ。


 命が惜しければ、黙って静かにしていればよかったのに。やること多くて、見逃すかと断腸の思いだったのに、やってくるなんて。


「少年の口が軽くなりそうな食べ物って何でしょうね? ああ、それから場所も変えましょう」


「儂がえげつないと言うが、御使い殿もやりようが」


「怯えた少年に優しくしようという心優しいあたしになんてことを言うんですか」


 嘘くさいなと自分でも思う。

 優しいを二回も言っているし。


「さて、部屋の用意を誰かに頼まねばな」


 スルーされたよっ!

 そのうえ、そのまま部屋を出ていきそうな勢いだよっ! めんどくせぇなという気持ちが出てる。


「お祖父様、エスコートしてくださいませ。

 歩幅が大きすぎるって怒られたのですけど、男性と歩くなら普通ですよね?」


「いや、もう少しゆっくり歩きなさい」


 優雅さがないとかダメ出しされながら移動することになった。くっ。貴族を50年近くやっている人は違うわ……。

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