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ハーレム男を振るだけの簡単なお仕事。あるいは、彼女を救い出すための手段を考える一回。  作者: あかね


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謝罪を断るだけの簡単ではないお仕事 1

 あたしが婚約破棄、あるいは、婚約式自体をぶっ潰した事件より2ヶ月ほど経った。

 謝罪行列も落ち着き、次のフェーズに移行中の束の間の平和である。次のフェーズであたしがやることはない。

 人というのは叩いてよい理由を提示すると叩く、ということがある、らしい。悪意ではなく、善意で、という怖いことがあるらしい。悪人にはひどいことしてもいいじゃない? みたいな。ということの延長線上で、件のご令嬢たちがこそこそひそひそやられている。

 そのご令嬢同士が団結すれば身を守れそうだが、そこは、ああやってまた誰かを狙ってるんですわとか言われて、難しいそうだ。これ以上の汚名はやめてくれと親にも言われているだろうから。

 闇ですな……。


 その闇から遠く離れて、詰め込み勉強中のあたし。最近乗馬も始めたよ。馬にビビられて乗れる馬をさがしているところなんだけどね。

 魂が異質でそこに気がつくんじゃないかと姉の婚約者が言ってた。あの人、今、侯爵邸にやってきてる。姉の代理であちこち繋ぎを取るためと婚姻を早める許可を求めにきたそうな。

 婿ではなく、共同統治者としての婚姻になるそうな。


 どうも当主様ことレティシア父がダメダメすぎて、見切りをつけたらしい。隠居していただきます。あとはご自由にどうぞ、ということらしい。

 野放しも怖いのでは?


 ……ほんと、なんか、イルクが癒し枠だ。あの人も中々抱えているが、表に出してこないので甘えている。存分に甘えるとレティシアに悪いのでほどほどにしておくけど。


 さて、そんな中でアルテイシア様が婚姻前に婚約者の家に住むことになったそうだ。隠されてもいないので、あっさり手に入る情報。むしろ、隠さないほうが不審と祖父は警戒しているそうだ。

 変な気を起こすやつらが出かねないとこっそり侯爵家の私兵を周囲につかせているそうだ。そうさせるのも中々苦労したそうだ。


 うちのお嬢様にひどいことした女を守れとかふざけんな、であるらしい。

 まあ、そうだよねぇと思うが、さらにつけ入る隙を与えると説得したそうだ。


 とりあえずは、あと一か月ほど暇となる予定だったんだ。

 さっきまでは。


「至急おいでください」


 執事からそう呼び出されたのは、部屋で書き物をしている時だった。読めて喋れるけど、書くのはできないんだ。地味に不便なのでこっそり練習している。なんかアルファベットに似てるのでなんとなくは理解してきたような気がする。

 のんびりと片付けをしようとしたら、あとでやっておきますのでと急かされる。

 常にないことに嫌な予感しかしないのだけど。


 急いで移動し、応接室に入った途端に土下座されるってどういう事だろうか?


「え、ええと?」


 これ、どういうこと?

 と祖父に目線で尋ねるも目線を逸らされた。

 そもそもこの人、誰?


「この件で、この方向からくるとは思っていなかった」


 ……え。


「ウィルフ家のキリルと申します」


 やだー、アルテイシア様の婚約者様じゃないですか。

 え? なんで?


「あの、頭をあげてください?」


 この対応でいいのか全く分からない。

 というか、いきなりの土下座ってびびる。え、理由わかんない。

 祖父もなんか言い難そうで彼を見ている。


 この人は確か、軍にいたが上の兄たちが亡くなり、後継者となったはずだ。婚約者もそのまま引き継がれている。その程度しか知らない。ほとんどレティシアにかかわることがないのだ。


 穏やかで優しい男性ではある。アルテイシア様もなんか絆されて、後年は仲良くされているようですしぃ?

 ……うっかり、おまえらは幸せいいよなぁという僻みが。

 レティシア、大変なんだけどぉ? と幸せぶち壊しに行きたくなったことは数えきれず。止められたけどね。あまり関係ない波風立てると時間を戻すときに大変らしい。

 嫌がらせの悪夢とかもなんかいちゃいちゃポイントに変わって無になってからは見ないようにしている。


 だから、彼がここに来るのは予想外もいいところだ。溺愛、なのでは? 俺が守ってやるとかそう言う方面で行くと思ったんだけど?


「この首一つで許してもらえるとは思ってはいませんが、我が家の誠意として受け取ってていただきたい」


 ……なに言ってんの?

 思わず祖父を見れば絶句している。


「……お話を伺いましょう」


 深呼吸をするとなにもなかったようにスルーすることにした。

 あの人を絶句させるとは中々できることではない。いや、時々見るな。それをさせるのは大体あたし。もちろん、そのあとのお小言もセットだ。


 あたしは全くわからないが、知らない間に何かが起こったということだ。これまでの繰り返しでは起こらなかった何か。あとで、神(仮)に文句をつけてやろう。アフターフォローが良くない。


「厚かましいお願いと思いますが、我が家に護衛を回していただけないでしょうか」


「制限はお願いしてませんよね?」


「それは自由契約の範囲だ。侯爵家だろうが、言うと反発するであろうと放っておいたが……」


「それ、ですね……」


 護衛の契約は個人の場合も集団の場合もある。

 そこそこ大きい家になると5~6人まとまった集団を雇うことが多い。必要なら、数人、あるいはもうひとグループ買い足すみたいな感じで使いやすいらしい。

 その集団がさらに集まったのが傭兵団と呼ばれる組織。主に依頼に対して、適任なものを紹介派遣するという感じだそうだ。気に入れば引き抜きも可らしい。

 さて、この組織、意外と名誉を重んじる。信用がなければ、依頼に結びつかないというところがあるらしい。


 この傭兵団。レティシアの実家の門下生もやっている。

 つまりは、アルテイシア様なんて守るなんてとんでもない、と契約を切ることになった。それだけならまだ他に依頼できそうなものだが、同業者たちも同調したんだろう。

 理由はたぶん、うちと揉めたくない、だろう。揉めてまで得られるものがない、ということもありそうだ。


「残すわけにもいかぬが、思ったより早く消えたな……」


「契約を切られたのは一月前です。

 その後、どこのものともつながりは得られませんでした」


 でしょうね……。

 心労が滲むキリルに少々同情する。婚約破棄出来ればよいのだが、彼にはできない。王弟の娘という立場はやはり強い。同格の家ならば、あるいは、といったところだ。


 いや、でもな。アルテイシアのためという線もなくはないか。そうなると微妙に嫌。


「一人でも構いません。どうか」


 そう言って頭を下げられても、あたしからはできることはない。

 一応、貴族としては護衛の一人もいないというのはダメっぽいから面目を保つには必要なんだろうけど。

 祖父はため息をついた。


「我が家からも出すわけにはいかぬ。

 あの方を許したように見えてしまうのでな。だが、まあ、伝手はなくもない。打診しておこう」


「ありがとうございます」


「受けるとは限らぬし、ガラも悪いと思うがいないよりましであろう。

 監視もいるしな」


 ぼそりと言ったそっちが本命ではないですかね?

 大手を振って監視役投入できる。


「さて、首をと言っていたが、それは役に立たぬのでいらぬ。

 レティシアも困るであろう?」


「はい」


 もらっても困る。スプラッタ反対。直接関係のない人でもあるし。

 ……まあ、これから、穏やかな新婚生活を送るのはもやっとするが。このルートだとどうなるかわからないから波乱がまっているかもしれないけど。


「では、どのように贖えば」


「いりません。

 あなたがしたことではありませんので」


 謝罪ごとお断りである。

 尽くされても困る。一人でも手に余ると言うのに。

 そんなあたしに祖父は苦笑していた。


「婚約はどうするつもりだ?」


「弟に譲ることになりました」


「それはよかった。では、我が家に逗留したまえ。名誉だのなんだのいう気はあるまい?」


「どうぞ、ご自由にお使いください」


「客室に案内させよう」


 そう言うと祖父はさっさとキリルを部屋から追い出した。

 執事が心得たように外で待っていたので最初からそのつもりだったのかもしれない。


「逗留させるのはなぜですか?」


「少し間をおいて、あの方が嫁ぎ先についたあとに、彼の所在を明らかにするつもりだ」


「なぜです?」


「婚約の変更などの手続きがすべて済んだ後でなければ都合が悪い。

 逃げることも言いがかりをつけられることもないときに、彼は婚約者が嫌になって我が家にきたということにする」


 ……。

 えげつな。


 新聞とか、婚約者さえもレティシアを選んだとか煽り文つけそう。

 そして、魔性の女、レティシア爆誕。


 あたしに魔性ななんかはないので、やめていただきたいものだ。


「婚約者を奪われる苦痛くらい受けてもらってもかまぬだろう。結婚できぬわけではないのだ」


 あたしはコメントは差し控えた。

 そっちの発想はなかったなぁと遠い目をしたくらいだ。


「それより気になるのは、護衛がない、ということだ。公爵家から誰も出さぬというのもおかしな話だ。あそこは子飼いの護衛がいるはずだ。たまに外から雇ったりもするが、近くに寄せるのは自分の家で養成したもののみ。

 まるで、わざと、無防備に外に出すようだ」


「露骨に罠っぽいと」


「死んでくれたら、良いのにな、くらいの雰囲気がある」


「愛娘、ってはなしですよね?」


「そう思っていた」


 言われてみれば、あの婚約式の日以降のアルテイシアは平和に暮らしていた。慎ましやかな幸せがあって。

 でも、それは貴族のご令嬢として、伯爵夫人としてみた場合にはどうなのだろう。

 華やかな場に出されることもなく、社交界を仕切るでもなく。ただ、穏やかに暮らす。それは幸せであるが。


 貴族の令嬢としては、打ち捨てられたように見えるのではないだろうか。


 公爵家の闇が、深いんですけど……。

 思ったよりすっごい何かが残ってそう。レティシアが我慢しているうちには出てこなかったなにか。


 深堀したくないけど、頑張って掘ってこよう。次のための労力大事。



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