ざまぁを計画するだけの簡単なお仕事 5
「ん?」
イルクは誰か来ると何となく気がついていたが、彼女だとは思っていなかった。
おずおずと扉の影から姿を見せる。
なにかの小動物のようだった。
レティシアと似て非なる彼女は未だに名前が未定だ。愛称で呼ぶことも抵抗があるが、新しく名付けるわけにもいかない。
便宜上、従妹殿などと言っているが違和感を覚える。
「教官、姫様ですよね」
「そうだな」
気がつけば誰も彼もが彼女に注目していた。
彼女本人はよもや自分が姫などと呼ばれているとは思っていない。ましてやかなり本気の忠誠を捧げられているとも。
他家に嫁ぐとずいぶん前からわかっていた。
好意を見せることは彼女の傷になると静観していたことが悪かったのだと目が覚める思いだった。
などと言っていた者の多いこと。
それは憧れから手の届く人になったと気がついたことにほかならない。
レティシアの中に今いる者はそれにも気がついているようだった。レティもてもてなどと言っているところが微妙な気持ちになったが。
びくびくしながら中に入ってくるところ見るとこの雰囲気に慣れていないようだった。無理してこなくてもよいのにと声をかければ一番びくっとされた。
お小言でも貰うとでも思ったのか彼女は手に持ったバスケットを差し出した。まるで、盾になるとでも思っているみたいに。
「よろしければ、差し入れをと思いまして。休憩も必要ですよ?」
そんな事に来たと。
イルクは頭が痛い。
何の打算もなく見上げてくる彼女はレティシアそのもののようだ。その魂が違うと言われても戻ってきていないかと期待している。
あり得ないと知っていてもなお。
「……わかった。ありがとう」
その返答に満足したようにバスケットを渡し、手を振って去る。
「休憩だ」
せっかくの差し入れなのだから、無駄にすることもないだろう。




