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ざまぁを計画するだけの簡単なお仕事 4

 厨房に顔を出せば夕食の仕込前の休憩中で大変恐縮させてしまった。侍女とかメイドさんとかに頼めば良かった。

 こんなうっかりはレティシアならしない。ただ、私はこの世界の常識を教育されていないのでしてしまう。

 ……レティの評判が落ちるとちょっと落ち込む。


 気を取り直して軽食をバスケットに詰めて貰い訓練場へ向かう。

 侯爵邸はそれなりに大きい。地下一階、地上三階、表の庭と裏庭。菜園あり。それから馬も飼っている。以前は犬を飼っていたそうだが、今は領地のほうで暮らしているらしい。可愛いのかと思えば番犬兼狩猟犬と言われた。怖いやつだった。

 猫もいるらしいが、それは食糧庫での番人らしいので遊んでくれそうにない。


 遊んでいる暇があるのかというとないのだけど、癒しはいる。馬は、なんか、でかってなってびびったのとそのうち乗馬と言われているので今は遠慮したい。

 社交として狩猟がまだ残っているそうだ。王家主催のものが年に一回。今年は呼ばれるのは確実と必須科目に追加されておりましてよ。

 ……お嬢様ってこんな過酷なの? うふふふと笑ってお茶するお仕事じゃないの?

 いや、あれもマナーがなってないとダメなやつ。


 真面目にしよ。後々役に立つと思うし。


 裏庭というには大きな場所の一角に訓練場はあった。

 ここ侯爵家の護衛というのは、私兵として扱われている。ただ、事が起こった場合、そのまま軍に貸しだされる。そのため、各家である程度は雇っているそうだ。貴族としての見栄の部分でもあるらしい。

 これは軍の常備戦力が肥大化することを防ぐ目的が一つ。もう一つは、大きな貴族家に金を使わせるという目的もある、らしい。私兵というのは金がかかる。常にいても役に立つことは少ない。しかし、見栄えや実力のあるものを雇うにはそれなりの条件の提示が必須となる。

 良い護衛を雇えないというのは、ちょっとねぇ?と言われる世界がそこにはあるそうな……。


 幸いというべきか侯爵家はかなり充実している。レティシアの実家の影響だそうだ。一定以上の実力者がやってきては数か月~二年ほどで去っていくらしい。居心地が悪くて居つかないというより、居心地が良すぎるから後輩に席を譲る的な意味合いがあったりするそうな。

 彼らにしてみれば、衣食住提供されて訓練して、時々の外出に付き合えばよいという楽園だそうだ。ついでに執事からメイドさんまで、粗暴にしているとビシバシと指摘するらしくお行儀がよくなる特典付き。

 そりゃあ、人気の勤め先にもなるだろう。


 訓練場は土台が石造りで上部は木造の建物だ。開け放たれた窓と扉から声が聞こえてくる。そのざわめきがぴたりと止まり疑問に思いつつひっそりと扉から覗いたつもりだったんだけど。


「おぅふ」


 一斉にこっちを見てびびる。

 まあ、それなりに武芸やってれば気配に敏感になるよね。こちとら素人だし。ちょっと固まったあたしを見てイルクは眉間にしわを寄せてやってくる。


「用があれば呼んで欲しい」


 ……それはこっちくんなってことかね? 従兄殿。


「よろしければ、差し入れをと思いまして。休憩も必要ですよ?」


 全スルーして笑顔でバスケットを差し出す。今日は十人もいない。これくらいあればちょっと休めるだろう。

 本気出せばひとり分にも満たないだろうけど、もてる限界がある。

 なぜか無言で見つめ合うことになった。


「……わかった。ありがとう」


「どういたしまして」


 邪魔をする気はなかったのでそれだけで立ち去ったのだけど。

 軽い気持ちで行ったそれは鬼教官の効果もあって天使のように見えたそうで、ダメもとで申し込まれた婚約の話が増えた。

 ……皆、バカか。


 レティシアよ、君は、アイドル並に愛されている。

 本当に、マジで、内乱を起こせる潜在戦力がある。

 ああ、こりゃ、死んだらヤバイと思わせる何かだ。

 一歩間違うと狂信的なんかに化けそうな雰囲気さえする。

 え、もしかして、レティシアが泣けなくて、弱音も吐けないのってコレのせいもあるの? と疑うレベル。


 ある種、愛されすぎて辛い。


 ああ、そう言えば、イルクがイヤな顔で同じくらいの年代の奴らは大体、姉妹のどちらかが初恋なのだと言ってたっけ。山のような婚約の話をみながら。

 自分が弱いときに励ましてくれた、というありきたりな話が多い、らしい。それで実力者になるのだから中々効果が高い。


 故に、元婚約者の人気は最低。レティシアの死後は私兵を雇うのも苦労するくらいに。戦力が充実していたのは、彼女のおかげである。忠誠を捧げた相手がいなくなれば、それも原因に優しくするわけもない。

 それでも殺さないのは優しさじゃない。


 傷を忘れないため。


 誰もが、失って、気がつく。


 手をさしのべる機会があったこと。

 それらを見ない振りをしたこと。

 ためらったこと。


 そして、彼女が誰も頼らなかったこと。


 呪詛をもって死した時も。

 事故に巻き込まれた時も。

 ただ、黙って死んだ時も。

 正気を失ったときも。


 誰の名も呼ばない。


 ただ、彼女は孤独だった。


 あたしはそれをみていたに過ぎない。何が起こるか知っていながら、その夢で暗示的な事を告げることはしたが、結局、頼られはしなかった。

 ただ、一つだけ。


 友達になって欲しいと。

 願われたことは、特別であったと思ってもいいかもしれない。


 友達にはなれないけれど、側にいると告げたときの顔は幸せそうで。

 あたしがレティシアを幸せにするんだからっ! と意気込んだものだ。


 結果、ここにあたしがいるわけだけど。


 無念である。

 束の間の休暇を彼女が楽しんでくれていると嬉しい。神(仮)は悪いやつじゃないよ。たぶん。無限ループさせている張本人だけど……。


 今後の対策のために頑張るしかない。

 レティシア、がんばるからねっ!


 ふんすっと気合いを入れていたのが見とがめられて、後ほどじいさまに小言を食らうことになるとはそのときのあたしは思ってなかった。


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