ざまぁを計画するだけの簡単なお仕事 2
「お疲れ様です」
疲れたような様子の祖父に声をかけておく。
いたわって好感度を上げて、今後の待遇改善を求めたい。
好意とわかっていてもびしばしと教育されまくりの日々はツライのです。現在、後継者にでもするような知識を叩き込まれているらしい。気がついたのは、イルクが怪訝そうな顔でそんなことまでするのかと聞いてくれたからだ。
イルクは四番目ということで、兄がそういった話をしているのを聞いたことがある程度だったらしい。でも、イルクのほうが覚えていたそうな……。教師からの試験の時にこっそり教える代わりにおやつをもらっていたそうだ。で、バレて、こっぴどく説教されたらしい。
二日ほど夕食抜きになり、かわいそうと思ったレティシアがこっそりパンとかを差し入れしたそうな。甘酸っぱいなんかがあふれている。
……。それはさておき、そこまでのすっごい教育は追々にしてほしい。勉強に加えて、体力を取り戻すためとイルクに指南してもらっているからだ。素振りだの走り込みだのご令嬢になってするものとは思わなかった。
身体能力はそこそこあると言われたレティシア。どんくさかった生前のあたしとは比べ物にならない感じだった。こ、この身体能力があればトラックくらい逃げられたのでは?と夢想しても意味はない。
どんくさいのに体を張ったのが問題である。
「大人しく黙っているのはいいが、表情が隠せていない」
「場数が足りないので、時間が解決する見込みです」
こちとら前世は一般市民の女子高生でして。神の領域で何千と年月だけは経過していても経験は足りていない。
妙な達観だけはしている気はするけど。
「そうだと良いが。
次はもう少し後だ。呼ぶまで部屋に戻ってもよいぞ」
「一つ聞いておきたいことがあります」
「なにかな」
「アルテイシア様は、どうされるおつもりですか?」
公爵家の娘、それも現王の姪である彼女を罪に問うのは難しい。そもそも階級に差があるといびり倒したところで、あら、あなたが悪いんじゃなくて? と言いだしかねない世界である。彼女が公式の謝罪というのは立場的にできないだろうとあたしもわかってきた。
アルテイシアが詫びぬ代わりの婚約そのものの消滅を認めたと見るほうが良さそうで。
婚約していないことになっていたのだから、婚約者があるものに言い寄っていたということも併せてなかったことにしている。
元婚約者とは度の過ぎた友人関係で押し通すつもりだろう。レティシアに謝罪するようなことはないと。
幼く分別のつかない頃のこと。水に流せと言われてもおかしくはない。
問題は。
レティシアの親族は、誰もそんな話を認めないということだ。
国内、荒れないと思うほうが甘い。
そして、その甘い見通しで行けちゃうと思ってるか、荒れてもよいと思っているかはわからない。
「なにもせぬよ。本人にも公爵家にも謝罪も資料も送っていない」
「なぜですか?」
意外過ぎる言葉にあたしが驚くと祖父は嗤った。
「本人にはせぬが、周囲には厳しく謝罪と補填を要求をしている。
そうなるとどうなるか、わかるか?」
「え。ええと。
なんで、彼女だけ無傷なのかと思う、かな?」
ちらほら聞くところによると婚約破棄されたとか、仕事を解雇されたとかあったらしい。それで苦情もやってきたらしい。自業自得では?とあたしも祖父もとりあうこともなかった。冤罪じゃなくて、物的証拠があがってるので。
という阿鼻叫喚をよそに公爵家はなにもお咎めなしというのは、いかにも不審だ。
「そうだ。これから、公爵家には何も言えない等の噂を流す。
これで見方が分かれるだろう。
一つは侯爵家も王家には文句を言えなかった。強いものには弱腰であると。
もう一つは、公爵家は黙って見捨てた。関わりもなかったことと守ってもくれないと」
「見捨てた、になります?」
「今まで散々使って、このような事態に守ってくれない相手に不審は抱くだろう。少なくともご令嬢たちとは縁は切れる。表立ってはなにもないように見えるが今後一切信用されぬと思ったほうがよかろう」
しばらくはボッチ生活確定。それも、知人友人皆縁切りされての、である。
人によっては人間不信になりそうではある。同情しないが。
むしろ、嫁ぎ先が不憫まである。長男次男いなくなってさらにわけあり公爵家ご令嬢が嫁いでくる。王様の親族なので粗雑に扱うわけにもいかないが、社交では当てにならず。むしろ不利益だけど、婚約していたし、普通なら公爵家のご令嬢が嫁ぐような家でもないらしいし、断りとか無理だろうな。
まあ、頑張れと記憶に残っている好青年を応援しておく。
「派閥替えまでいくかはわからないが、今まで通りとはいかぬ。
言葉にはせぬが、陛下がもっと早く介入されていればと思っていそうでもある」
「……あの、思わせている、じゃないですよね?」
「まさか、そんな不敬なことせぬよ」
……なんか、ぞわってした。鳥肌がっ!
この辺りつつくのやめよ。言い方が変だなと思って聞いたのが間違いだった。
この話題は一回切ろう。他にも聞きたかったことあったんだ。
まあ、これは聞かなきゃいけないけど聞きたくないこと。覚悟を決めるのに一か月もかかってそれでもまだ、気持ちが定まっていない。
「……あの。もう一ついいですか?」
「休む時間がなくなるぞ」
「よくはないですが、一つだけ」
視線で先を促された。それでも少し迷って、間があったが急かされることはなかった。
いっそ、問い詰められたいがそれもレティシアに悪いだろう。
「あの日、レティシアを殺そうとした人は見つかりましたか?」




