ご令嬢のふりをするだけの簡単ではないお仕事 0
ねえ、お祖父さま、お友達になりたい子がいるの。
夢の中でしか会えないけど。
一緒に、遊んで、お話してくれるの。
この間はお茶会をしたのよ。楽しかった。
あれは寂しかったあの子が作り出した幻の友達だと思っていた。
緊張した面持ちで、ぴしっと背をのばし座っている少女は、孫とは似ていなかった。姿は同じでも魂が違う。纏う雰囲気が変わってしまった。
元は普通の少女なのだろう。貴族のご令嬢としては落第しそうだ。
レティシアの家族は既に去って数日が経っている。未だ体力の戻らない彼女はここで療養ということになっていた。
実態は養子縁組のための下準備のために残った。
ここ数日は忙しく、顔も見ていなかったがようやく時間を作っての面会となった。
私室として振られた部屋では支障があると応接室での対面となる。
入室したときは少々慌てていた彼女も今は澄ました顔で、香草茶を含む。
すぐに顔をしかめた。
うへぇと言いそうな顔だが、まずいとは言わなかった。
苦甘い香草茶は体力回復の効果があるという伝承がある。ようするに民間療法だ。彼女がしばらく休養すると伝えれば、なぜか厨房が張り切り体によいもの尽くしで攻めてくる。
自分の分だけが普通の飲み物なのは少し後ろめたいが、あればかりは勘弁して欲しい。
「お祖父さま、とお呼びしても?」
「構わない。どうお呼びすればよいのかな」
「本来の名前を呼んではいけない決まりなので、そちらでご相談ください」
あまり呼び名には興味がないようで、言いながらテーブルに並ぶ菓子類に手を伸ばそうか迷いが見える。
行儀が良くない、というよりは誰かといることにあまり注意が及んでいない気がする。
ヒトならざるモノ。
「外ではレティシアと」
「わかりました。でも、ちゃんと区別してくださいね?」
きっちりと釘を刺される。本来は逆ではないかと思う。
レティシアの振りをずっとしていた方が、もっと良かったのではないだろうか。このように正直に話したことにより、家族からは距離を置かれることになった。
それに特に傷ついたようにも見えず、ひどく醒めた目で見ていた。
「知らない人には頑張ってそれらしくしますけど、特定の人を付けるのはやめてください。あたしはこんななんで、すぐおかしいって思われるのがオチです」
「承知した」
その答えにほっとしたふにゃりと笑った。孫がしたことがない笑い方に衝撃を受けた。
無邪気とさえ言って良い表情を幼いときにすら見たことがなかった。
「あなたにとってレティシアはどのような存在なのですか」
秘密ですよ、と前置きしての返答は、想定を越えるモノで。
彼女をようやく認める気になったのも確かだ。
孫の気持ちは一方通行ではなかったらしい。それがとても嬉しいことに思えた。