大事な君の
元婚約者の話なので、読み飛ばしても大丈夫です。
本文は反省せずにだめな方に進化しちゃった、な感じです。
元気で良く笑う少女だった。
彼の記憶に残る少女はいつだって微笑んでいた。
婚約者から拒絶されるとは一度も思ったことがなかった。漠然と好かれていると思っていたのだ。
彼を嫌う女性はほとんどいない。
嫌うものには徹底的に避けられていただけだったのだが、彼が気がつくことはなかった。
常に誰か友人がいた。
ハーレムみたいと揶揄されても何のことかさっぱりわからなかった。友人の域を超えることも二人きりになることもない。
特別な贈り物もしたことすらない。
憤慨してそう訴えれば奇妙な生き物を見るような目で見られることもあった。
「婚約者はどう言っている?」
そうよく言われた。
「友好関係に口出しはしないと」
いつものように微笑んで。
婚約者を大事にしろと言われても、既に大事にしている。
家格が釣り合わないけれど、政略上大事なことだと言われていた。そんなことを抜きにして、彼女には好意を持っていたんだから。
出来ないことが多くても。
美人とは言えなくても。
無駄な努力をしていても。
うっかりな怪我が多くても。
それでも良いと思ったくらいだから。
彼の友人たちとは仲良くしているようで、良く一緒にいる姿を見た。
そんなことに安心していた。
婚約式は滞りなく終わり、その先も一緒だと。
「私はあなたとは絶対に婚約も結婚もいたしません」
ちょっと姿が見えなかった彼女は戻って来るなりそう宣言した。
控えめな微笑みではなく、笑顔で。
意味を理解出来なかった。
結婚出来ることを喜んでいたのではかったのか?
あれは嘘だったのか。
「レティ、どうして? 君は喜んでいたじゃないか」
「あなたのような素晴らしい方の隣にはたてません。いつぞや言われましたように取り柄もない、美人でもない、役にも立たない娘には荷が重いのです」
それでも良いと言ってあげたじゃないか。
まだ、足りなかったのだろうか。
レティはアルテイシアへ視線を向ければ目を細めた。またつまらない言いがかりをつけるつもりだろうか。
嫉妬も可愛いものだとおもっていたけれど、これはちゃんと話しておかなければ。
「だから、そんなの気にしなくて良いよ。家のことを何とかしてくれればいいのだし。難しいことじゃないだろ?」
家のことは全て使用人がやることで、着飾って微笑む程度できるでしょう? ここまで譲歩しているのになにが気に入らないのかわからない。
「そのような事も出来ませんので、常々、ワタクシよりも優れていると言われておりましたお友達と婚約なされば問題ないかと思います」
「レティシア様より、ふさわしい方などいらっしゃいませんわ」
アルテイシアはそれは承知しているはずだ。ただの友人でしかない。彼女にはちゃんとした婚約者がいる。
疑われるようなことをしたことはない。
「いいえ、アルテイシア様のような素晴らしい方が、隣に立っていただけるならばワタクシも安心です。婚約者というような立場を奪ってしまい申しわけございませんでした」
「アルテイシアはそれは素晴らしい人だけど、婚約者がいるよ」
「ですが、取られたと何度も言われておりましたし、アルテイシア様のほうが似合っているのにと他の方もいってらっしゃいました」
レティシアは悲しげに顔を伏せた。
そんな話冗談じゃないか。
慰めの言葉よりも先に、それは公開された。
「こちらに、証拠が」
世界が、反転したようだった。
愉快そうに、レティシアは笑う。
隣の男に甘えるように、何事かを囁く。彼が顔をしかめていたから良くないことだったんだろう。
そこは、自分がいる場所だった。
全ての問題を片付ければ、戻れるはずの場所。
「ねぇ。これでも、レティのことは大事に思っていたんだよ。傷つけて良いと誰が言ったの?」
全部、謝らせたら戻ってくれるよね?