家族会議を仕切るだけの簡単なお仕事 3
「あなたがどう見ていたかは知りませんが、彼女が、大事じゃなかったわけではありません」
知ってる。
こうなっては誰もレティシアを放っておいてはくれないだろう。例え、中身が違っていても。
私に出来ることと言えば、迂闊に死なないことくらいだ。それと今まで作った魔法にプロテクトを必死でかけていく作業が待っている。
ああ、あの凄惨かつ効率的な殺せる魔法たちをどうすれば解読されないように封印出来るか考えるのか。
どんよりしてきた。
そもそも領地の私室に日記としてあるそれらをどう入手するのか。
「どうぞ」
再び扉が叩かれ、礼儀として、あたしが入室を許可する。
「レティ」
両親と祖父、それから従兄と姉。必要な人数はそろっていると言って良い。
心配そうな母親に神妙な顔を向けることから始める。
せめてベッドから出て行きたいところではあるけど、身体的にムリ。
「申しわけございません。私はレティシアではないのです」
そう言って頭を下げる。貴方の娘はある意味、死んでしまったのです。私がここにいることはそう言うことにしかならないから。
絶句している雰囲気だけは伝わってくる。
とりあえず頭を上げて、先ほども姉にした説明を繰り返す。親族としてはやりきれない何か、ではあるとは思うけど。
神の意向なんて胡散臭いわ。
でも、姉の婚約者はそれを保証してくれる。残念ながら。
「今後どうされるので」
「許されるのであれば、レティシアのふりをしつつ未来の終焉を回避したいと思っています」
まあ、長生きして真っ当に生きてりゃ回避できるんじゃないか、とも思うのだけど。
何とも言い難い表情で黙りを決め込まれるのですよね。当たり前と言えば当たり前。気持ち悪いよね。同じ姿でありながら別人が、娘の振りするのって。
そして、本来の娘は、もういない。帰ってくるかさえもわからないのだ。
おまえのせいでと言われないだけましと思えばいいだろうか。言われたら同じように言い返すけどね。
「我が家の養女に入られてはいかがかな」
祖父の発言はほぼ予想通りだった。それほど近い家族ではなかったのだから、まだ我慢してくれるだろう。
それに、婚約式での一件のこともある。公爵家に喧嘩を売ったとも言えるのだから、男爵家で保護されても太刀打ちできない。
あたしを渡しはしないけど、それが結果的に武力で抵抗になりかねない。
その気はなくとも、相手の公爵様は王弟殿下である。王族に歯向かったと一気に内乱である。
イヤ過ぎる。
「直系の孫として扱われるのでしょうか」
「息子の意見も聞きはしますが、おそらくはそうなるでしょう」
「家のために何かすることは出来ません。あらかじめご了承いただけるのでしたら」
最初に牽制しておくことも忘れない。無駄に時間をリピートしているだけで、成長しているわけではないのでやり手そうな人の相手がちゃんとできる気がしない。そもそも人と話すのも久しぶり過ぎて、上手くやっていけるかわからない。婚約破棄についてはみっちり練習したのでそれなりにやれたけどさ日常会話はな……。神(仮)とずっと一緒で人とコミュニケーション取ってたわけじゃないから。
神(仮)との対話も口がなかったので思考上のやりとりだから色々筒抜けだったし。魂状態というのはちょっと不便だった。
どうでも良いことをぎゃーぎゃー言い合ったなぁ……。
まあ、アレも理解しやすいように薄められた神の一部ってことだけど、それでも人を完全に理解できるほどではなかった。
「少々の事後処理は手伝っていただきたい。そうでなければ自由に振る舞うことは出来ないでしょう」
「わかりました」
それは許容範囲内だ。
ただで養ってもらった方があとが恐い。なにせ、ただの、生身の女である。
神(仮)もチートでもなんでも付けてくれれば良いのに、全く何も持ってない。繰り返したおかげで覚えている今後の歴史の流れなんて、行動すれば変わってくる。
レティシアが持っていた基本スペックでどこまでやれるんだろうか……。
残念ながら、レティシアほどの賢さは持ち合わせておりませんので、呪式を理解することもできない可能性が。
「それでよろしいかな」
両親は納得がいかない顔をしている。
存在していた娘がいないと言われてすぐに納得できるわけがない。祖父の切り替えが早すぎる。
じっと見ていれば、祖父が苦く笑う。
「レティシアは、こんな事を起こす子ではなかった」
まあ、確かにそうだ。
今までずっとそうだったのだから、間違いない。これから先はそうであって欲しくないけど。
わがまま言って周囲を振り回しても許されるのだと少しは知ってほしい。やりすぎはダメだけどね。
少しだけ、眠くなってきた。
「個別のお話は後でお聞きします。呼びつけておいてこのようなことを言う無礼を許して欲しいのですが、少し、休ませて貰っても良いでしょうか」
死にかけた体に定着していない魂。
満身創痍だ。
「おやすみなさい」
母が手を握り、そっと宥めるように頭を撫でてくれる。
体からふっと力が抜けたのがわかった。
その手をこの体は覚えている。
そのことが少し嬉しかった。