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家族会議を仕切るだけの簡単なお仕事 2


「我らが妹殿は一体どのような、先を辿るのでしょうか」


 姉を前には聞きたくなかったのだろう。

 自分たちに害があれば、この場でおさらばである。……ナチュラルに病んでてイヤになる。


「先ほども言いましたが某婚約者、あるいは夫が、原因で死にます。

 場合によっては婚約式の日に死んだかも知れませんし、生きていても良い事はあると思えません」


「それは痛ましいですが、それだけで介入はされないでしょう?」


 まあ、納得はされないか。いくつかの原因については教えても良い。意図的に黙るのは良くないが、全てを話すわけにもいかない。


 彼は、姉のためにレティシアを殺すことくらいやってのける人だ。それと同じくらい、助けることもするだろう。

 良くも悪くも姉が基準である。

 ヤンデレ。溺愛。と言えば良いのだろうか。


「レティシアが死んだら、それも婚約者、のちの夫が原因だったら、あなた方はどうします?」


「……悲しんで泣き寝入り、とするほどには落ち着いていられないでしょうね」


 誰だって、うっすら予想すらする悲劇。それが現実になった時に助けられなかった自責の念を押しつける相手には事欠かない。

 八つ当たりのようなものだが、自覚した上で、報復してのけるのだからもやっとする。

 だったら、生きているうちにレティシアを大事にしておけば良かったのに。


「まず、軍部から指揮官相当者がごっそり、抜けます。

 門下生も新たに王城及び、関連令嬢の家に雇われることは禁じられ、壮絶に引きこもります。

 軍の弱体化が明らかになるのは数年はかかりますが、それが他国の介入を招きます。結果、十数年後には滅亡します」


 位階で言えば大尉相当の中隊長あたりがごっそり。この辺りの階位の人が最前線での直接指揮を執ることになる、らしい。要するに現場指揮官が足りなくなるのだそうだ。

 で、抜けたからそう簡単に養成できると言うかとそうでもないそうで。

 でも十数年あったら間に合いそうなんだけど、その間に形骸化されている騎士という制度が幅をきかせ始め、実戦経験のない指揮官が量産されていく。

 むやみに突撃とかすんな、兵糧を一人で消費するなとかなんとか……素人のあたしですらツッコミたいなんかなんだよね……。


「その程度、問題ないでしょう?」


「確かに国が滅んでも、人が全て滅ぶわけではありません。

 しかし、滅びの道を選んでしまうのです」


「もっと早く、いなくなれば良いのでは?」


 やっぱり物騒なコト言い出した。この姉の婚約者の存在自体が死亡フラグなのではないだろうか。


「一人の死がきっかけで、滅ぶとは神も予想していなかったのですよ。

 元々、何かの出来事を起因として起こるとして調べていたので気がつくのが遅く、巻き戻しは出来ないところまできていたのです」


 ……と言うけれど、実は試したことがあるらしい。レティシアが生まれないようにとか、幼いうちに死んでしまうとか。一族自体抹消もしたらしい。例の婚約者様も排除されてたりもして、これが大揉めして現在もある神々とは確執があるのだとか。


 それでもレティシア相当の子は生まれてきて、やっぱり同じような運命を辿り、さらに事態は悪化したので元に戻したのだそうだ。

 かくして、レティシアは繰り返す人生を送ることになる。


「それでもあなた方の子孫は元気に生き延びますので、ご安心ください」


 ため息をつかれた。

 それは事実だ。しぶとく生き残っちゃう。


 大変問題がある事実。

 レティシアの遺品は大体の場合、実家に戻されるのである。夫のもとには基本的には何も残されない。レティシアがそう望んだかのように、きれいさっぱりなくなるのだ。


「この滅びに大いに関わってくるものが彼女の遺品なのです」


 首をかしげる彼に告げる。

 彼は神官だから気がつかなかったのだろう。彼は人の生と死を司る時の娘たちの神官。それも誕生を司るティリアを信奉している。同種の魔法を使うことはあれど魔法使いとの関わり合いはほとんどない。


 だから、レティシアの異常さに気がつかなかった。


 たとえば、記録魔法。

 誰も幼い子供がそんな魔法を覚えているとは思わないだろう。そして、失言するのだ。彼女とて覚えておこうとしたわけではない。ただ、新しい魔法を使ってみたかった。それだけだったのが、いつの間にかなんとなく発動するようになり、最終的にはそう言えば使ってたっけ? という話になると言う……。

 本来なら、記録魔法で記録したものは発動者本人が覚えていて、それを外に出力して残す仕様だ。同時記録ではない。ところが、レティシアは使いにくいと改造し、記録したものを自動的に残す仕様変更をした。独学でできるようなことでは決してない。


 それなのに軽くやってのけたレティシアは優れた魔女だった。一人で新たに系統を作り上げてしまうほどに。


 しかし、自覚は全くしていなかった。誰も彼女が魔女であることを知らなかった。それは彼女自身に関心を持つ人がいなかったに等しい。ちゃんと見ていれば、わかったはずなのだから。


 レティシアには友人も、乳兄弟も、専属の使用人もいなかった。

 色々な事情と思惑が重なった結果と言える。皆に可愛がられている風には見えていたもののこの家では孤立していたのだ。令嬢としてちゃんとしていれば良いと自己を規定してしまうほどに。それが、本当のレティシアの気持ちなのだと誤解されるほどに。


 なるほど、助けてなどと誰にも言えないだろう。

 自覚もないうちにただ、深く絶望していてもおかしくはない。


 無意識に死を望むほどに。

 世界に復讐を望ほどに。


 生きているうちに復讐を志す事もあったとはご家族に言うべきコトではない。王都を血で染め、最後は夫に殺される。笑顔が痛々しいその最期は号泣ものだった。あれはまだ三度目の巻き戻しだった。さすがに心が折れる。


 次からは普通に血迷ったご令嬢に刺されたり、処刑されたり、ろくでもない死に方になったけど、虐殺はしていなかった。ただ、十数回に一回くらい、ぶち切れたのか一族郎党皆殺しとか呪いをまき散らしたりひどい魔法の開発にいそしんだりとしていたりする。

 ジェノサイドモードと恐れたものだが、そのときにしか出てこない人もいたりして何がきっかけなのか謎だ。

 上から見ていただけでは全ての把握をすることは難しい。


 だから、とりあえず、その婚約者を振ってやるところからスタートしろと何度もそそのかしたのだが、意味がなかった。その男になんの価値があるのだと問いたい。


 振ったばかりの婚約者に対してレティシアがどんな気持ちを持っていたのかは推し量れない。婚約、あるいは、結婚を遂げることを目標としてはいたが、別に誰でも良かったのではないかと思う。家族に失望されないのであれば。

 そう思うほどに何もわからないのだ。


 当人ではないのだから全て推測でしかない。

 あたしが代弁するなんておこがましい。言うのは事実だけでいい。


「幼い頃から彼女は既に魔女でした。誰も気がつかなかったようですが。軍人ばかりというのも問題ですね」


「魔女」


 彼は眉を寄せた。

 魔法使い程度ならばある程度いる。人より魔法を多く使えるくらいなら。

 魔女、あるいは魔人と呼ばれる者は規格外だ。

 普通は国が保護、あるいは首輪をつけて飼い殺しにする、あるいは魔女、魔人の弟子としている。


 全く気がつかれず野にいること自体が異常事態だ。


 大変物騒な話で恐縮だが、彼女らは戦略的兵器なのだ。魔人も魔女も。戦場に投入すれば戦況が変わると言われるのは時代が変わっても同じだ。

 その魔女が、開発した魔法がそのまま残されるのだ。たいしてプロテクトもかけずにただ、無造作な知識として。


 作った本人は大したものだと思っていないのだからセキュリティもゆるゆる、見つけた人もそんなものとは知らず試し、阿鼻叫喚が起こる。

 あーあ。と呟いたのは数知れず。

 レティシアが死んだあとの方が彼女が間接的に殺した人の多いこと。

 効率的に殺せる。ということにかけては才能があったとしか言いようがない。


「禁忌として扱われるべきものも管理されず流れていけば、良くない世の中になるのは想定できるでしょう?」


 良くも悪くも百年は先取りしたそれらは、世界を変えてしまう。それらが、遠く世界を壊していく。


 でも、本当は、それだけではない。

 意味もわからないことの積み重ねが世界を押しつぶす、と運命神が嘯く。

 それだけ先の事を読むのは難しいという。


 だから、目先のことを片付けるしかない。


「ならば、魔女として生きますか?」


「自由をくださるならば」


 まあ、期待なんかしてないけど。

 戸を叩く音を聞きながらため息をつく。


「それは難しいでしょうね」


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