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せんせい語録  第12話「おやゆび姫…」

作者: なぎさん

超短編、恋愛シリーズ。教師に微妙な不信感を持つオレっ子女子高生と、彼女を少しずつ変えて行く、奇怪なことわざと格言を愛するイケメン新任教師の恋のお話。第12話です。

第12話「おやゆび姫…」



 8:25分


靴箱から上履きにチェンジする瞬間にオレは見た。


ハイソックスの先から親指がコンニチワしているのを。

一瞬で履き替える。気持ち的には猫パンチより速く。

ダレモミテナイヨネ……ネ?


遅刻ギリであることが功を奏した。周りに人は居ない。

なぜ気付かなかった!?「あ、何処だろアレ?」を朝3回繰り返したせい?


あーーー!


今日の俺のミッションはこれを隠し通すことだ!

走って転んだ瞬間に脱げるとかテンプレなドジっ子をしない限り大丈夫だろう。

女子の靴をいきなり脱がすヘンタイは居ないはず。


一瞬、五呂久の顔が浮かんだけど、変人教師とはいえヘンタイ教師ではないので流石にないね。あったらセクハラだね。



 11:45分


今週の校内イベントは、「食を考える」だそうで。食育ってのかな?イタダキマスの意味とかバランスとか、御もっともであり、為にもなるけど正直オレには無縁なワードが並ぶ。


しかし、この日、この時間は違う。汁物を作るのだー!班で決めたシルモノをー!

今日はうちのクラスが家庭科室で食う日なのだ!

豚汁だー!ゴメンみんなゴメン!豚汁だ―!!わーい!

これを今日のお弁当にプラスしていい日なのだー!


さて、もうじき出来上がる。ぐつぐつ言ってる。ふ、ぐつぐつ言っても無駄だぜ。


「マコ、沸騰させ過ぎじゃない?」


むう、そうかも知れない。食べるのは大好きだけど作るのはあまりない。ここは女子力平均以下のオレは従うだけにしよう。でも、熱いのがいいのになー。夏だけどなー。


「マコ、五呂久の分、盛ってあげて。そろそろ取りに来るはずだよ。」

「うみゅ、五呂久の分盛ろう。ごのグツグツで、あつ!とか言わせてやろ。」

「まじヤケドするかもだから。熱いですくらい言いなよ~?」


ち、千載一遇の仕返しチャンスを。この良い子め。


五呂久が来た。


入ってくるなり、「おお~この香り~!」と両手を広げて深呼吸してやがる。ふふふ、見てろよ?


1週間前、五呂久は、各班の献立を見て即座に豚汁!と叫んだ。勿論、材料費は公平にイタダイテ居る。なので、ウチの班から行くことになる。


ふふ、オレが運んでやるぜ、覚悟しな、べいべー。あっちいぜい。くくく…。


トレーに載せて、オレは立ち上がった。


ふふ。美味しいって言うかな。


…そして、つまずいた。

世界がとてもスローに見えた。


目の前には、受け取りに来て笑顔を見せていた五呂久。

やべえええええ!


ばしゃ!


「あっっっつ!!」

オレの右足先にどっぱしかかった。ソックスに穴が開いてるから親指ダイレクトだ。


「バカやろ!何やってんだ!すぐ脱いで冷やせ!」

珍しく五呂久は何の冗談も入れずオレを気遣う…んだけど!

「ヤダ。平気!」

「んなつらそうな顔で無理すんな!冷やすぞ、靴脱げ!」

「ヤダ!」


見られてたまるかー!五呂久に見られるじゃん!親指―!!

みんなにも見られるじゃんー!!


「脱げ!」

「ヤダー!」

「脱げって!」

「ヤダー!!」


(ヒソヒソ…どうしたのマコ冷やさないと酷くなるじゃん…)

(ヒソヒソ…だよねえ)

(ヒソヒソ…てか会話だけ聞いてるとさぁ…何かエロくない?)

(ヒソヒソ…ゴメンあたしもちょっと思ってた~)


「どうしたってんだ…?仕方ない。ユキノ、水出して!」

「え?ハイ。」

「マコ、怒るのはあとでな!」


五呂久はいきなりオレをお姫様抱っこした!!

「何すんだー!ヘンタイ!」


そして、オレを家庭科室のテーブルシンク横に抱え、水をオレの足にじゃばじゃばかけた。

痛みが、ちょっぴり引いていく。じんじんするけど。


「…………へんたい…。」


よく考えると、こうしないとオレはスカートなのに足を思いっきり上に上げて、シンクに足入れなきゃなんなかったのか。あぁ、身長よ…。


五呂久はそんな恥ずかしい場面から守ってくれたのかな。そんなに気の回るヤツじゃないか。


「そろそろいいか、このまま保健室行くぞ。暴れんなよ?」

五呂久は急ぎ足で家庭科室を出て行く…。


と思ったら一瞬振り返り、

「5班、コイツ食いしん坊だから豚汁取っといてやって!」


と余計な一言を付け加えて再び保健室へ急ぎ足で向かった。

…オレを抱えたまま。


家庭科室から女子のキャーキャーが聞こえる。ヤダなぁ、またゴクツマ言われるぜきっと。



保健室到着。恥ずかしかった…誰も見て無いはず…授業中だしな!


「稲穂先生、マコが火傷です。見てやって下さい。」


五呂久はそう言ってオレを椅子に座らせると、


「取るぞ、洗ってやる。」


と言って、オレの返事を待たずに靴を取った。

オレのカワイイ親指は少し赤くなってた。


は!!

オレはもう片方の足で大慌てで親指を隠す。

「……見た?」

「イヤ。見とらん。」

「嘘だ―!絶対見たー!」

オレは涙目になって叫んだ。だから嫌だったのにー!!見られた!五呂久にー!!


「いいか、マコ!」


キタ。


「見られた見られないは重要じゃねえんだ!」


「大事なのは、相手が覚えているかどうかだ!!」


…すぐ忘れてやるから気にするなってこと…?五呂久…?。


「今のは絶対忘れないけどな!」


……志ネ!! 



保健室の女神が言う。

「ゴロク先生、あんまりからかわないで、ちゃんと女の子として見てあげないと嫌われますよ。一回出てください、ソックス脱いでもらうんで。靴はあっちの水道で洗ってあげてくださいね。」


ソーダソーダ。嫌われるぞー!ちくしょー!


五呂久は、「ああ、そうですね」と言った後で、後ろ向きのまま、オレに言った。


「マコ、さっき転びかけた時、俺にかからないように自分の方へ落としただろ。無茶すんな。」

「…………」

「ありがとな。お前は優しいな。…稲穂先生、あと宜しくお願いします。」


そう言って、出て行った。


右足は結構かかちゃったけど、赤いけど、すぐ冷やしたおかげで水ぶくれとかなってなかった。稲穂先生は保冷剤みたいなヤツを巻いて、その後、保健室置きのソックスを貸してくれた。


「ハイ、多分大丈夫だけど、一応様子見てね。ふふ、ヤケドしながらニヤニヤしてる子、先生、初めて見たよ。」


稲穂先生はからかうようにそんなこと言ってきた。

「女の子からかってばかりいると嫌われまっすよー」

「出た、噂通りのツンデレ」

「んなウワサあんの!?職員室!!」



 13:00


オレの豚汁と弁当は、昼休みを過ぎていたため保健室に運ばれ、そこで食うことになった。

ちゃんとオレの分は残ってた。しかも大盛でキタ。


オレは稲穂先生に挨拶をしてクラスに戻る。5時間目を途中で入り、授業を終える。

足の痛みはかなり引いてきた。ありがとう保冷剤。



授業が終わると、ユキジや仲間たちが集まってくる。


「足大丈夫?姫2号?」

「お姫様だっこいいな~姫2号。」

「靴、窓側のストーブ上に干してあるよ?姫2号。」


「うるせぇぇ~!お前ら心配するより、新しいネタ楽しんでるだろ!?」


大騒音の教室に、よりによってヤツがひょいと顔を出した。

まともに考えれば自分のクラスが騒がしければ顔も出すだろうけども!


「王子キタ。」

「ごろく先生、マコの新しいアダ名決まったよ~!」


状況を把握したらしいヤツは、ぽそっと呟いた。


「おやゆび姫…」


そして、逃げて行った!


燃料を投下された教室は再び爆発した。


みんな、オレの背が小さめな事を五呂久がイジッたと思ったらしい。

でもオレだけは知っている!もう一つの意味があることを!!



ぴぎゃぁぁぁぁー!! 許せんゴロクー!!


コロス! 絶対コロス!


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