世界の常識私の非常識
「マッシュ達をこのままココの従業員として雇うのは可能ですか」
私がシスターに尋ねると
「お役に立てるのなら幸いな事です」と答え
「実は私もあの子達に何か仕事が無いか聞くつもりだったのです」
シスターはさらにそう続けた。
「そうだったんですか
でもまだ働きに出るような年には思えなくて
何だか仕事をさせるのも申し訳ない気がしています」
私がそう言うと
「あの子達の年は聞いていないのですか」そう尋ねられ
「いえ、16歳と15歳と聞いてます」そう答えると
シスターは暫くの沈黙の後に
「その年になれば結婚し独り立ちしている子も沢山います
7,8歳の子でも仕事をする子はこの世界に大勢います」と
この世界の常識を教えてくれた。
「それじゃぁ勉強はいつするんですか」と私が聞くと
「勉強とは職業を習う事でしょうか」と聞き返され
ローズちゃんの様にフィリス師匠に師事したり
エドガーの様にノームに弟子入りする事を言っているのかと
言葉の嚙み合わなさをそんな風に理解した。
「私が言う勉強って文字を習ったり計算を覚えたりする事です」
私はそう説明すると
「生活に余裕のあるご家庭は家庭教師を雇いますが
そうでない場合は親御さんが教えたり教会に通って覚えます」
シスターはそう説明してくれた。
「じゃぁ、この教会でも教えていると言う事ですか」と尋ねると
「勿論私がここの子達みんなには常々教えています」
そう自慢げに言うシスターに
やはりこの人は本物のシスターなんだと一人納得していた。
「それではここの子達はみんな
仕事をしなくてはいけない年になっていると言う事ですか」
私が改めてそう尋ねると
「本来はそうですね子供達も仕事があれば喜びますが
なかなか思う様には行きません
騙される事も多いですし大事にされる事も少ないので
私はなかなか子供達を出してやる事が出来ません」
そう言って深い溜息をつき憂い顔を見せていた。
「それって子供達に仕事をさせたいって事ですか」
私は今は少しでも人手が欲しいと言う願望と
子供を働かせるのかと言う罪悪感の様な気持ちに揺れながら
そう聞いていた。
「少なくとも子供達はそう願っている様です
もっとも教会の財政状態が悪いのも原因ですが」
そう言ってますます憂い顔が深くなった。
私はシスターのその憂い顔を見て協力したいと考えていた。
子供たち自身が働きたがっていると言うのなら
ローズちゃんだって師事したり手伝いをしたりしているんだから
けしてできないと言う事は無い筈と考えた。
私が無理をさせない様に充分に注意すれば可能だろうと
自分を納得させていた。
「私が纏めてみんなを責任を持って雇います
シスターの事も学校の教師として雇いますので
このまま教会で文字の読み書きや計算を教えてください」
私がそう言うとシスターは驚いた顔で固まってしまった。
「仕事をさせるので勉強はそれ以外の時間でとなりますが
なるべく子供達には無理はさせない様にしますし
きちんとお給料を出しますので安心してください」
続けて私がそう話すとシスターはやっと口を開き
「無理をしてはいないですよね」と聞いてきた。
「無理はしてません寧ろこちらが有難いくらいです
それでご相談なんですが私はこの世界の常識に疎くて
お給料の相場やお休みなどの待遇の決め方が分からなくて
その相談にも乗って欲しかったんです」
私はそう言ってシスターに頭を下げた。
「そうですねお給料の相場と言われましても
職業によっても雇い主によっても違いますので
明確には決まりは無いのですよ
大抵の場合雇い主が提示した額に納得したら雇われる形です」
そんな風に答えられ私は困り果てた。
「もう一月以上エドガーにもマリーさんにも
お休みどころかお給料も出してないんです
本人たちも仕事ぶりを見て決めてくれと言って
はっきりとした額を提示してくれないので本当に困ってます」
私が懇願する様にシスターに言うと
「私は仕事の内容を知りませんのではっきりとは言えませんが
父親が高給取りと言われるのが月金貨30枚程で
低い所でも金貨8枚は出している様です
また小さな子に仕事を与える場合は
その都度銅貨や鉄貨でお小遣い程度に払い
銀貨を与える事などはまず無いでしょう
そしてお休みと先程からおしゃってますが
この世界に決まった休みのある仕事などまずありませんよ
大抵の場合前もって休みたい日にちを申し出ても
それすらも了承される事が少ないと聞いています」
そう丁寧にこの世界の常識のような物を説明された。
「子供達にお小遣い程度ってどうして」私がそう呟くと
「決まった仕事で雇う事が少ないのです
どうしても手が足りないとか
臨時で雑用を押付ける様な雇い方になります
そしてまた決まった仕事で師弟関係になれれば
師匠によってはお給料を出す人もありますが
技術を教えると言う名目上大抵の場合はタダ働きに近く
やはり子供達に決まったお給料は見込めません」
さらに子供達の労働実情を教えてくれた。
「そんな状況でどうしてみんな働きたいのか理解できません」
私は思わずそう呟くと
「生活するのにみんな精一杯なんですよ
何もせずに家にいると役立たずと言われ
とても恥ずべき事だと言う考え方が多いのです」
私はそう言われ愕然とした。
頭の中で『役立たず』と『恥ずべき事』が木霊していた。
常々のんびり楽しく暮らしたいあくせく働きたくない
そんな事を考えている私にきっぱりと言われた様でショックだった。
いや、でも、世界が違うし考え方も違うし
私がこの世界の考え方に合せる必要などまったくない訳だし
でも子供達に呆れられるのはやっぱり恥ずかしいと狼狽えていた。
何だか自分でも良く分からない気持ちが私の中に渦巻いた。
そして私はすっかりとココの責任者の様な立ち位置だと気が付いた。
もっともお金を出しているのは確かなので
正式にはオーナーと言う立場なのだろうが
流れだったとは言え私がこんなにも大勢を受け入れ
ましてやその人達を雇い入れ運営する立場になるとは
本当に考えてもいなかった。
既に私は色んな責任を背負ったのだと感じていた。
すると私の気持ちを察知したのか
「教会には後12歳と10歳と9歳と7歳の子
それに5歳の子と赤ん坊ですがどういたしましょう」
そう聞かれ私は現実に戻った。
私はローズちゃんがお手伝いを喜んでいた事を思い出し
「じゃぁ7歳の子までを雇う事にします」とそう答えた。
「それでどんな事をさせる気でしょう」と尋ねられ
「掃除と料理の補助を考えています」と答えた。
今ローズちゃんがしている仕事だから大丈夫だろう
それにこれで夜までローズちゃんを働かせなくて済むと
そう思うのと共に労働時間の事を考えなくてはと思った。
シフト制にするとしてやはりその辺もしっかり考えなくてはと
改めて持ち上がった問題に直面した。
そんな事を話し合っているうちにランチ営業の時間となり
私はシスターに「良く考えてまた改めて来ます」と挨拶をして
足早にキッチンカーへと向かった。
居酒屋キッチンカーには既に精霊達が集まっていて
開店を心待ちにしている様だった。
サラマンダーやノームやウィンディーネは大抵の場合
居酒屋営業の時間を見計らってやって来る筈なのに
今日はまた随分と速い時間から集まっている様子を見て
「お昼からお酒は出しませんからね」とはっきり言うと
バツが悪そうにしたサラマンダーは
「事の顛末など少々気になって来てしまっただけです」
そう言っていたが
「やはりダメかいのぉ、少しで良いんじゃが」と
ノームは諦め悪く言うと
「久しぶりに温泉にでも浸かって来ようかしらぁ」
ウィンディーネはそう言って温泉施設へと歩いて行った。
シルフとアウラは当然ランチ営業を手伝ってくれる気満々で
「そうですの~ここに居ては邪魔ですの~」と
サラマンダーとノームを温泉施設へと追い立てていた。
私はその様子がおかしくて
「ランチ営業が一段落したらお酒を出しますから」
そう言うと二人は足取り軽く
「ではわしらも久しぶりにゆっくり浸かって来るかのぉ」と
サラマンダーと連れ立って温泉施設へと向かって行った。
ココに何かあるとこうして精霊達みんなが心配してくれる
あたり前の様なその事実が本当に嬉しかった。
なのでまだ何もちゃんと決まっていないのだけれど
後できちんと報告しなくてはとそう思っていた。
読んでくださりありがとうございます。




