聖女の仕事着
この東屋のような家へ案内された時は私の他に人の気配など無く
「良かったら召し上がってください」と言われた食事は
テーブルの上に置かれたパンと冷めたスープだけだった。
聖女は何処の国でも大事にされるんじゃなかったの?
この国での私の存在はこんなものなんだと改めて認識した。
お風呂は無く着替えも無く食堂の隣にあった部屋のベットで寝たよ
あまりの切なさに膝を抱えて・・・
ここで逃げようと画策してもきっと捕まってまた牢屋に逆戻りか
盗賊と間違われ下手をして殺されるのも怖いので
今すぐにでも逃げ出してしまいたい気持ちを抑え我慢した。
そうして夜明け近くになって漸く寝付いた私を揺り起こした侍女は
「お支度を」と言って着替えを要求して来た。
差し出された衣装は床を引きずりそうな程丈の長い白いドレスに
同じ様な丈の白いフード付きマントで
急ぎで設えたのでサイズを合わせたいから早く着ろと言う。
着ろと言われれば着ますけど
自分の体にサイズが合っているとはどうしても思えない
見た感じで既に分かるよ・・・
服を体に当てたこの時点で納得してくれないの?
どんな拷問を始めるつもりだよ。
侍女は折れる気が無いようなので仕方なく諦め
ファスナーもボタンも無い伸びる素材でもないドレスを裾から被り
如何にか襟ぐりから顔を出してみたけれど
袖に腕が入らないし肩幅からドレスが降りてこない
これで納得してくれましたか?
入らない物はどうやっても着る事は出来ないんです
私は心の中でそう不貞腐れそして開き直りそのドレスを脱ぎ捨て
「諦めてください」とそう言ってみた。
すると「今から作り直しですか」と深いため息をつき
そして「ご出立の時間に間に合うかどうか・・・」と考え出し
私の全身をまじまじと見て来る。
悪かったわね、寝ようと思ってた時に召喚されたから
スッピンだし部屋着のままだしお世辞にも綺麗とは言えないよ
そこは自分でも自覚してるよ。
でもさ、一応この部屋着は誰かが急に訪ねて来ても困らない様に
かなり気を使って購入したちょっとお高めな逸品だよ。
シンプルで動きやすくてそれでいてお洒落な
セレブご用達のブランド品だよ。
誰かと出かける事も無く寮と会社の往復生活の中で
ちょっと贅沢に自分へのご褒美で買った自慢の部屋着だよ。
この世界のトレンドがどんなのかは知らないけれど
あんた達が欲しいと思ったってそう簡単に手に入れられない物だよ。
もうこの部屋着のままで良いでしょう?
それとも聖女様の制服か何かなのこのどうって事無い寸胴ドレスが
生地はそう悪くはなさそうだけれど
デザインもやぼったいとしか言いようが無いし何の飾りも無いし
質素を売りにしてるとしか思えない仕様だよ。
幸いなことにサイズも合っていないし私は着ないよそんなドレス
たとえサイズ直されても絶対にごめんだね。
私がさらに不貞腐れていると
侍女はまるで名案を思い付いたとでも言いたげに
「マントで誤魔化すしか無いですね」と言って
私にマントを羽織わせて前を閉じる様に着ろと言う。
でもさぁ、パツンパツン状態だよ。
ちょっと動いたらどうやっても前が開いてしまうよこのマント
中がドレスじゃ無いのは簡単にバレるよ良いの?
私がマントを合わせて見せると侍女は
「マントは急ぎ作り直します」と言って部屋を出て行った。
マントはってなんだよマントはって
まぁいいか、ドレスは諦めてくれたようだし・・・
それよりも私はお腹が空いたんですけれど
昨夜の質素な食事だけじゃこの体型は維持出来ないし
私のストレスはまったく発散されませんけれど
台所に何かないか漁りに行っても良いよね
だって準備される様子が無いんだから。
そうして台所へと向かい中を窺うと無いよ何にも
冷蔵庫も無ければ保存棚も無くて
お菓子はおろかパンも何処にも置いていない
あるのは鍋などの調理器具と食器類だけで
調味料は疎かおよそ食材と呼べる物は何も無い。
この国は聖女を餓死させる気か。
仕方なく隅にあった水樽からコップで水を掬い
それを飲んで空腹を紛らわせた。
怒り復活だよ、一刻も早くこんな所逃げ出して
もう少しまともな食事にありつかないと
私は本当に痩せちゃうよ、身体ばかりか心まで。
その為にはお金だな。
この世界の通貨を手に入れなくちゃ
この国からどうやってその通貨をせしめてやろうかと
私は全力で考えを巡らせた。
読んでくださりありがとうございます。