未来予想図
サラマンダーの大陸の街道を作り終えて
私はエドガーに会いに来ていた。
サラマンダーにされた話をする為だったのだが
何をどう切り出したものかと考えてしまっていた。
「それで大事なお話と言うのは何でございましょうか」
一向に話を始めない私に痺れを切らしたのか
エドガーがそう聞いて来た。
「サラマンダーがね実体はまだの様だけど思念だけ復帰してね
あの大陸にいずれは国を作るための礎に村を作って欲しいって」
「それは重要なお話ですね
サラマンダー様がそうお望みでしたか」
「それとね、ちょっと言いづらいんだけど」
私はやっぱり話をするのを躊躇ってしまった。
何で躊躇ったのかは自分でも良く分からなかった。
妊娠と出産に関する話をするのが恥ずかしかったのか
それとも想定外の話を上手く説明出来るか考えたのか
何にしてもエドガー相手にする話じゃ無い様な気もしていた。
しかし報告も相談もしない訳にはいかない話だし
何より何をどう話し始めたら良いのか悩んでいた。
「そんなに言いづらかったら無理に話さなくても良いですよ」
エドガーは私に気を使った様だったが
別に隠し事を暴露する訳でも罪を告白する訳でもないよと
そんな風に考えながら思い切って話を始めた。
「サラマンダーが私に眷属を産んで欲しいって」
私の言葉を聞いて思った通りエドガーはしばし黙り込んだ。
「ウィンディーネに頼んで人間の眷属を誕生させたいらしい
その為には私が妊娠して出産する必要があるんだって」
黙り込んだままのエドガーにさらに追加で話してみた。
「それはサラマンダー様と結婚なさると言うお話しですか」
「そうじゃなくて結婚しないで子供だけ産んでくれって
聞き様によっては失礼な話だよね」
「それでもサラマンダー様がそうお望みになったのですね」
「そうなの私じゃないとダメだって言うんだよホント困るよね」
別に本当に困っていた訳じゃ無いがついそう口をついて出ていた。
するとしばらく考え込む様にしていたエドガーが
「それ程までに精霊様に望まれるとは
私が考えていたよりもさらにコオ様は素晴らしいお方でした」
私はエドガーのその反応に思いっきり戸惑った。
「えっと反対とか何か困る事とかそう言うのは無いの」
まさかここでも褒めちぎられるとは思っていなかったので
思わずそう聞いてしまった。
「この世界にそれ程までに精霊様に望まれる方がいるでしょうか
私は話にも聞いた事がありません
今まででも精霊様達に守られそしてお友達の様な振る舞いに
私はあり得ない物を見ている様に感じていたのですが
まさかお子様を望まれる程とは思ってもいませんでした
これが喜ばずにいられましょうか」
良く分からないがエドガー的には絶賛すべき事らしい。
私的妄想の世界では『けんかをやめて』を期待していたのだ。
ここはエドガーに思いっきり反対して貰って
『私のために争わないで』を繰り広げ
そしてエドガーの結婚話もサラマンダーの出産の話も
すべて無しにして貰えたら良いなと期待していたが
私が妄想する様な展開はまったく無いらしい。
「そう手放しで賛成されると決定したみたいでちょっと困る
一応返事は保留にさせて貰っているんだよ」
「何故ですか、精霊様の子を宿したとなれば
他にコオ様との結婚を望まれる方はいなくなりますし
当然新たな国を作り上げる上でも有利に働きますよ」
「そしたら私の恋愛や結婚の可能性も無くなるって事だよね」
「それはまた話は別ですね
コオ様はお役目を果たされた後ご自由になさったら良いでしょう」
「お役目って・・・」
エドガーに掛かったら私の出産の話もただの役目らしい。
でもこれで無茶な結婚の話は完全に無くなった様で
私的には一安心と言った所だろうか。
その後でなら自由に恋愛も結婚も考えて良いみたいだし
って、子育てしながら恋愛って可能なのか?
そもそも私に子育てなんて出来るのか?
一番の問題を忘れていた気がするんですけど
何だか急に不安が押し寄せて来た。
「私に子育てなんて出来ると思う?」
「大丈夫です、私が優秀な乳母と側近を見つけておきます」
「えっ、私は子育て出来ないの?」
「コオ様の考える子育てとはどういう物なのでしょうか
この世界でコオ様のお立場なら乳母も側近も当然の事です」
うん、そう言えば話は知っていた。
漫画でもアニメでも小説でも貴族世界はそんな感じだった。
それにディアンの意見を聞くなら
エドガーは私に結婚と言うより世継ぎを望んでるらしいから
私の出産となったらそこに力を入れて来るのは当然なのか。
でもこれだけははっきりさせておきたい事が出来た。
「この国に貴族階級の様な制度は無いんだよね
だとしたら当然王族とは名ばかりって事で
それを特権の様にはしないんだよね」
「それは違います、特権階級は無いにしても
コオ様の血筋を守り教育して行くのが私の役目でございます
それだけは何と言われようと曲げる事は出来ません」
「じゃぁ私が私の手で育てるって事は出来ないの」
「そうではありません、ただお手伝いをするとお考え下さい」
私は何となく理解したがそれと共に可笑しくなっていた。
考えてみたらサラマンダーに返事もしていないし
まだ何かはっきりと決まった訳でも無いのに
生まれてもいない子供の事で言い合うなんて
何だか私が想像する結婚間近のカップルの様で
つい含み笑いをしていた。
私も意外に気が早いと言うか思い込みが過ぎると言うか
エドガーに乗せられた様な形ではあったけど
ちょっと疑似恋愛でもしている気分だったかも知れない
そんな風に思っていた。
「何にしても精霊達が復帰してからの話だし
まだ何も決まっていないしサラマンダーにも確認しないとね」
私が改めてそう話すと
「では精霊様達のお早い復帰を目指してください」
いとも簡単そうにそしてそれが私の仕事だとばかりに
エドガーは私に言って来た。
「そう簡単に言わないでよ、結構大変なんだよ」
「コオ様でも大変な事があるんですね
しかしこれは最重要事項です、しっかりとなさってください
私も新たな村のお話はすぐに始めさせていただきます」
エドガー的にはもうすっかり未来予想図が出来上がっている様で
その為には私の意見など聞く気は無いらしい。
私もこれ以上は話しても無駄だろうと諦めて
妊娠と出産に関しては本当にまだまったくの保留にして
とにかく精霊達の復帰を目指して頑張る事は決めたのだった。
読んでくださりありがとうございます。