洞窟温泉
そう言えばノームは
いつだったか自分の大陸でも温泉を作ったと言ってたけど
今の所まだその温泉は見つけていない。
いったい何処に作ったのだろう。
誰も入る人の居ない温泉なんて意味が無いと思うのだけど
もしかして獣達の為の温泉だったりするのかな
私は街を出立する段階になってふと思い出した事を考えていた。
私達を見送るためにわざわざ外に出て来てくれていた長老に
「温泉ってご存じですか」と聞いてみた。
「そう言えば温泉はまだご案内しておりませんでしたな」と
長老が答えた事に驚いていた。
そのすっかり忘れていましたと言う感じからして
利用している人が殆どいないのだろうと思えたからだ。
「この近くにあるんですか」
「鉱物の採取が難しくなり閉鎖した鉱山にありますぞ」
「鉱山にですか」
「洞窟の中に沸いておりますな」
「洞窟温泉か、是非見てみたいのですが良いですか」
「それでは案内させましょう」
そう言ってドワーフの青年をまたも呼び寄せていた。
ここで別れを済ます気満々だったのにと思いながらも
長老達には温泉を見たら出発する事を伝え別れを済ませ
そうして温泉へと案内して貰った。
そこは何もないただの暗い鉱山跡地にあって
そこにある窪んだ場所にお湯が沸きだしていると言う
本当に風情も何もまったく無いただの温泉だった。
(これはもう練習に作ったにしてもどうかと思うぞ
上手く作れたと言っていたけど
利用されていない時点でそうじゃないと思うよ)
私は折角の温泉なのにととても残念な気持ちになり
ダンジョンを作る要領で作り替えるのに挑戦する事にした。
満天の星空の様に光る石を其処此処に散りばめ風情を出し
外の景色も眺められる様に天井部分近くから壁面辺りを
大きくくり抜く様に切り出し
それに合わせ湯船も広く作り直し底に小石を敷き詰めた。
灯篭の様な明り取りをいくつか飾り
ちょっとした休憩のためのすのこベンチも置いて
そして更衣室も作って行った。
ただの洞窟だったそこは結構風情も出て
良い感じの洞窟温泉に仕上がったと思う。
折角ノームが作った温泉も
あまり利用されている様子が無いのは悲しい事だ
これで利用する人が増えればきっとノームも喜ぶだろう
私はそう一人満足して作り替えた温泉を眺めていた。
(有難い事じゃのぉ)
突然ノームの声が私の頭の中に響いた。
(ノームなの?)
(そうじゃ、久しぶりじゃのぉ
どうやらこうして思念は送れる様になったようじゃ)
(どうして私の中に入って来ないのよ
そうすれば力を取り戻すのも早いんじゃないの)
(それだけは出来ん)
(どうしてよ)
(実体化出来ん今お主の中に入ったら
わしと同化するどころかお主を取り込む危険が大きいでのぉ
お主もわしになるのは嫌じゃろう)
(それって私の身体でノームになってしまうって事?)
(その危険が大きいと言う事じゃのぅ
じゃがこうしてお主がこの大陸に魔力を注いでくれるお陰で
復帰も早まりそうじゃ、あまり心配せずとも良かろうぞい
こうして思念だけでも送れる様になったのじゃ
今はそれだけでも有難い事じゃのぉ)
(それってダンジョン作ったりした事が良かったって事?)
(この大陸にお主の魔力が使われた事が良かったのかも知れんのぉ
この大陸も世界と同化しようとしているのじゃ
その手助けになったと言う事かのぉ)
(世界と同化って意味が良く分からないよ)
(そうじゃのぉわしにも説明は難しいのぉ)
(それじゃぁこの大陸にもっと力を使ったら
ノームの復帰も早まるって事で間違いはない?)
(そうじゃのぉ間違いは無いが他の精霊の事も頼んだぞい)
(それって他の大陸でも同じ様にしろって事?)
(そうしてくれればわしも気が楽になるぞい)
(分かった、全部の大陸をくまなく回って魔力を使って来る
少なくともみんなと捻話出来る位には復帰させてくる)
(ほほ~、楽しみにしとるぞい、頼んだぞい)
そう言うとノームの声はぱたりと聞こえなくなってしまった。
もしかしたら少し捻話が出来る位の復帰だったのを
私があれこれ聞きたがったから無理したのかも知れない
何となくそう感じて少しだけ反省した。
私はいつも気付かぬ内に精霊達に無理をさせてしまう
甘え過ぎているのを自覚しているのにその時には気付かず
こうして後になって反省するばかりだ。
でもこれでただ精霊達の気配を探し大陸を探索する予定が
明確な目標と言うか目的が見つかったのだ
精霊達の早い復帰を目指して頑張ると新たに心に誓った。
読んでくださりありがとうございます。