シルフが作る
リアンだけでなくウィンディーネも抜けた穴は大きかった。
私は早朝から補充作業に回って歩き
素材買取所も受け持ちながらの自動販売機の補充と
それこそ休む間もなくと言う感じで働いていた。
時には食欲も無くなる程に疲れる事もあった。
しかしそれも束の間でウィンディーネと入れ替わる様に
サラマンダーとリアンが帰って来た。
「リアン帰って来てくれてありがとう」
私は思わずリアンに抱き付いてしまった。
リアンは慌てる様子を見せたが私を振り解く事はせずに
黙ってされるがままでいてくれた。
「ごめんごめん」私はリアンから離れ謝ると
「いえ」といつもの短い返事が帰って来た。
「何かありましたか」とサラマンダーが聞いて来るので
「ウィンディーネが旅に出た」と答えると
サラマンダーは納得した様子を見せるので
サラマンダーもウィンディーネの気持ちを知っていたのかと
そんな風に勝手に思っていた。
早速の様にリアンは自動販売機の補充を担ってくれて
サラマンダーはアウラとダンジョンの話を始めていた。
するとそこへシルフが現れ
「シルフが作るのです~」といきなり言い出して
いったい何事かと思っていると
「今度はシルフが作るのです~」と
ダンジョン作成は今回は自分がすると主張していた。
「分かりましたシルフにお任せします」
「しかし今直ぐにとはいかない」
「朝早くに行くのです~」
「明日の朝か」
「そうなのです~早くに行くのです~」
「早朝と言う事かそれなら大丈夫だろう」
サラマンダーの言う大丈夫の意味は分からなかったが
話の流れを聞いて補充作業や素材買取所の事を考えても
早朝なら大丈夫かと私もそう思っていた。
まだ夜も明けない早朝に転移石の前には
既にサラマンダーにアウラとシルフそしてリアンが集まっていた。
私は少し寝不足気味の回らない頭で
あくびをしながら「おはよう」とそう挨拶をすると
「しっかりしてください」とアウラに早速叱られた。
何だか今日のアウラはピリピリムードだなと思いながら
気を引き締めて「ごめん、よろしくお願いします」と挨拶し直した。
そうしてみんなで転移した先は
山の中腹にある台地の様な場所だった。
しかしその台地は何故か荒廃した雰囲気で
木も草も枯れはてた残骸の様で何かとても不気味だった。
「ここは死体が埋められる場所です」とアウラが教えてくれた。
(そうかこの世界は土葬なのか)そう思っていた。
「深夜はここに埋められた者たちが蠢いている」
「それってアンデットって事?」
「そうだここに死体を埋めたがる者達は
死んだ後も会えると信じて埋めている
その思いがアンデットを生んでいるのだろう」
「そしてあの瘴気溜まりも影響しているのでしょう」
そうしてアウラが指さした盆地には
溢れんばかりの瘴気が溜まり禍々しい気配を振りまいていた。
「それで何処にダンジョンを作るの」
「私はあそこがいいですの~」
シルフが指さすのは禍々しい雰囲気を振りまく盆地だった。
「あの瘴気溜まりに入るって事だね」そう念のため聞き直すと
「そうですの~あそこが良いのです~」と言う
瘴気溜まりに入るのは気分だけでも息苦しい
出来る事ならあまり近づきたくもないのだけれど
私は諦めて瘴気溜まりに入る覚悟を決めた。
念入りに念入りにみんなに結界を張り準備を整えた。
「いいよ」私がそう言うと
精霊達の力で盆地にある瘴気溜まりの真ん中へと移動した。
辺りの様子も確認出来ない程に溜まった瘴気にむせ返えり
まるでヘドロの中にでも入った様で気持ちが悪かった。
「シルフ早く終わらせて」私は思わず言っていた。
「分かりましたの~」
シルフはそう言うと私に触れ何かを念じ始める。
私は瘴気を自分で浄化したい気持ちを我慢しながら
シルフの様子を窺っていた。
瘴気はみるみる薄くなって行きその速さは驚く物があった。
ヘドロの様にドロドロに纏わり付く様だった瘴気は
本当にあっという間に瘴気の霧へと変わり
そしてゆっくりと消えて行った。
すると辺りは森林へと様子を変えていた。
良く確認するとそれはそれは大きな木を中心にして
大小の木が林立して迷路の様になり
そしてその大木の中がダンジョンになっている様だった。
私達はその大木を目の前にして立っていたので
遥か高く立つその大木を見上げた。
それはスカイツリーを下から見上げている様な気分だった。
暫くその大木に流れ込む瘴気を見ながら見上げていたが
首が痛くなり姿勢を戻した。
シルフの作るダンジョンだからと予想はしていたが
まさかこんな大木のダンジョンとは考えもしなかった。
中はいったいどうなっているのか
そしてどんな魔物が出るのか私は少し楽しみになっていた。
既に攻略する気満々の自分に驚いた。
やはり私は魔物を倒す事に抵抗を持たなくなっている
そして何より面倒くさいと考える事が無くなっている
何の目的も目標も無く魔物に挑もうと思うとは
自分でも自分のその変化に本当に驚いていた。
読んでくださりありがとうございます。