面倒くさい一日
ココへの入り口の3カ所にノームが馬の休憩小屋を作ってくれた。
ロックさんの為に購入した馬と帰りに増えていた馬は
教会で世話をして貰っていたので
その馬達はそのまま教会で世話を続けて貰う事にした。
もっともそのうちの1頭はサラマンダーと出かけていた。
「世話は自分達でさせるが良かろうて」
「うん私もそのつもり水さえあれば大丈夫でしょう」
石造りの手水鉢の底から水が湧き出る様に川の水を引き込んで
小屋の傍に設置した。
「余計な所に入り込まん様に宿泊所まで道を作るかのぉ」
ノームはそう言って石造りのちょっと立派な道を整えた。
「折角じゃそろそろココに名前をつけたらどうかのぉ」
「名前なんて付けたら村とか街とか呼ばれる様になるね」
「もうすでに十分街に近くなっておろうが
住人が少ないだけじゃ」
「そう言われればそうだけど名前かぁ
少しアウラとも相談してみるよ」
「わしは道を作り終えたら温泉にでも浸かっておる
差し入れたきゃエールでも構わんぞい」
ノームはそう言って作業をみるみる終わらせて行く。
私はそれを見ながら『名前かぁ』と考えていた。
考えても考えても名前など思いつく事も無く
ノームがビールを差し入れろと言っていたのを思い出し
温泉施設へと向かった。
お風呂上がりの冷たいビールは最高だよね
私はそんな事を考えながらなんでここに
ビールの自動販売機を置かないのかと思いついた。
(売れるよね)
私は早速アルコール飲料の自動販売機を購入した。
ビールと缶チューハイと日本酒の3台だ。
私はノームが温泉から上がって来るのを待ったが
なかなか上がって来る気配が無いので
男湯の前でノームを大声で呼んでしまった。
「びっくりしたわい、まったく何事じゃ」
「ノームに設置して欲しい物が出来たの」
「まったくいっぺんに済ませてくれれば良い物を」
そう溜息をつきながら歩いていたが
アルコール飲料の自動販売機を見て
「これはもしかしてエールか?」
「こっちは缶チューハイでこっちは日本酒だよ」
私がそう言うとあっという間に設置して
「わしは取り合えずこのエールで頼むぞい」と
ビールの500ml缶を指さした。
(そうかノームには硬貨は持たせてなかったんだ)と思い
ノームにも硬貨を渡そうかとも考えたが
ウィンディーネが特別だと喜び
みんなが欲しがる迄はそのままでと言ったのを思い出し
私のがま口から硬貨を取り出して購入し渡した。
「おお良く冷えておるわい」そう言って喜んで飲んで
「これは止められなくなりそうじゃぞい」と言っている
この分じゃ硬貨が山の様に必要かもと思い直し
ノーム対策を考えなくてはと思ったのだった。
するとマッシュが話を聞きつけたらしく現れて
「新しい自動販売機ですか」と聞いてきた。
「これはアルコール飲料だから
子供が間違って買わない様に気を付けて」
そう説明すると
「アルコールですか?」と聞くので
「お酒だよお酒」そう答えると
「これ全部酒ですか」と目を輝かせたので
「仕事中はダメだからね」と釘を刺した。
「それよりノームは普段硬貨を持って無いから
入浴後に飲みたいとなると困るよね」
「それじゃ売店から硬貨を貰う様にすれば良いですよ
いくら使ったかはちゃんと付けておきますから」
そう頼もしい返事が来たので
「それじゃお願いしようかしら」と
マッシュにノーム問題を丸投げした。
「昼から酒が飲めると知ったらこの温泉施設も
もっと賑やかになるかも知れませんね」
そう言うマッシュはもうすっかりここの支配人の顔だった。
「売店の商品をもう少し増やして
セリスを売店に専従させたいんだけど」
そうマッシュが提案して来た。
「案内や掃除は大丈夫なの?」
「マリアもティナもマドリーヌもすっかり慣れたし
案内も掃除も言うほど必要ない
みんな綺麗に使ってくれている
それに俺も気に掛けて十分にしているつもりだ
それよりセリスの遣りたい様に遣らせたい」
そう言うマッシュを本当に逞しく感じた。
「分ったそれにノームのお守りも頼みたいしね」
「じゃぁ土産の商品いくつか考えてくれよな」
そう簡単に言うマッシュの言葉に私は困った。
ココの名前も考えなくちゃならないのに
売店に置く商品も考えるのかと
だから考えるのは苦手なんだってばとは言えず
「分かった考えてみる」
私はそう返事をしてオフィスへと向かった。
オフィスへと入るとすぐに
「コオお客様がお待ちよぉ」と
ウィンディーネから声が掛かった。
そう言えば面倒くさい客は待たせる事にしたんだった。
今日はなんて面倒くさい事が重なる日だと思っていた。
「何処に居るの?」
「そこの応接室よぉ」
「分かった」私はため息をついて応接室にノックをして入った。
「お待たせしてすみません」そう言って中に入ると
やたらとにこやかな笑顔を振りまく恰幅の良い商人と
そのお供の人らしい神経質そうな細身の青年の二人連れだった。
「いえいえこちらこそわざわざご面談頂きまして」
(ご面談?)何言ってるんだこの人
「それでご用件をお伺いしても?」
「ええ、ここで商人として雇い入れて貰えないかと思いまして」
「雇い入れるとは?」
「ココで扱っている商品の数々を私が彼方此方から
注文を取って参ります、貴方様はその注文通り
お届けして下されば売り上げは天井知らずです
私はその注文に見合ったお給料を頂くか
売り上げの何割かを頂ければ十分でございます」
「そう言うのはやってないんですよ」
「いえいえそれは勿体のうございます
売れると分かっている物を売らないのは商人として
いかがなものでございましょう」
「でしたらあなたがココから好きなだけ購入して
好きなだけ売り捌いて下さって結構ですよ」
「そうしたいのは山々ですが幾分人手が足りませんで
ココから商品を運び出すのも一苦労です」
「でしたら諦めてください」
「それならせめて荷馬車が出入り出来る道を作ってください
街道を作ろうと人夫が入ると森から出されてしまい
まったく進捗せずに困り果てているのです」
「それはこの森の意志そして精霊達の意志です
私にはどうにも出来ません」
「そんな事は無いでしょう
精霊達を手下にしていると聞いていますよ」
「本当にそう思いますか」私がニヤリと笑うと
「いえそんな滅相も無い」
そう言って慌てた様子が凄く面白くてつい
「それでは手下の精霊でもここに呼びましょうか
噂では確か私に逆らうとどうなるんでしたっけ?」
私が意地悪くそう聞くと
「いえいえ、では今日はこの辺で帰らせて頂きます」
そう言って慌てて応接室を出て行った。
まったくもって今日はつくづく面倒くさい事ばかりだと
思うしかなかった。
読んでくださりありがとうございます。