何か便利な物2
「さっきも気になっていたんですけどぉあれは何かしらぁ」
ウィンディーネが指さしたのは缶飲料の自販機だった。
「あれは缶に入った飲み物だよ」
「お酒もありますのぉ」
「お酒は無いよ、お茶やコーヒやジュース類だね」
「お酒はありませんのぉでも美味しそうですわねぇ」
「何か飲んでみる?」
「宜しいのですのぉ」
そう言って自販機の前に立ったが私は硬貨を持っていなかった。
エドガーが帳簿を付け出したので現金はすべて預けてしまった。
カウンターにある手提げ金庫の現金は今日の素材買取様で
うっかり間違えたりしたら計算が合わなくなって
エドガーに余計な時間を取らせる事になる。
前に後で返せば良いと手提げ金庫の現金で缶飲料を買って
返すのも報告するのもすっかり忘れ
エドガーに余計な仕事をさせてしまった経験がすでにある。
あの時に自販機用の硬貨を持ち歩こうと考えていたのに
それすらもすっかり忘れていた。
鳥頭の自分の頭を本気で殴ってやりたくなった。
するとそこにエドガーが現れて
「これをお使いください」そう言って硬貨を渡して来た。
それも麻袋に入りジャラジャラと音のする状態で
同じものをウィンディーネにも渡している。
「50枚程入れてあります、しばらくは足りるでしょう」
「貰っちゃって大丈夫なの?」
「帳簿には経費として既に記帳しましたから」
「ありがとうエドガー」
私はそう言ってから早速ミルクティーを購入した。
「こうやって買うのよ、
ウィンディーネも好きなの買って見るといいわ」
「それじゃぁ私はこれにいたしますわぁ」
そう言って缶に果実の絵が載った缶飲料を選んでいた。
やはり精霊は果物好きなのかと思った。
購入した缶飲料を手にカウンターへと戻ると
「このお金はどうしたら良いのかしらぁ」と
麻袋をジャラジャラさせながら私に聞いて来た。
ウィンディーネの服にはポケットの類が無く
その麻袋を仕舞う所が無い様だったので
カウンターの隅にでも置いて置く事も考えたけれど
犯罪を作る事にもなりそうなのでやめた。
すると前に漫画で読んで記憶に残っていた画像が浮かんだ。
唐草模様の大きながま口に紐を付けて首からぶら下げた
割烹着来たお祖母ちゃんの画像だ。
別にウィンディーネにお祖母ちゃんを重ねた訳じゃないけれど
等価交換様にがま口をリクエストすると
お洒落な柄の物が多かったのでその中の大きいサイズを選び
紐を付けて首からぶら下げてあげた。
そして麻袋から硬貨をがま口へと移し替え
「これでいつでも好きな物が買えるね」そう言うと
「何だかとっても嬉しいわぁ」と喜んでくれている様だった。
「今思ったんだけど他の精霊達にも必要かしら?」
「これは私の特別なの、欲しいって言われたら考えて」
ウィンディーネには珍しく早口で強く強調され
精霊でも特別を喜ぶのかと何となく思ったのだった。
そして私も柄の違う同じ様ながま口を購入して
硬貨を移し替えてからポケットに仕舞うと
「お揃いですわねぇ」とウィンディーネが言うので
何となくこそばゆい気持ちになったのだった。
素材の買取やアウトドアグッズや備蓄食料の販売は
何度か私がやって見せてウィンディーネに代わった。
するとウィンディーネは急かす様子も無いのに
手際よく冒険者達を捌いていて私以上の働きを見せ
私は自信を無くしかけたが
「ふふ、結構面白いお仕事ですわねぇ」などと
余裕を見せるウィンディーネに
それ以上に任せても大丈夫だと言う安心と信頼を覚えた。
そうして私がここに付いて居なくても良いだろうかと
そんな事を考えていると
明らかに冒険者とは見た目から違う商人一行らしき人達が入って来た。
「こちらで売っている物を一通り全部購入したいのだが」
商人の少し不遜な態度にイラっとして
「全部全種類ですか」私がそう聞くと
「出来ればそうしたい」と言うのでいたずら心が沸きだして
等価交換様の検索で上がるリストの数を告げてみた
「こちらの寝袋ですと1千万種類程ありますが全部ですか」
そう聞いてみた。
「1千万・・・・・」
「ちなみにこちらのテントも9千万程種類がありますし
この椅子もやはり1千万の種類がありますがどうしますか
それから備蓄食料などは数えきれない程の種類がありますよ
本当に全部お買い上げになるのですか」
「いや・・・・・・・」
「どういたしましょう」
絶句したままの商人に内心で『勝った』と思いながら
急かし畳みかけてみた。
「いや取り合えず展示している物をすべて頂こう」
そう言うので私は展示品をすべてコピーして行き
コンパクトに畳まれたままの物をカウンターに並べて行った。
すると「これは本当にあれなのか」そう展示品を指さすので
仕方なく広げて見せて「同じものですよね」と確認させた。
すると商人はすっかりと驚いていたが
私は既に勝った勝負に興味を無くしていたので
商人一行の事などどうでも良くなっていた。
すると「他に何か便利な物は無いのか」と
何処かで聞いたようなセリフを吐きだして来た。
確か前にこのやり取りをした冒険者も面倒くさかったなぁ
でもお陰でアウトドアグッズが売れる事になったし
ここは少し相手をした方が良いのだろうかとそう思った。
「何か便利な物と言う抽象的な物は売ってません」
「私はココまで歩く羽目になった、この私がだ
帰りもこの荷物を持って歩かなくてはならん
帰り道が少しは楽になる物が欲しい」
そうきっぱり言う商人に荷物を諦めろよとは言えず
帰り道が楽になる何かを考えてみた。
歩くのが楽になると言う事ならそう言う系のシューズだろうが
荷物を楽に持てるとなれば背負子リュックだろうしと
商人を頭の先から足の先まで観察をしてみると
動き辛そうな高級な服に歩きにくそうな革靴と言った格好で
お供の人は比較的ラフな服装だが歩きにくそうな布靴に木靴
そして布製のバックを背中に背負った格好の様子に確信し
エアシューズと荷物をたっぷり持てそうな背負子リュックを
「この靴は歩くのがとても楽になりますし
このリュックは荷物を沢山詰められそして楽に運べます」
そう言って出してみた。
すると既存の品ではあったが目新しさには触手が動いたらしく
手に取って色々確かめているので
「靴は足に合ったサイズが重要ですので履いてみてください」
そう言って一通りのサイズを用意し履かせてみた。
するとその履き心地と動きやすさに感動して
「これも人数分くれ」と購入していて
『何か便利な物』問題はひとまず解決した様だった。
そうして商人が去って行くと
「私には今の様な対処は出来ませんわぁ」
そうウィンディーネに言われ何となく納得してしまった。
でも折角のウィンディーネのやる気に水を差すのも嫌なので
「じゃぁ今の様なお客が居たら待たせておいて
私もこの素材買取所に時間を決めて顔を出すから
そうねウィンディーネが仕事を手伝ってくれるから
私はポーション作りも出来そうだし
アウラと森の散策も出来そうだけれど
居酒屋もあるしその前には必ずここに顔を出す
それで大丈夫じゃないかな」私がそう言うと
「それもそうですわねぇ我儘なお客は待たせましょうかぁ」
そうウィンディーネは納得してくれた様で私は安心した。
「じゃぁ明日からは一人で頑張ってくださいお願いします」
そう言ってウィンディーネに引き継いだのだった。
「ココは帰ろうとすると欲しい物が並ぶなぁ」
商人一行とのやり取りに興味を示し集まった冒険者が
独り言の様にそう呟くと
「仕方ないもう一泊して資金稼ぎに出かけるか」と
別の冒険者も言い出して
「そうだな大物を狩れれば如何にか買えそうだ」
そう言いながら冒険者達は来た道を戻り出していた。
ここ最近の冒険者の連泊の理由が判明した瞬間だった。
その様子を見て私の待機場所にと考えていた応接室に
アウトドアグッズや靴やリュックの在庫を揃えて置いた。
「ウィンディーネ何だか大変そうだけど頑張ってね」
そう言いながら在庫品の確認をして貰い
ここの補充は私がするからと念を押してから
「閉店時間になったら居酒屋で待ってるから来てよね」
「忘れる訳はありませんわぁ」と言う会話を交わし
私は居酒屋へと向かったのだった。
読んでくださりありがとうございます。