便利な物
ロックさん一家が宿泊施設へと引っ越しを終えまた空き家が増えた。
前まではあまり気にしてなかったのに
人が住み始めてみると気になって仕方ない
家って人が住まないと荒れるのも早いと言うし
この際売ってしまうとか解体してしまおうかと悩んでいた。
そんな事を考えているとフィリス師匠に頼み事をされた。
「薬草畑を増やして欲しいのよ」
「薬草畑ですか?」
「ローズちゃんが手を貸してくれるのでもう少しね」
フィリス師匠からの願い事など初めてだったので快く引き受けた。
私の家の側に作った畑だったので一応気を使ってくれたのだろうし
何より畑の管理や手入れはしても耕して広げる作業は難しいのだろう
そう考えて一応どの位広げれば良いかの判断の為に聞いてみた。
「畑に植える薬草の苗や種はどうするんですか」
「勿論森から採取してくるか株を増やすかするでしょ」
「森に採取ですか?」
森に採取と聞いてフィリス師匠が一人で森に入っているのかと
一瞬心配してしそんな事を聞いていた。
「ええシルフもアウラも持って来てくれるわよ」
なんだびっくりした
そう言えば私も苗や種はアウラ任せだったのを思い出していた。
それにしてもシルフもアウラもそんな事までしてたんだ
どうりで最近私の周りで姿を見る事が少ないと思った
でもそんなに色々動いて疲れないのかと少し心配になり
今日はまた美味しい果物でも差し入れしようと決めていた。
そんな事を考えながらフィリス師匠の家の
食材や日用品の補充を終わらせ
「私も近いうちまた調合を始められそうです
ポーションの新しいレシピは出来上がりそうですか」と聞いた。
「レシピならいくつか出来たわよ
ただ私の望んでいる万能薬に程遠いのだけれどね
ローズちゃんも最近はポーションを作る様になってるのよ
そのうちあなた追い越されてしまうかも知れないわよ」と
ローズちゃんの最近の活動状況を知らされ
「それは負けてられませんね私も頑張ります」と
社交辞令の様な返事をしたのだが師匠の顔が少し曇っていた。
「ただね浄化の修行が上手くいかないのよ」
「浄化ですか?」
「ここには瘴気が無いでしょう
だから上手くイメージ出来ないみたいなの」
師匠の話からとんだ弊害があった物だと私も頭を悩ませた。
確かにここに無い瘴気相手に浄化の練習は難しそうだと思っていた。
「そのうちに出来る様になるだろうしあまり心配はしてないけど
ローズちゃんが焦っている様でそこが心配なのよ」
師匠の話を聞いてなんとなく私に気に掛けろって事なんですねと
そう理解して「分かりました気にしておきます」と返事をし
そうして私は宿泊施設へと出向いて行った。
いつもの様に食材や日用品や備品の補充を済ませ
厨房に居たローズちゃんに声を掛けてみた。
「今日もお手伝い偉いね」
「コーちゃんおはよう」見た感じ元気そうだった。
「そう言えばフィリス師匠がローズちゃんのお陰で
薬草畑を広げられるって喜んでいたよ
もうポーションも作っているんだって?
そのうち私も追い越されるよって言われちゃった」
私がそう言うと
「でも浄化がうまく出来なくて」と俯いてしまった。
師匠が言ったようにやはり悩んでいる様だった。
「浄化かぁ、ココに瘴気が無いから困るね
アウラに瘴気の原因を聞いた事ある?
今度一度聞いてみたら良いよ
瘴気を浄化するより瘴気を生まない様にって思うから」
そう言って私は私なりの助言をしたつもりだった。
「アウラに聞くの?」
ローズちゃんが意外そうな顔をしてそんな事を聞き返すので
「シルフじゃ良く分からないでしょう」
私はローズちゃん問題はアウラに丸投げしてみた。
どう考えても私には
ローズちゃんの悩みを解決する策が思い浮かばなかったからだったが
きっとアウラなら解決してくれるだろうと信頼もしていた。
そしてダリルも頑張っている様だった。
冒険者に朝食を提供したり盛り付けを手伝ったり
洗い物をしたりと思ったよりテキパキと動いていた。
話しかけて手を止めさせるのも悪いと思い
私は退出直前にダリルに手を振っておいた。
そして次に温泉施設の商品の補充を済ませた。
売店の商品の補充はセリスが
そして自動販売機の補充は倉庫に置いておけば
マッシュがしてくれる事になっているので
倉庫にリスト通りに品物を購入して置いておくだけだったが
補充作業も結構な労働力を必要としていた。
今までだったらエドガーが先回りして作業していたり
待っていて手伝ってくれたのを当然のように受け止め
あまり深く考えなかったが
営業時間とシフトと労働時間を決めた事と
エドガーがオフィスで作業する事が増えたので
私は今までいかに気を使って貰っていたのか
そして楽な仕事をしていたのかを実感していた。
今までいかにエドガーが働き過ぎていたかと言う事だ。
私ももう少し要領のいいルーティーンを考えないと
また誰かに迷惑をかける事になると思っていた。
そして簡易休憩所前の軽食自販機の補充を済ませ
素材買取所を開けてソファーに陣取った。
居酒屋のランチ営業は宿泊施設に任せる事にしたからだ。
マリーさんはダリルが居るので
昼までに下準備を済ませてしまえば
後はロックさんに手伝わせどうにかなると言って
ランチ営業を宿泊施設でする事になった。
みんなが率先して仕事の効率を考えてくれていた。
お陰で私はかなり心にも時間にも余裕が出来て
こうして買取所のソファーでゆっくりお茶が出来ている。
そう思ったのもつかの間で
冒険者が一人現れると次々と並び出していた。
最近は素材を売りに来る人より
備蓄食料や他に何か便利な物は無いのかと
そんな風に尋ねて来る冒険者が増えていた。
どうも等価交換様の能力が噂になっている様だったが
それがどんな風に伝わっているのか
便利な物をと抽象的に言われても答える事が出来なかった。
「便利な物ですか」私がそう尋ねると
「そうだ便利な物だ」としか返って来ないので困る。
「温泉施設にある時計じゃダメなんですか」
「あんなお宝があるんだ他にも何かあるだろう」
「他に有ったらまた温泉施設に並べますよ」
「それじゃ困る俺は今日帰るつもりなんだよ」
冒険者とそんなやり取りをするのにも疲れ
「ここは素材の買取と備蓄食料の販売をしている所です
他に何かと言う抽象的なリクエストには答えられません」
私がそう強く突っぱねても冒険者は諦めなかった。
仕方なく以前サマサさん達に出して喜ばれた寝袋を出してみた。
すると冒険者は
「そうだよコレだよこう言う便利な物が欲しかったんだ」
そう言ってようやく納得してくれた。
すると他の冒険者達も寝袋を欲しがり出したので
私は思い切ってこの素材買取所に
アウトドアグッズを展示して販売する事にした。
テントに寝袋にチェアー等を大きさを変えて何種類か展示し
冒険者に選ばせて売る事にしたのだ。
これで便利な何かと言われる事は無いだろうと思っていた。
勿論お値段は購入時より利益上乗せにして
販売は等価交換様にコピーして貰いともうウハウハ状態。
私は何となく商売の面白さみたいな事を感じ始めていた。
読んでくださりありがとうございます。