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女神の間⑥ sideユリアーナ

ユリアーナ視点です




愛されたい。生まれて初めて言葉に出して言った。

幸せになりたい。生まれて初めて、心からの望みを言う事ができた。

この不可思議な出来事が夢だったとしても、自分の願いを言えたことに後悔はない。

言いたいことを言えた、それだけでこんなに世界が輝いて見えるなんて思いもしなかった。



絶望のどん底に落とされてから女神様の白い空間に来て、エミリアという少女に出会った。綺麗な金髪に真っ青な瞳をしたその人は、まるで絵本から出てきたお姫様みたい。王女である自分よりずっと本物の王女様みたいで羨ましかった。

そんな彼女にどうしたいのか問われて正直すぐに逃げ出したかった。でもそれ以上にここでも何も言えずに逃げ出すことが惨めで悔しくて、必死にその場にとどまった。気付けば心の底からの願いを口に出していて。私の手を取って微笑む青い瞳が眩しかった。


そんな彼女と生き返った際、どのような行動をするかを話し合った。ソファで向かい合わせに座りなおせば話しやすいのだろうが、女神様が隣にいるだけで安心感が違う。女神様には申し訳ないけれどお互いに傷心しているのでこんな形で話すことを許してほしい。それを承知なのか何も言わずに私たちの手を握ってくれる彼女の優しさが身に染みて油断すると涙腺が緩みそうになる。


「女神様、生き返ったときに注意すべき点はある?それに、身体が入れ替わるから記憶や知識を把握することはできるのかしら?」

『記憶や知識は体にもありますのでその点は問題ないでしょう。しかし肉体は生きていた時間の記憶しかないので一年前に戻った際、巻き戻っていた間の一年間の記憶は肉体にはありません。二人が入れ替わる以上、同じ日常を歩むことはないと思ってくれてかまいません。注意すべき点はどう立ち回るかでしょう。二人がされたように、奴はその場の状況や環境をうまく利用してきますから確固たる地位を固めていることが理想的です。悪魔もそう多くの人間を操ることはできませんから。それに悪魔は教会や聖職者を嫌います。わたくしを信仰する教会の本部がある国にいれば微力ですがわたくしも力になりやすいです』

「確かに、私もユリアーナも断罪された時は味方がいなかったし環境の改善が最優先ね。自分の身体ならともかく、入れ替わるからそこが一番難しいところだけど。そういえばプリシラたちはまた邪魔をしてくるのかしら」

『それはないでしょう。プリシラとアリサは悪魔が外部から連れて来た人間、使い捨ての操り人形のようなものです。あの狡猾な悪魔が同じ手を使うとは考えられませんし、万が一出てくるようなことがあればわたくしが排除しましょう。一度悪魔の手つきになった者はわたくしが介入できますので』

「よかった、それなら安心ね」


エミリアが率先して話を進めてくれるのでユリアーナが口をはさむことがない。少し寂しい気もするけど、口下手な自分ではきっと話は進まないのでありがたかった。


そして身体が入れ替わった際、最初にやるべきことを擦り合わせた。

まずエミリアがユリアーナになった場合は現在の環境改善が必須事項となった。誰も味方がいない状況ではさすがに単身で悪魔に立ち向かうことは不可能だ。少しでも立場が王女に相応しいものになるようにしなければならない。ユリアーナ自身は何一つ言い返せず周りの人間の言うことに従うしかできなかったが、気が強くはっきり言い返すエミリアなら変えることができるかもしれない。それにガージル王国は熱心な女神信仰の国で女神教の総本山である教会本部も王都にある。何かあれば逃げ込むことは可能だ。だが、王宮から教会までの移動手段がユリアーナにはなかった。いくら王都内と言っても徒歩だと小一時間はかかるので急ぎの場合は馬車が必須だ。そこはエミリアに自力でどうにかしてもらうしかないのでそれも一緒に伝えた。


「あの、こんなことを言うのもどうかと思うんですが……私、自国に大切な人もいませんし、思い残すこともないんです。唯一味方だった乳母は亡くなっていますし、王宮の人たちも学園の人たちも皆、苦手というか……」

「えぇとつまり、私の好きにしちゃっていいのかしら?」

「は、はい。エミリア様のお好きなようにしてもらってかまいません。たとえ誰かが亡くなったとしても心も痛まないっていうか……すみません、私……」

「いいのよ、ユリアーナがそう思うほど最悪だったんでしょう?あなたがそう言うなら私は私のしたいようにさせてもらうわ。ただ一応聞いておきたいんだけど、血のつながった実父や異母兄弟にも思うところは本当に何もないの?」

「ありません。あの人たちを家族と思ったこともないし、あちらもそう思っています」


今までで一番はっきりきっぱりユリアーナは言い切った。エミリアは目を見開いて驚いていたが納得したのかわかったわ、と頷く。ユリアーナにとってあの人たちは血の繋がった他人だ。実父である国王なんて完全に自分をいない者として扱っている。ユリアーナをいじめてくる側妃と異母姉のジェシカがいたからこそ存在できていたと言えるくらい無関心だった。彼らに思うことがあろうはずもない。


「ただあの、食事とか、着るものが質素で……おそらく人間関係より先にそちらの方が大変だと思います。起きたらたぶん冬なのでまず最初に暖炉に火を起こしてくださいね。薪はたくさんありますから。周りの人たちは皆私をいない者として扱うので基本無害なんですけど側妃と異母姉、その侍女には気を付けてください。あの人たちは直接手を出してくるので」

「わかったわ……その辺は覚悟しておくわね」


エミリアは複雑な顔で頷くとユリアーナの頭を撫でてくれた。どうして?ときょとんとしている自分にかまうことなく撫でてくれる。少し恥ずかしくなって女神様にきゅっと抱き付いた。



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