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女神の間⑤ sideエミリア



どうしたものかと頭を捻らせるとユリアーナはやっと口を開いた。


「エミリア様、生き返ることがどういうことなのかわかっていますか?」

「えぇ、もちろんよ。お互いの身体を入れ替えて生きるのでしょう。それも悪魔に狙われ――」

「それです!」

「えっ?」


言葉を遮っていきなり大声を出されてエミリアはびっくりした。ユリアーナは女神にしがみつきながら必死に言葉を紡ぐ。


「生き返るということは、エミリア様は私の身体に入れ替わるってことですよ!?言いましたよね、私には誰も味方はいない、名ばかりの王女だって。いつも側妃と異母姉に酷い言葉を言われて水をかけられて食事を抜かれて暴力も……身の回りを世話する人だっていない、存在していない者として扱われていたんです。そんな環境にエミリア様はなるんですよ?愛するご両親もいない一人ぼっちの中にあなたは取り残されるんです!それがどれほど辛いことなのかわかってるんですか?もっとご自分のことを考えてください!!」

「まあユリアーナ、あなた優しいのね。そんなこと気にしなくていいわ」

「そんなことって……」

「どちらにせよ、私はもう二度とお父様たちに会えない。それなら誰になろうが私にとっては大差ないの」

「あ……」

「私のことを心配してくれてとても嬉しいわ。私、家族以外にそうやって気を遣ってもらったことがないのよね。ありがとう、ユリアーナ」


エミリアが心からお礼を言うとユリアーナは複雑な表情をした。エミリアが無理強いをしているのに心配するなんて優しい子だ。どうしてこの子が過酷な状況にいるのか甚だ疑問である。やっぱり理不尽すぎてこのまま死ぬのは悔しく思った。


「エミリア様は、悪魔が恐ろしくないのですか?悪魔に狙われまたいつ絶望させられるかわからない恐怖に怯え続けるんですか?」

「逆に聞くけど、一度どん底を味わった私たちにこれ以上の絶望が存在するの?」

「それは……」

「私たちはもう二度と自分の身体に戻れない。私にとって大切だったのは家族だけ。その家族にもう二度と会えないのにどうやって絶望するのよ」

「そんなの、わからないじゃないですか。入れ替わってもあなたに大切な人ができたら結局は同じです。一生悪魔を警戒し続けて生活をするなんて不可能ですよ」

『それについてですが』


私たちのやり取りを聞いていた女神が口を開く。


『貴女たちが生き返る選択をした場合、身体と魂をわたくしの力で完全に定着させるので一生悪魔を警戒することはありません。悪魔が干渉してきたことでわたくしもある程度は力を使えます。そうすればたとえ絶望しても悪魔も手出しはできませんしわたくしがさせません。ただ、完全に魂を定着させるまで最低でも一年かかることと、その間は魂が不安定ですので絶望せずとも強いショックで魂が体から離れる危険があります』

「つまり、一年逃げ切れば私たちの勝ちってこと?」

『少なくとも悪魔の脅威からは逃れられるでしょう。奴も愚かではありません。やりすぎればわたくしが介入できますから、引き際はきちんと見定めているはずです』


その言葉を聞いてエミリアはうん、と頷いた。


「やっぱり私生き返りたいわ。倒せなくても文句の一つは言えるだろうし、やりたいことがいっぱいあるもの」

『でもエミリア、そう躍起にならなくても輪廻へ返って生まれ変わるという選択もあります。生まれ変わった時に記憶を残したいなら引き継ぐこともできますし、今生き返ることにこだわらずともいいのですよ』

「えっ、そうなの?」

「……生まれ変わったら私たちは愛し子ではなくなるんですか?」


生まれ変わっても記憶が引き継げるならエミリアとしては別にそれでもいいかと一瞬思った。悪魔をぶん殴りはできずとも違う人生をやり直すのも悪くない。しかしその後ユリアーナが聞いたことに女神は目を伏せる。


『いいえ、生まれ変わっても貴女たちはわたくしの愛し子となります』

「……もしかして、生まれ変わっても悪魔に狙われるんですか?」

『悪魔に見つからなければ大丈夫です』


目を伏せる女神の表情がその見つからない保障がないことを物語っていた。

つまり、今生き返って一年間逃げ切ればその後の人生は少なくとも悪魔からは逃れられる。しかし生まれ変わっても悪魔に見つかれば一生魂を狙われ続ける。生まれ変わっても記憶の有無は選べるみたいだが、悪魔に食べられれば結局私たちの魂は消える。


期限付きか、一生か。


どちらにせよ、悪魔に狙われることは変わらない。女神が執念深いと言っている双頭の悪魔が生まれ変わったエミリアたちを探さないはずがない。生まれ変わっても必ず悪魔の脅威に晒されるのは目に見えていた。それでも限られた選択肢を女神は私たちに選ばせてくれた。女神が嘘を言っているようには見えないし本当にできることが限られていたのは理解できる。最初から全ては話さずに足すように話して言ったのはエミリアとユリアーナに話し合わせるためだろうし、そうしないとエミリアが一方的に答えを決めてしまいかねないのは想像に容易い。

エミリアは女神から体を離すといまだに彼女にしがみついているユリアーナを真っすぐ見る。エミリアとしては考えは変わらない。それなら後は決めてもらうだけだ。


「ユリアーナ」

「…………」

「あなたが決めていいわ。あなたが輪廻へ返りたいなら私はそれに従う」


ユリアーナは目を見開くと俯いてぶるぶると震えていた。おそらく彼女も生まれ変わっても悪魔に見つかってしまうことは予想できている。ここでエミリアが生き返りたいと言うのは簡単だ。でもそれではいけない。生き返るならユリアーナにも選んでほしかったし、そのことでエミリアに責任を押し付けられても困る。卑怯かもしれないがエミリアは選択をユリアーナに委ねた。エミリアとしてはもし生まれ変わっても悪魔に立ち向かうつもりなので彼女がどんな選択をしようがやることは変わらない。


「私……」

「うん」

「……っ……」


少し顔を上げたユリアーナが怯えるようにエミリアを見た。何か言おうとして口を開けてはいるがなかなか言葉が出てこない。


「ユリアーナ、別にあなたがどんな選択をしても怒らないわ。私のやることは変わらないもの。今までの話を振り返ってみてあなたの素直な思いを教えて。言いたいことははっきり言わないと伝わらないわ。わからないならわからないでいいの。それが答えなんだからその時は女神様と一緒にもう一度話し合いましょう」


いつまでも言い出さないユリアーナに少し苛立ったがそれを表にはださず、務めて冷静にエミリアは言った。ここで声を荒げて怒鳴り返したら話し合いどころではなくなってしまう。エミリアは言い返したいのを我慢して根気強くユリアーナが言い出すのを待った。そしてついにユリアーナが口を開く。


「わ、私、今まで良いことがなくて、辛くて……だから、終わりたいって思って……」

「うん」

「でも……本当は、このまま死ぬのが怖い、怖いんです……」


顔を俯かせて怯えていた彼女は顔を少し上げた。


「……私が生まれ変わったら、両親に、誰かから愛されて生まれますか?」

『それは、必ず保障はできません。輪廻へ返せても生まれる先までは選ぶことはできないのです。貴女が生まれてきた場所のように』

「…………エミリア様のご両親は、その……」

「私のお父様もお母様もこっちが呆れるほど子煩悩よ。私の欲しいものは何でも買ってくれるし何でも聞いてくれるもの。そんな二人だから私も今までやってこられたしね」

「…………」


エミリアと女神の言葉を聞いたユリアーナは深呼吸をした。そして今度こそきちんと顔を上げるとエミリアの青い瞳を真っすぐ見つめ返して口を開く。


「わ、私は、誰かに愛されて生きたい……悪魔に一生怯えて生活なんかしたくない。もうこれ以上苦しむのは嫌っ!私も前を向いて、生きたい、生きたいんです」


ぼろぼろと涙を零しながらユリアーナは必死に言葉を紡いだ。エミリアはそんなユリアーナの手を取るとぎゅっと握りしめる。


「私も同じ気持ちよ。悪魔に一生怯えて生活するなんてまっぴらだわ。それで、どうしたいの?」

「生き返りたい……一年間逃げ延びて、私は、私は幸せになりたい!」

「ええ、ええ、もちろんよ!そうと決まれば作戦会議だわ!これからよろしく、ユリアーナ!」


エミリアは嬉しそうに頷くと立ち上がってユリアーナに抱き付く。うわああんと泣き出した彼女の頭を撫でながら泣き止むまで抱きしめ続けた。


そんな二人を女神は不安そうな顔で見つめていた。



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