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王太子の哀愁

前半エミリア視点、後半レオナルド視点となります




「ユリアーナ!!」


王妃とのお茶が終わり、自室へ戻っていたところでレオナルドが慌ててこちらへやってきた。息を切らしながらエミリアの両肩を思い切り掴んできたので思わず仰け反って倒れそうになる。


「わわっ、ちょっと!」

「ユリアーナ、お茶を飲んだか!?」

「の、飲んでいませんけど」

「それ以外は!?王妃様から出されたものには口を付けていないな!?」

「は、はい」


レオナルドの物凄い剣幕にコクコク頷きながらエミリアは素直に答えると彼は安心したように大きく息を吐いた。


「よかった……本当によかった…」

「あの、大丈夫ですか?」

「あぁ、ありがとう、大丈夫だよ。もう王妃様からお茶に誘われても全て断って構わない。私がよく言い聞かせておくから。あとは絶対に一人にならないでくれ」


力なく笑うレオナルドに色々と言いたいことをエミリアはぐっと飲み込む。この様子だと毒のお茶やユーリディアの死因について彼も知っていたようだ。何て声をかけたらいいか迷っていると、レオナルドはエミリアの手を取って歩き出す。


「部屋まで送るよ。もうすぐ陛下も帰ってくるだろうから、それまでは部屋にいなさい」

「王太子殿下、あの」

「すまない、今は何も言わず部屋にいてほしい。頼む」

「……はい」


そのまま部屋に着くまでお互い無言で過ごし、到着すると部屋に押し込まれるように中へ入れられた。レオナルドはどこか寂しそうな顔で笑うと無言のまま扉を閉められる。


「…はぁ、先が思いやられるわね」


あとで何があったのかでツェッドと一緒にレオナルドにはきっちりみっちり話を聞くことにしよう。これ以上話がおかしな方向へ行かないことを願いながら勉強の準備をするために本を広げた。









生まれた時から両親に愛されていないことはなんとなくわかっていた。国王の正妃である母はひたすら父の背中ばかり見つめてこちらを見ようともしない。父は父で私を息子としてではなく『王子』『跡取り』というカテゴリーでしか見ていなかった。父にとって私は『王子』という役割。そこに愛情など一切なかった。

寂しくなかったと言えば嘘になるが、私に対してあまりの無関心さに見かねた祖父二人が代わりに愛情をたくさん注いでくれた。前国王であるアルド・ルイフォン・ガージルとその腹心で当時宰相でもあったロバート・アルメーニャ公爵だ。特に当時公爵家当主でもあったロバートおじい様は国内外問わず大変腕の立つと評判の良い公爵で、その名に恥じぬ立派なお方だった。国王の腹心であり、右腕でもありこの人の功績を挙げるときりがないほど。私や異母弟のツェッドが腐らずまともな思考の人間に育ったのは間違いなくこの人のおかげだった。ただ一つこの人が選択を誤ったことを挙げるなら、母を王妃にしたことだろう。


母は父を愛していたらしい。父と同い年、公爵令嬢という高い身分、父親は国王の腹心という条件が揃えば父との婚約はあっという間に整った。父が当時母をどう思っていたかはわからないが、今ほど無関心ではなかったと聞く。学園で卒業を迎えたら婚礼することは兼ねてより決まっていた。学園で過ごす最後の一年を迎えた春、学園に新入生としてやってきたのが当時男爵令嬢だったユーリディア様だ。そこで父は彼女と出会い、恋に落ちた。

学園で何があったのか詳細は私にはわからない。でも当時を知る人たちが揃って言うことはユーリディア様は身の程をよくわきまえていたということ。父は母と婚約を解消し、ユーリディア様を王妃に迎えたかったそうだが、彼女はその申し出をきっぱり断り側妃になることをおじい様たちの前で父に説いて見せたという。その姿に感心したおじい様たちはユーリディア様を側妃へ迎えることを許したそうだ。当時王妃であった祖母だけはずっと反対し続けていたがそこは祖母の実家であるラフィリア伯爵家が止めてくれたらしく、ユーリディア様の輿入れはひっそり静かに行われた。それと比例するように、王太子妃となった母との結婚式は国を挙げて盛大に行われたが、その夜父が母の寝室に訪れることはなかったらしい。


母はずっと己の境遇を嘆いていた。こんなはずではなかったと。確かに王から見向きもされないお飾りの王妃と聞けば哀れだ。でも母は嘆くだけで何もしなかった。ただただ父を見つめ続けて対話すら自ら一切しようとはせず、父が自分に話しかけてくれるのをずっと待っていた。ユーリディア様しか見つめていない父が母に振り返ることなんてあるはずないのに、母は周りがどんなに説得しても聞く耳すら持たなかった。

ロバートおじい様は母を父と結婚させたことを死ぬまで後悔し続けていた。幼い頃から王妃になるべく教育されていた母の苦労と父への思いを無下にできず、婚約を続行してしまったと。私に対しても申し訳ないことをしてしまったと病床に伏してから毎日謝られた。謝られたところで私の心に両親への愛などほとんどなかったから、特に感じることは何もない。ただおじい様には穏やかな気持ちで女神の楽園に行ってほしかった。


ロバートおじい様が亡くなり、その翌年にアルドおじい様も亡くなると私はひとりぼっちになってしまった。私を育ててくれたのはおじい様たちだったのでいなくなってしまったのは本当に寂しい。幼いツェッドには私がついている。私をにいたま、と呼びながらひよこのようによちよちついて来る様は可愛くて、おじい様に言われた通り立派に育ててみせようと思った。でも私についてくれる人はどこにもいない。母の兄である伯父は私に立派な王になるよう言うだけであとは何もしてくれない。どうしても耐え切れない想いがこみ上げてきて、寂しさを紛らわすために王宮から一番遠い離宮の庭で蹲って泣いた。そのとき、私に声をかけてきてくれた人がユーリディア様だった。




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