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王子たちとの邂逅③ sideエミリア




「えぇ?側妃の子なのに王妃様の実家で育てられたの?」

「ああ、俺が生まれた頃には兄上が王太子に指名されていたから、継承争いを起こさないために父上が決めたそうだ」

「本来ならそれはあまり良い方法ではないけど、ツェッドの場合はよかったのかもね。あなたには悪いけどあの側妃の元で育ったら間違いなくこの王宮は荒れてたわ」

「それは皆に言われる。俺自身、父上のこの判断には本当に感謝してるよ。絶対に碌な人間に育たなかったと思う。最近では特に母上や姉上のヒステリックさには付き合いきれなかったし、正直言えばあの人たちがいなくなってよかった。親不孝な息子で申し訳ないけどな」


ツェッドは苦笑しながらクッキーをつまみ、エミリアは優雅にお茶を飲んでいる。エミリアとツェッドが話し始めて十分もすると、すっかり二人は打ち解けてお茶をしながら話し込んでいた。兄妹というより友人同士の気安い関係のようである。元々ツェッドに堅苦しさはなく話しやすいタイプだったのも相まって会話が弾んだ。第二王子なだけあって貴族の派閥にも詳しいので大変ありがたい。


「側妃様がいなくなって今どんな状況なの?そういう情報は一切入らないから教えてほしいんだけど」

「今は状況がよくないな。貴族派筆頭の母上の実家が降格されただけじゃなく王妃様の兄のアルメーニャ公爵が宰相職を事実上の解雇だ。アルメーニャ公爵家を筆頭とした王家派は国王の信頼を失ったから兄上の王太子の地位を維持するのに必死さ。今の状態だと俺とユリアーナに有力貴族の後ろ盾が付いたらひとたまりもないから」

「それは面倒ね。王位継承なんてどうでもいいけど、私は最低限の後ろ盾は欲しいから火の粉が飛んでくると困るわ」

「そうだな。俺は兄上に忠誠を誓ってるからともかく、ユリアーナは後ろ盾を得るなら慎重になった方がいい。最悪実力行使に出かねないから。まあ、ユリアーナの場合は父上が付いてるから大丈夫だと思うけど」


そこでツェッドは一息つくとエミリアを見た。どうしたのかとエミリアは首を傾げる。


「なんだか不思議だな。こうやってユリアーナと話せるようになるなんて以前は想像もできなかった」

「以前は話す機会すらなかったの?」

「前は俺がユリアーナに話しかけただけで母上と姉上がお前に手を出していたから、それ以来近づかないようにしてたんだ」

「そう……」

「ごめん、またこんな話になって。でも助けようにも、ユリアーナの周りにいた給仕たちは皆貴族派の出身だったから何かあればすぐに母上に伝わるような状態だったんだ。兄上もアルメーニャ公爵に掛け合ってくれたんだが貴族派との対立を悪化させかねないから手出しできなくて」


申し訳なさそうに言うツェッドに納得した。王太子の地位を確立している第一王子がいる以上、どこの派閥にも属さないユリアーナを助けるメリットは王家派にない。ツェッドも王家派に育てられて王太子と仲が良く、さらに忠誠まで誓っているなら現状維持を優先する。この国の王位継承順位は生まれた順だが最終的に時期国王を決めるのは現国王だ。王家派が信頼を失ったのならそれは焦るだろう。今国王は完全にユリアーナだけを優遇しているし、国王の気持ち次第で王太子はいつでも変更可能だ。

ていうか、これってエミリアの立場が危ないのでは?このままでは野心ある貴族にエミリアが時期国王として担ぎだされかねない。後ろ盾を得てさっさと安定した地位を確立したいのにこれでは地位があやふやで中途半端だ。今王位継承争いなんてことに巻き込まれたらそれこそ悪魔に付け込まれ放題である。王太子が指名されているから王位継承については無縁だと安心していたのにまさかの伏兵だった。何でこんな面倒事を国王はエミリアに教えないのだ。一応娘を大事に思っているなら最低限の報告くらいしてほしい。ここでツェッドに教えてもらわなかったら全て後手にまわっていた。


「はぁ、頭が痛いわ」

「えっ、ユリアーナ大丈夫か?」

「そういう意味で言ったんじゃないわよ。もう呑気に勉強なんてしてる場合じゃなかったわ!今すぐ陛下に王位継承の放棄を宣言してくる!」

「ばかやめろ!今そんなこと言ったら余計荒れるだろうが!父上の言う事は絶対なんだぞ!一度宣言されたらもう誰も覆せないんだから大人しくしててくれ!」

「はぁ?国王が絶対なわけないでしょ?何のために貴族院や派閥があると思ってるのよ」

「父上の母、王太后様の生家はこの国一番のラフィリア商会なんだよ!国の商売ほぼ牛耳ってるし周辺諸国含めても一番の大富豪だ!そんなとこに動かれたらひとたまりもないんだわかれ!」

「ちょっと何でそれを早く言わないのよ!危うく下手を打つとこだったじゃない!」

「いやだってお前が急に飛び出そうとするからだろ!何でそんなに無鉄砲に動こうとするんだ!」

「うるっさいわね!そういうことは誰も教えてくれないからわからないのよ!それにまだ私は勉強中なの!!」

「だからそれを今説明してるんだろう!まず話を聞け!!」

「二人とも、どうしたんだ?」


完全なエミリアの八つ当たりにツェッドもむっとなってあわや言い争いに発展しそうになる寸前、突然温室に第三者の声が聞こえた。

振り返るとそこには第一王子であり王太子でもあるレオナルドがいた。雪が降っていたのかライトブラウンの髪や肩に雪が付いている。ツェッドと似たような登場にデジャヴを感じた。


「ツェッド、ユリアーナと随分仲良くなっていたんだな」

「あ、兄上、これは・・・」

「別に仲が良いわけではありません。少しお話しをしていただけです。それよりどちら様でしょうか。私、あなたに名乗った覚えはありませんけど?」


エミリアが冷たく言い放つとツェッドがぎょっとしてこちらを見てきた。レオナルドとエミリアを交互に見ながら口をパクパクさせて何か言おうとしているがうまい台詞は思いつかないようだ。当のレオナルドはただ静かにエミリアを見つめている。


「私もユリアーナと話したかったんだが、難しそうだね」

「はぁ、ご自分の名前も名乗れない人と話をする気はございません。どうぞお帰りになってください」

「おい、ユリアーナッ」

「あのねツェッド。挨拶も自己紹介もないことが相手に対してどれだけ失礼なことかおわかり?名乗るに値しない相手って見下されているのよ。人をバカにするのも大概にしてほしいわ」


エミリアの鋭い視線にツェッドは気押されてレオナルドの方を見た。確かに彼女の言う通り名乗ってもいないし二人の会話は成立していない。どちらかと言えばレオナルドの方が悪い気がする。せっかく兄妹で会えたのにこんな重い空気では何も進まない。何かいい案はないかと思考を巡らせるが社交の苦手な自分では思いつかなかった。


「すまない、ユリアーナ。名乗らなかったことを謝罪させてほしい。言い訳になってしまうが君の変わりように驚いて言葉が出なかった」

「……」

「私はこの国の第一王子、レオナルド・アルメーニャ・ガージルだ。王妃様の子で君と異母兄妹になる。今日はこれまでの謝罪と今後のことについてツェッドと三人で話したいと思いここへ来た。私もこの席にご一緒させてもらってもいいだろうか?」

「いいですよ。どうぞおかけになって」

「えっ!?いいのか!?」


レオナルドの同席をあっさり許したエミリアにツェッドがまたも素っ頓狂な声を上げた。当のレオナルドも驚いて目を見開いている。


「まったく、最初から素直に名乗ればいいのよ。次期国王になられる方がこのようでは先が思いやられるわ。もっとしっかりしてくださらないとこっちの手間が増えるじゃない」

「……」

「…………」


続いたエミリアの悪態に王子二人が何も言えずにいると彼女はお茶菓子を追加するようマルティに命じている。レオナルドとツェッドはお互いに顔を見合わせると苦笑いしながら大人しく席に着いたのだった。





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