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王子たちとの邂逅 sideエミリア

お待たせいたしました。




ユリアーナの父親であり、ガージル王国国王シリウスから王女認定を受けてから2週間。みすぼらしいボロ小屋から王宮にある本来の部屋へ移り住んだエミリアは大変多忙な毎日を送っていた。

国王から謝罪を受け、王宮を案内してもらいながらまずは王宮内の部屋の位置を把握し王国の役職や貴族内の派閥関係をそれとなく教えてもらった。いくら国王が自分の味方とはいえ現在エミリアには後ろ盾が全くない状態。それはいくら王女であっても後ろ盾の有力貴族がいなければその身分はあってないようなものだ。後ろ盾なくしては下位貴族と同じ扱いを受けても文句は言えない。上辺だけの挨拶をされて軽んじられるのは目に見えている。だからこそ入れ替わる前のユリアーナは学園においても貴族から軽視され、たかが婚約者候補の令息に言いたい放題言われ続けることになった。大人しいユリアーナの性格もそれを増長させる要因であったが、その状態では毅然と言い返しても効果はなかっただろう。とにかく、今のエミリアに必要なのは有力貴族、あるいは力のある商人などの後ろ盾だ。女神が言っていたように悪魔に脅かされる前に確固たる地位を築いておきたい。

そのために今は国王にお願いをして教師を雇ってもらい勉強に励んでいた。知識面ではユリアーナの記憶が大変役に立っており、またエミリア自身も王妃教育を受けていたので基本的な知識と行儀作法についてはほとんど問題ない。しかしそれでも学園内での勉学しか学ぶことのできなかったユリアーナにも足りない知識はあり、今その足りない部分を埋めているところだ。主に有力貴族たちの派閥や力関係、どのように領地で収入を得ているか、国の歴史・周辺諸国の情勢など様々だ。これは高位貴族、ましてや王族であれば必要不可欠の知識で、万が一派閥争いがあった場合王家が仲裁をすることもある。また、そういった貴族間のバランスを調整するために政略結婚などがあるのでこの先の将来も見据えてエミリアの後ろ盾となってくれる貴族を鋭意模索中だ。

ただ、後ろ盾のことは国王とも話し合っていきたい。派閥関係の問題もあるので結構デリケートな問題なのだ。だが当の国王はその辺りの話は一切してくれないので少し不安でもある。なのでエミリアはまず足りない知識を補いつつ、各貴族の性格や派閥を知っていくことに今は時間を使っていた。


そう、自分に足りない知識を得るために一生懸命勉強しているのだ。エミリアは。


「ユリアーナ、この前知りたがっていたものの資料を持ってきた。なんだ、以前の資料をまだ読み終わっていないのか。資料の二十冊くらい、数時間で読みえるだろう。早く読んでしまいなさい」

「ユリアーナ、ここの綴りが間違っている。この外国語を学ぶのは初めて?辞書や教材を一度見れば綴りくらい間違えずに書けるだろう?」

「何故ユリアーナの勉強はあまり進んでいないんだ?十分進んでいる?私がこのくらいの年齢だった時、倍はこなしていたのに?」

「ユリアーナ、どうして何度も同じ単語や文章を書く必要があるんだ?それじゃ時間がかかって非効率的だ。そんなもの一度読めば覚えられるじゃないか。え、できないのか?」


国王に上記のような言葉を毎日毎日毎日言われ続けたエミリアは、頭の中で何かかがキレた。元来気が長い方ではないエミリアにしてはよく持った方だ。持っていた羽ペンがボキリとへし折れる。ユラリと立ち上がるとエミリアのすぐ隣に図々しく居座っている国王を見据えた。


「ユ、ユリアーナ?」

「陛下が私に才能がないと言いたいのはよくわかりました!!陛下のご助言がありながらご期待に沿えずお詫びいたします!!私には努力が足りないようですのでこれからは一人で勉強しますわっ!!わざわざ陛下のお時間を割く必要はございませんのでもう二度と勉強に付き合う必要はありませんからっっ!!!」


特別意訳:勉強できなくて悪かったわね!すぐ隣でいちいち文句言ってきて迷惑なのよさっさと出ていけ朴念仁!!二度と来ないであとで塩を撒いてやる!!


ただならぬ怒気を纏ったエミリアに国王と護衛騎士が怯むと彼女の怒声が響き渡る。たまたま部屋の前を通りがかった文官は驚いて持っていた書類を落とし、部屋のすぐ側の中庭で雪かきをしていた庭師はひっくり返った。

呆然とエミリアを見上げる国王の返答を待たずエミリアは今一生懸命覚えようとしていた資料の束を握りつぶしながら持つと部屋から出て行った。


この国王の言葉の数々にエミリアはキレました。ええ、それはもう見事にブッツリと。

国王が一度読み書きしたものは絶対忘れない天才だということはよお~~~く理解できました。本や資料はパラパラっと目を通しただけで一字一句間違えずに内容を全て覚えられる超人だということも本っっっっっ当によくわかりましたっ。

元来勉強が苦手なエミリアは人の何倍も努力しなければ身に付かないのでそれこそ身を削って勉学に励んでいる。自分が王族に相応しいと思われるようエミリアなりに頑張っているのだ。それを褒めるどころか貶されれば誰だって怒るし落ち込む。悪気はないのだろうが気遣いの気の字すらできない国王に腹が立つ。今エミリアは止まっている暇はない。悪魔が動き出す前に地位を固めておかなければならないのだ。正念場でもあるのにこの国王は迷惑以外の何物でもない。この国最大の権力者であり現状、エミリアの唯一の味方でもある人物が最大の弊害となっていることに頭を抱えた。

怒気を纏いながら鼻息を荒くして廊下を歩くエミリアに給仕たちは顔を強張らせながらお辞儀をしてきた。王女に対して当たり前の行為だがいまだにエミリアは王宮務めの人たちを許せていない。給仕たちの顔を確認してはユリアーナに何をしたのか記憶を確認するのが癖になっていた。ちなみに今すれ違ったメイドはアンジェリーナに紅茶をかけられたユリアーナを見て鼻で笑った奴だ。後で国王に給仕たちの配置変えをお願いするリストに加えるとしよう。


「ユリアーナ殿下、どうされたのですか?今は座学のお時間では……」

「今日から勉強は陛下抜きでやるわ。マルティ、どこか一人になれる場所……図書室や温室は空いているかしら?」


大変不機嫌な顔で自室に帰ってきたエミリアをドレスの整理をしていた侍女のマルティは驚いて声をかけた。だが彼女の様子を一目見て察すると苦笑しながら確認して参ります、と言って素早くドレスを片付けて退室する。彼女はエミリア自ら侍女として選んだメイドだ。初日以降、エミリアが王宮内にある礼拝堂で毎日女神に祈りを捧げていたところに同じく毎日祈りに来ていたのがマルティだった。これほど熱心な女神教の信者であればまず悪魔に操られる可能性は低い。それに彼女はまだ勤め始めたばかりの新人メイドでどこの派閥にも属していない子爵家の三女だった。侍女にするにはうってつけの人材で礼拝堂で居合わせるようになった四日目にその場で侍女にならないかとスカウトしたのだ。もちろん国王には許可を取っていたので手続きはスムーズに進んだ。まだ完全に信用しているわけではないが真面目に仕事こなすマルティを侍女にできたのはラッキーだったと思う。


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