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公爵夫妻の謝罪 sideユリアーナ




あれから数日後、ルドガー公爵家から正式な謝罪がきた。しかも公爵夫妻自らレクストン公爵家に訪れてユリアーナに直接謝りたいとの申し出だ。だがユリアーナは彼らに会うつもりはない。長年エミリアを苦しめてきたマイクを許す気はないしその対応はエミリアの両親に委ねることにした。レイチェル様が少し不安だがあの様子だともう大丈夫だと妙な確信がある。現に婚約継続について一切口に出すことはなく、公爵と一緒に婚約解消へ動き出しているみたいだ。ユリアーナはルドガー公爵には会わず彼が帰った後にマイクの処罰について公爵夫妻から詳細を教えてもらった。

ちなみにエミリアを庇ったソフィアは怪我はたいしたことはないものの、そのまま風邪をひいてしまったらしい。熱が下がっていないのでまだお見舞いはできていないが彼女の好きなものを届けるようメイドにお願いしておいた。後でたくさんお礼と謝罪を彼女にしようと思っている。


「ルドガー公爵家から令息のことを罪に問わない代わりに多額の慰謝料を提示された。令息はルドガー公爵家を除籍の上辺境の騎士団へ入団し、そこで一般兵として一生を過ごすことになる。当然殿下の側近は首だ。私としてはしっかり裁判まで持ち込みたいところだったが、ルドガー公爵は私たち夫婦の結婚を後押ししてくれた恩があってな、正直強く言えない部分もある。でも潔く息子を切り捨てたし、殿下との婚約解消について一切口出しをしない約束をしてくれたのでこの処分で一応合意した。あとはエミリア次第だ。君がこの処分で納得するならこのまま進めるし、納得しないなら要望を言いなさい。なるべく君の要望に沿うように処罰しよう」

「私は彼を殿下の側近から外すこと、そして彼と二度と会わないようにしてくださるのなら他に要望はありません。それさえ約束していただけるなら両家で合意したものでお願いします」

「わかった、約束しよう。ルドガー公爵とはその方向で話を進める」


公爵は穏やかに頷いた。エミリアにとって天敵であったマイクがいなくなったことに一安心である。これでジュードがマイクの話を鵜呑みにするようなことはなくなるはずだ。

ユリアーナはほっとすると向かい側に座っているレイチェル様をちらりと見た。レイチェル様は先ほどからずっとそわそわしながらユリアーナの様子を伺っている。これはユリアーナから話かけた方がいいのだろうか?


「えぇと、お母様、どうかされたのですか?」

「っ!あ、ええええと、そのっ、お母様は別に暴力の趣味があるわけじゃないのよっ?」

「レイチェル、それではエミリアに通じないよ。でもその前に言うことがあるだろう?」

「……エミリア、本当にごめんなさい。私の祖国が攻撃的な侵略国だと、現皇帝であるお兄様を悪く言われたくなかったの。そう思われたくないあまり、エミリアと王太子殿下との婚約を重要視しすぎて何も見えなくなっていたわ。あなたが今まで苦しんでいたことを見て見ぬフリをし続け、結果的にあなたを危険な目にあわせてしまった。本当に、本当にごめんなさい」

「私もだ、エミリア。君の変化に気付いていながら調べもしなかった私も同罪だ。本当にすまなかった」


公爵とレイチェル様は姿勢を正すとユリアーナに向かって頭を下げて謝罪した。正直その言葉をユリアーナが聞いても何も心に響かない。エミリアが仕事を手伝っていたことをレイチェル様が知っていながら黙っていた件についてユリアーナはいまだに失望している。しかも学園内でエミリアがどんなめに合ってきたのかも把握していたなんて信じられなかった。あんなにエミリアが辛い思いをしていたのに、気付いていて黙認していたなんて。一瞬で頭に血が上り、痛いほど拳を握った。この場にいたのがユリアーナで本当によかった。エミリアの愛した母親がこれを黙認していたなんて絶対に知らせたくない。これ以上エミリアを傷つけたくなかった。

そしてその謝罪はエミリア本人に言ってほしかったがもう彼女は二度とここへ帰って来ることはない。どうしてエミリアがこの世界にいるうちに言ってくれなったのだろう。それが悔しくて握り続けた拳にさらに力がこもる。ただ、彼らが心から自分の過ちを認め、謝罪しているその意思は理解できた。


「あの、その謝罪は私の記憶が戻った時にしていただけませんか?確かに私も嫌な思いをしましたが一度だけですし、記憶を無くす前の私の方がもっと長い間苦しんだのだと思います。今の私に謝罪されても、困ります」

「そう、だな。その時が来たら改めて謝罪しよう」

「……そうね、ごめんなさい。私もそうするわ」


公爵夫妻は涙目で寂しそうに言うが、ここでユリアーナが彼らを許すことはできない。彼らを本当の意味で許せるのはエミリアだけであり、その彼女はもうここへ帰って来ることはない。だからこそ、ユリアーナが公爵夫妻を許すことは絶対にしない。それがエミリアがこの世界で生きているうちに過ちに気付けなかった彼らへの罰だと思った。




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