表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/41

目覚め sideユリアーナ

ここからはポーレリア王国エミリア・レクストン公爵令嬢になったユリアーナ視点となります。




真っ白な眩い光に包まれて目を閉じる。そして目を開けると見慣れない天井が見えた。

なにが起こったのかわからない。目を瞬かせながら体を起こそうと動いたがズキンと頭痛がして酷く体が重かった。それでもなんとか起き上がると辺りを見回す。高価な机やソファが置かれた豪華な部屋だ。お姫様のような部屋で暖かく、窓から覗く空は爽やかな晴天の青に染まっている。部屋は窓からの光に満たされてとても明るかった。

ユリアーナは真新しいベッドから降りると側にあるドレッサーへ腰かける。くしゃくしゃになった髪の毛を手櫛で整えるとなんとか櫛を入れられるようになる。髪の毛に櫛を入れるのに苦労なんてしたことがないのに何の違和感もなく一連の作業ができた。

そのまま髪の毛を櫛で梳いていると、ドレッサーの鏡が目に入る。そこを覗き込むと美しい金髪に真っ青な瞳の少女が写った。一瞬誰かと思い、目を擦ってもう一度鏡を覗くと今度こそはっきり自分の存在を認識する。

その瞬間、女神様のこと、元の世界でのこと、エミリアのこと、そして悪魔によって死んだことが脳内を駆け巡った。あまりの情報量の多さに頭を抱えるとその場にしゃがみこむ。


「そうだ、私たち、身体を入れ替えて……ここはエミリア様の国で」


静かな部屋でその独り言はやけに鮮明に聞こえた。頭に重く圧し掛かった何かはすでになくなって今は頭がとても冴えわたっている。すっと顔を上げるとユリアーナは辺りを見回した。

内装も家具も着ている服まで何もかもが豪華で上質なものだった。自分との生活の差に落ち込むと、サイドテーブルに水差しが置いてあったので匂いや色を確認しながら少し飲んだ。そのままコップ一杯の水を飲み干すと再びベッドに潜ってこれからどうすればいいか考える。


「えぇと、ここにはたくさん人がいるから……とりあえずここにいればいいの、かな?」


ベッドの中でふかふかの毛布に埋もれていると部屋の扉が静かに開いた。その音にびくりと体を震わせると部屋に入ってきた人物は息を飲む。


「……お嬢様?エミリアお嬢様!目が覚めたのですね!!」


茶髪のそばかすがついた女性が慌ててこちらにやって来ると持っていたトレーを置いてユリアーナの顔を覗き込む。彼女は真っ青にやつれた顔で目に涙を浮かべて体を震わせている。


「お嬢様!今すぐ奥様とお医者様を呼んで参ります!ああ、ベッドから降りてはいけませんからね!お食事と着替えを用意して、あとは何が必要かしら?ああもうとにかく呼んで参ります!!」


彼女はばたばたと音を立てながら部屋から出て行った。あれはエミリアの侍女のソフィアだ。慌てるとその場で足をばたつかせる癖がある。そんなことをエミリアの身体に記憶から読み取りながら心を落ち着かせた。今のうちにちゃんと手筈通りできるように心の準備をしなくては。ユリアーナは毛布を掴む手に力を入れた。





「エミリアちゃん!ああ、私の可愛いエミリア!目が覚めて本当によかったわ!痛いところはない?あなた三日も起きなかったのよ」

「奥様、診察をさせていただいても……」

「ああそうだわごめんなさい。エミリアちゃん、今ブラック先生が診てくれるからね。バーデス、今すぐ旦那様に連絡をしてちょうだい。陛下や王妃様にも伝えるのよ!」


部屋に駆け込んできたエミリアにそっくりな金髪の美女が有無を言わさず話しかけてきてユリアーナは固まった。彼女はエミリアの母親のレイチェル様だ。彼女は涙を流しながらエミリアになったユリアーナを抱きしめると額や頬に何度もキスをしてくる。豊満な乳房がユリアーナの胸に押し付けられてどぎまぎしてしまった。しかもなんとも言えない上品な良い匂いがしてユリアーナは戸惑う。今までこんな風に抱きしめてもらったことがなくてどうすればいいのかわからない。

こほん、と後ろにいる黒髪に白髪が混じった中年男性が咳払いをするとあらごめんなさい、と言ってレイチェル様はユリアーナから渋々離れた。彼はエレガルド帝国出身のブラック医師で現在はレクストン公爵家の専属となっている。大変腕が立つと評判でポーレリア王国内外から依頼が殺到するほどだという。


「エミリアお嬢様、ブラックです。どこか痛むところはありますか?」

「…………」

「お嬢様?」

「あの、どちら様ですか?」

「エ、エミリアちゃんっ!!!!」


エミリアとの打ち合わせ通りに記憶喪失を装ったが、レイチェル様が突然叫んできてびっくりした。ユリアーナはまだ一言しか発していないのに反応がオーバーすぎる。彼女はエミリアと同じ真っ青な瞳から大粒の涙を零していた。


「なんていうことなの!エミリアちゃん、あなたのお母様よ!何も覚えていないの!?」

「奥様、落ち着いてください!」

「落ち着いてなんていられないわ!私のエミリアちゃんがこんなことになっているのに!エミリアちゃんを突き落としたご令嬢は死を持って償ってもらって!絶対に許さないわ!これじゃ婚約がなくなってしまうかもしれないじゃない!ああエミリアちゃんごめんね、ごめんね」


レイチェル様は泣きながらユリアーナを抱きしめる。さらっととんでもないことを言っているのに誰も突っ込まないのが怖い。確かに三日前にエミリアは学園で敵対派閥のご令嬢に足を引っかけられて階段から落ちた。三日も目覚めず記憶喪失になったと言われれば許せるものではない。でも家族との縁がほぼなかったユリアーナにとって大した問題ではないと思った。元のユリアーナだったら誰も気にかけないし目覚めるまで放置されている。何もそんなに大袈裟に騒がなくてもいいのでは?


「あ、あの……」

「奥様、お気持ちはわかりますがまずはお嬢様を詳しく診察させてください。すぐに旦那様にも連絡を。それにお嬢様の状態については口外しない方が良いかと」

「そうね、これはある意味重要機密だわ。私は旦那様に手紙を。エミリアちゃん、お母様は用事を済ませたらすぐに戻って来るからね。安心して、ここにいる人たちは皆エミリアちゃんの味方よ」


ユリアーナが発言することなく話が終わってしまった。レイチェル様は優しくユリアーナに言い聞かせると額にキスをして退室した。ユリアーナはブラック医師や部屋にいるメイドたちを見るが、全員エミリアの記憶にある人物だったのでひとまず安心する。とりあえずレイチェル様がこの場からいなくなったのでホッとした。全然人の話を聞かないし言いたいことだけ言って出て行ってしまったので正直疲れる。エミリアは一体どうやって受け答えしていたのだろう。記憶を確認しようにも今は人がたくさんいてそれも難しい。出会ったことのないタイプの人間に戸惑うがこれからはエミリアの記憶を頼りに一人でやっていかなくてはならない。不安は尽きないがまずこの場を乗り切ろうとブラック医師の診察を受けた。



誤字脱字報告ありがとうございます。なろう初心者で予約投降のつもりがうっかり普通に投稿してしまったり、誤字脱字報告をつい最近知ったりと機能をよく理解できていないので精進していきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ