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目覚め sideエミリア

ここからエミリアとユリアーナの体が入れ替わります。

ガージル王国第二王女ユリアーナになったエミリア視点です。




真っ白な眩い光に包まれて目を閉じる。そして目を開けると見慣れない天井が見えた。

なにが起こったのかわからない。目を瞬かせながら体を起こそうとしたがズキンと頭痛がして体が酷く重かった。それでもなんとか起き上がると辺りを見回す。古い木製の机や椅子が置かれた寂れた場所だ。どこかの物置小屋のようでとても寒く、窓から覗く空は鈍色に染まっていた。部屋は薄暗く、暖炉があったがそこに火は灯っておらずエミリアの手足は冷たくなっていた。

エミリアはくたびれた粗末なベッドから降りると側にあった薪を暖炉に入れてマッチに火をつける。暖炉に火を起こすなんてやったことがないのに何の違和感もなく一連の作業ができた。

そのまま暖炉で火に当たっていると、暖炉の上に半分割れた鏡が置いてある。そこを覗き込むと真っ黒な髪にアメジストの瞳の少女が写った。一瞬誰かと思い、目を擦ってもう一度鏡を覗くと今度こそはっきり自分の存在を認識する。

その瞬間、女神のこと、元の世界でのこと、ユリアーナのこと、そして悪魔によって死んだことが脳内を駆け巡った。あまりの情報量の多さに頭を抱えるとその場にしゃがみこむ。


「そうだ、私たち、身体を入れ替えて……ここはユリアーナの国で」


静かな小屋でその独り言はやけに鮮明に聞こえた。頭に重く圧し掛かった何かはすでになくなって今は頭がとても冴えわたっている。うーんと、背筋を伸ばすとエミリアは辺りを見回した。

内装も家具も着ている服まで何もかもが質素で粗末なものだった。机の上には食事らしきものが置かれていたが、冷めきったスープには虫が浮いておりパンはカビだらけだ。腕を見るととても細くて骨が浮き出ている。うっすらとだが痣のようなものも複数あった。体はガリガリに瘦せ細っており、肌はカサカサ、髪はストレートで癖こそないが艶がなくみすぼらしい。とても健康的とは言えない状態だった。


「まずは住む場所と食事の改善からね」


にやりと笑うと古い木製のクローゼットを開けた。地味で古いが一応普段着用のドレスがあったのでマシなものを選ぶと手早く着替える。寒いのでコートも一緒に着ると虫の浮いたスープとカビのパンが置かれたトレーを持って部屋を出た。外はどんよりと暗く、今にも雪が降りそうな天気だ。ガージル王国では冬の真っただ中らしい。


「ユリアーナ、言われた通り私の好きにさせてもらうわね」





何も言わずにあんぐりと口を開けた料理人や給仕たちがユリアーナの身体になったエミリアを見つめている。

エミリアは体にある記憶を辿って王宮の調理室へ堂々と入室すると、虫スープとカビパンをどんっと大きな音を立てながら調理台の上に置いた。ここに来るまでに何人かのメイドや従僕たちとすれ違ったが皆反応は同じで驚いて固まっている。何も言われないのをいいことにわざとらしく虫スープを料理人の目の前まで差し出すと、私には無理だからあなたが代わりに食べてと言って押し付ける。ぎょっとしている料理人を無視して同じく調理台に置かれた焼きたてのパンを手に取った。焼きたて特有の香ばしい良い香りがしてなにより温かい。エミリアは両手でパンを包むように持つとその温かさにしばらく浸っていた。そして柔らかいパンを手でちぎって口へ入れるとパンの香りと甘さが口いっぱいに広がる。ジャムやバターがなくてもこのままで何個でも食べれそうだ。エミリアのいたレクストン公爵家でもパンは美味しかったがここのパンも負けないくらい美味しい。空腹だったこともあってぺろりとパンを平らげるともう一つにも手を伸ばした。ユリアーナは普段誰もいない時間帯にこっそり入り、残り物を少量食べて食いつないでいた。しかしエミリアはそんな隠れるようなことはしない。どんなに存在を無視されようと王女であることに変わりはないのだから堂々とその権利を行使するまでだ。何か言われたら言い返すつもりだったが拍子抜けするほど何もいわれなかった。


「ねぇ!今近衛騎士団で性病が流行ってるんですって!ショックなんだけど!」

「そうそう、てのひらや足の裏とか口元に赤いできものができるらしいわ。やだわーせっかく玉の輿を狙ってたのに」

「今病気の出所を調べるのに上層部はてんてこまいなのですってよ」


静かになっている調理室でメイドたちのおしゃべりがやけに大きく聞こえた。彼女たちはそのまま話しながら調理室へやってくるとパンを食べるエミリアを見て絶句する。なにも人がパンを食べているだけでそこまで驚かなくてもいいのでは?結局彼女たちも料理人たちと同様口を開けてその場で固まってしまった。

それを横目にパンを三つ食べ終えると、近くにあったナプキンを広げて焼きたてのパンを三つ包む。料理人たちは何かを言いたそうにしていたがそれを無視してさっさとその場を立ち去った。文句の一つでも言ってやろうかとも思ったがトラブルは避けたいので今は何も言わないでおく。まずはやるべきことを終えてからでも遅くはない。腹が減っては戦はできないし、まずは体力をつけるために一食分の食事を確保したので最初の任務は完了だ。


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