2日目 距離
キリのいいところで終わったら短めになりました。
昼食を終え、再び広場に戻ると、周りをキョロキョロと見渡している不審な三人組がいた。
翔太はこちらを見つけるなり即座に詰め寄り、「どこ行ってた?」と聞く。俺が事情を説明すると、はあとため息をつく。
「ラインしても電話してもなんも反応無いからびっくりしたわ」
俺はそこでようやくラインの存在に気がつく。
「すまん、忘れてた。あっ、しかもおやすみモードになってるわ」
スマホの使用は許可されているが、一応音がならないようにおやすみモードのままにしてしまっていて、通知も着信もならず、気がつくことがなかったのだ。
「いつもしっかりしてるのに、なんでこんなとこで抜けてるんだか⋯」
翔太が頭を額に当ててガックリとする。
「二人とも無事でよかったよー。もう動けるなら先に進もっか」
少しばかりトラブルは起きたが、全員無事に集まり、順路に従って進む事にした。
「ねぇ。シオと何かあった?」
次の目的地、展望台に向かう途中、俺の三歩前に固まっていた四人の中から、高良さんが速度を落とし、スっと俺の隣に付ける。
「何かって程じゃないんだけどね」
俺はさっきまでのことを大まかに話した。
適当に誤魔化すことも出来たし、カッコつけてるようで恥ずかしいから隠したい気持ちもあったが、咲良さんの事に関して俺を頼ってくれる高良さんを前にすると、何故か話さなくてはいけないように思った。
「なるほどねえ。だから⋯」
彼女の中で何か納得がいったように何度も頷く。
「だから⋯?」
「シオとの距離が縮まってたからね。それなら納得だよ」
「縮まったのかな⋯。結局あれから話せてないし」
心当たりのない俺に、高良さんがツッコミを入れる
「いや、物理的な話だよ」
「物理的?手を繋いだりしたわけじゃないぞ?」
「それでも、手を伸ばせば触れれる距離だったでしょ。それってすごい進歩なんだよ」
高良さんは、過去の話も織り交ぜつつ説明する。
咲良さんは、男=恐れる存在、理解できない存在になった時から、男子との間に隔たりを作ったらしい。それが、“相手が手を伸ばしても届かない距離”だった。
コンフォートゾーンという、自分自身が精神的に安心出来る心の領域を、そのまま現実に持ち込んだ結果、この距離感が生まれたと、高良さんは語る。
「もちろん、レジとかだとその距離になることはあったけどね。自分から範囲に男の子を入れたのは、初めてだったよ」
それでね、と高良さんは真剣な目でこちらを見つめる。
「シオは、コンフォートゾーンを広げてるんじゃなくて、自分からゾーンの外に出ようとしてる。だから、少なからずストレスがかかってると思うの⋯。それで⋯さ⋯⋯」
段々といい辛そうに言葉を詰まらせる。その顔には、分かりやすく『頼んでばかりで申し訳ない』と言う表情が浮かんでいた。
「分かった。無理をさせすぎないように頑張ってみるよ」
目の前で咲良さんと腕を組む宮前さんを見て、友達のことをここまで思いやれる高良さんを見て、そして、実際に少しずつ克服をしている咲良さんの姿を思い返して、俺の方から意を決した。
「ありがとう。でも、なんで出会って数週間しか経ってないのに、世話を焼いてくれるの?」
なんで、か。俺も自分に問いかけるが、いまいちパッとした答えが浮かばなかった。
ふと思ったことを答えるとするなら⋯
「多分、生まれつきの性分なんだと思う。目の前で困ってる人をほっとけない、的な」
「やっぱり、音無に頼んで良かった。安心して任せられるよ」
高良さんはすっきりしたいい笑顔で前にいる三人の中に戻った。その後を追って、俺も輪に混ざり、展望台へと歩を進めた。